第39話 その条件は、想像以上に重かった
決定から三日。
管理施設の空気が、
わずかに変わった。
忙しくなった、
というわけではない。
言葉が慎重になった。
それに、
気づいたのは俺だけだったかもしれない。
廊下で、
管理担当の女性とすれ違う。
「おはよう」
「おはようございます」
一瞬、
何か言いかけて、
やめたように見えた。
(……気のせいか)
午前。
同行任務の事前確認。
いつもの隊長と、
新しい副官。
副官は、
俺を見るなり
少しだけ姿勢を正した。
「……条件の件ですが」
隊長が、
先に口を開く。
「現場で共有された」
「全員、
了承している」
「……俺の?」
「そうだ」
その言い方が、
妙に重い。
「一つ目の条件」
「判断をしない」
「異変は報告するが、
指示は出さない」
副官が、
頷きながら言う。
「現場判断は、
すべて指揮官が行う」
「あなたは、
情報源の一つとして扱う」
“戦力”ではない。
“装置”でもない。
ただの、
情報源。
それが、
逆に異質だった。
「二つ目」
隊長が続ける。
「あなたがいる前提で、
無理な作戦は立てない」
「これが、
一番きつい」
副官が、
苦笑する。
「正直に言えば、
頼りたくなる」
「だが、
それを自制しなければならない」
頼られない方が、
楽だ。
だが、
頼れない側は大変らしい。
「三つ目」
隊長の声が、
少し低くなる。
「あなたがいなくなって
問題が起きても」
「責任を、
あなたに帰さない」
その一言で、
空気が張りつめた。
副官が、
小さく呟く。
「……覚悟が、
要りますね」
誰も否定しなかった。
責任を引き受けない存在を、
前提に組み込む。
それは、
現場にとって
かなりの負荷だ。
「……すみません」
思わず、
口に出た。
隊長は、
首を振る。
「謝るな」
「むしろ、
ありがたい」
「何が、
起きても」
「誰の責任かが、
はっきりする」
その言葉で、
少しだけ納得した。
午後。
管理施設の一室で、
調停局の男と話す。
「現場の反応は?」
「混乱している」
「だが、
反発は少ない」
「……意外ですね」
男は、
淡々と答える。
「彼らは、
“保証されない安全”より」
「責任の所在が明確な不確実性を
選んだ」
それは、
大人の判断だ。
「一つだけ、
問題がある」
男が続ける。
「何ですか」
「君の条件は、
“国家にも適用される”」
その意味が、
すぐには分からなかった。
「つまり」
「君がいなくなって
何か起きても」
「国家は、
君を理由に
言い訳ができない」
俺は、
小さく息を吸う。
「……それ、
大丈夫なんですか」
男は、
少しだけ笑った。
「大丈夫ではない」
「だが」
「それを飲める国家でなければ、
君と関わる資格がない」
重い言葉だった。
その夜。
部屋に戻り、
窓の外を見る。
風が、
静かに流れている。
変わらない。
何も、
変わっていない。
それなのに。
俺の一言が、
想像以上の重さで
世界に落ちていた。
(……俺、
そんなつもりじゃ)
思いかけて、
やめる。
つもりは、
関係ない。
選んだ。
それだけだ。
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