第38話 協力はするが、責任までは引き受けない
その呼び出しは、
静かだった。
予定表に、
ただ一行。
決定確認
小会議室。
顔ぶれは、
これまでで一番少ない。
調停局の男。
騎士団の士官。
管理担当の女性。
誰も、
急かさない。
調停局の男が、
淡々と口を開く。
「考えは、
まとまったか」
俺は、
少しだけ間を置いて答えた。
「……はい」
深呼吸する。
言葉を選ぶ必要は、
ない。
「条件付き協力を、
選びます」
誰も驚かない。
想定内だ。
だが、
ここからが本題だった。
「ただし」
俺は、
はっきり続ける。
「三つ、
条件を付けさせてください」
士官が、
眉を上げる。
「言ってみろ」
「一つ」
「俺は、
判断をしません」
「異変を感じても、
報告はしますが」
「どうするかは、
そっちで決めてください」
調停局の男が、
即座にメモを取る。
「二つ」
「俺の存在を理由に、
無理な作戦を
立てないでください」
「“俺がいるから大丈夫”
って前提は、
やめてほしい」
士官が、
小さく息を吐く。
「……耳が痛いな」
「三つ」
ここだけは、
少し言葉を選んだ。
「俺がいなくなって
何か起きても」
「俺のせいにしないでください」
部屋が、
一瞬だけ静まり返る。
管理担当の女性が、
ゆっくり頷いた。
「……それが、
一番の本音ね」
調停局の男が、
考え込む。
「責任を、
徹底的に拒否する」
「英雄の条件とは、
正反対だ」
俺は、
少しだけ笑った。
「英雄なんて、
最初から
向いてません」
士官が、
腕を組む。
「その条件で、
国家が得るものは?」
正直に答える。
「……多分、
今まで通りです」
「俺がいると、
多少マシになる」
「でも、
保証はしません」
調停局の男は、
しばらく黙っていた。
やがて、
静かに言う。
「……受け入れる」
その言葉に、
士官が目を見開く。
「本気か?」
「本気だ」
「彼は、
“できないこと”を
正直に言っている」
「それは、
今一番信頼できる」
管理担当の女性が、
小さく息を吐いた。
「……条件付き協力、
成立ね」
書類が差し出される。
俺は、
署名する。
派手な儀式も、
拍手もない。
ただ、
一行の名前。
それだけ。
会議室を出る。
廊下の空気は、
いつもと変わらない。
だが。
(……もう、
戻れないな)
それでいい。
主導権はいらない。
責任も負わない。
ただ、
そこにいる。
それが、
俺の選択だ。
その日の夜。
管理担当の女性が、
ぽつりと言った。
「……あなた、
ずるいわね」
「そうですか?」
「ええ」
「でも」
少し笑って続ける。
「初めて、
対等な条件を
突きつけてきた」
俺は、
何も答えなかった。
英雄じゃない。
救世主でもない。
それでも。
世界は、
俺を前提に
動き始めた。
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