第4話 優等生が焦り始めると、だいたいろくなことにならない
最近、レオン・アルフェルドの機嫌が悪い。
――というより、分かりやすく不安定だ。
授業中、無駄に発言が多い。
教師の説明を遮る。
周囲の視線をやたらと気にする。
(あー……)
(典型的な“自信が揺らぎ始めた優等生”だ)
本人は認めないが、確実に気づいている。
自分の評価が、少しずつズレ始めていることに。
「では次、対人模擬戦だ」
ガルドの声が演習場に響く。
「一対一。魔力制限あり。
無駄な破壊は禁止だ」
周囲がざわめく。
模擬戦は、目立つ。
評価が露骨に可視化される。
レオンは当然のように前に出た。
「俺が最初にやる」
誰も異論はない。
――いや、できない。
相手は、成績中位の男子生徒。
無難な組み合わせだ。
「始め!」
レオンは即座に火球を放った。
速い。
正確。
だが――
(……力、入れすぎだな)
相手は防御に徹し、距離を取る。
魔力制限がある以上、持久戦は不利だ。
数分後。
「くっ……!」
レオンの動きが鈍る。
焦りが見て取れた。
「どうした、アルフェルド!」
ガルドの声が飛ぶ。
「力を抑えろ!」
「分かっています!」
そう叫びながら、さらに出力を上げる。
(あ、ダメだそれ)
次の瞬間。
火球が制御を失い、地面に直撃した。
――禁止事項。
「試合終了!」
ガルドが即座に止めに入る。
「アルフェルド、減点だ」
演習場が静まり返る。
「な……っ」
レオンの顔が赤くなる。
「今のは不可抗力です!」
「言い訳だ」
ガルドは冷たく言い放つ。
「制御できない力は、力とは言わん」
……おお。
(言うね)
これは、かなり効く。
周囲の生徒たちが、ひそひそと囁き始めた。
「……前から、ちょっと危うかったよな」
「火力頼みって感じ」
「昨日の暴走もあったし……」
レオンの拳が震える。
そして――
視線が、俺に向いた。
いや、正確には。
俺“だけ”を、睨みつけてきた。
「……ノア」
来たか。
「お前、次に出ろ」
「え?」
ガルドが眉をひそめる。
「ノア・エルディンは――」
「無能だからこそです!」
レオンが遮る。
「対戦相手にもならない!
私の実力を証明するには、丁度いい!」
演習場がざわつく。
(……ああ)
(これは、完全に自爆ムーブだ)
ガルドは少し考え、頷いた。
「……分かった。
だが、魔力制限は厳守だ」
「もちろんです」
レオンは勝ち誇ったように笑う。
俺は、内心でため息をついた。
(あーあ)
(“無能相手に無双して評価回復”作戦ね)
(失敗フラグ、きれいに立ってますよ)
模擬戦開始。
俺は、ゆっくりと構える。
何もしない。
動かない。
レオンが、嘲るように言った。
「どうした?
逃げないのか」
「逃げませんよ」
正確には、
逃げる必要がないだけだ。
レオンが火球を放つ。
――速い。
だが。
俺は、半歩ずれただけだった。
火球は、俺の横を通り過ぎる。
ざわり。
「……?」
レオンの眉が動く。
「偶然だ」
二発目。三発目。
全部、当たらない。
俺はただ、
そこにいない位置に立っているだけ。
(見えない風、見えない土)
(触れてないから、誰にも分からない)
レオンの呼吸が荒くなる。
「なぜ……!」
そして。
――足を踏み外した。
自分の魔力の残滓に。
バランスを崩し、派手に転ぶ。
「試合終了!」
ガルドの声。
沈黙。
誰も、すぐに理解できなかった。
勝敗がどうなったのか。
「……アルフェルド」
ガルドが言う。
「説明しろ」
レオンは、何も言えなかった。
俺は、軽く頭を下げる。
「ありがとうございました」
ただ、それだけ。
演習場は、完全に静まり返っていた。
(はい)
(これで、第一段階クリア)
――まだ、ざまぁじゃない。
でも。
もう、戻れない。
優等生は一度転び始めると、
必ず“自分から”転落していく。
俺は無能の顔のまま、
静かに演習場を後にした。
面倒なことが、
本格的に始まりそうだった。
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