第36話 それは拒否ではなく、静かな隔離だった
翌日。
俺は、
研究院の施設に案内されていた。
管理担当の女性はいない。
代わりに、
白衣を着た職員が前を歩く。
「ここが、
隔離観測案で使用される予定の区画です」
淡々とした説明。
廊下は、
やけに明るい。
窓も多く、
閉塞感はない。
(……意外と、
普通だな)
そう思ったのも、
束の間だった。
「生活環境は、
今とほぼ同等」
「食事、医療、
余暇も保証されます」
「外部との接触は、
制限されますが」
「……どの程度?」
聞くと、
職員は立ち止まる。
「直接の接触は、
原則禁止」
「通信は、
監視下でのみ許可」
「同行任務は、
行いません」
分かりやすい。
切り離す、
ということだ。
部屋を見せられる。
広さは十分。
家具も揃っている。
窓の外には、
庭も見える。
「……ここで、
何をするんですか」
職員は、
即答した。
「特に、
何もしません」
「定期的な検査と、
観測のみです」
「……いつまで」
「未定です」
その言葉で、
全てが繋がった。
未定。
保留。
結論なし。
つまり――
終わらない。
「ここでは、
君が“原因”かどうかを
調べる」
「だが、
刺激は避ける」
職員は、
真面目に言う。
「だから、
何も起こらない環境を
維持する」
それは、
優しさだ。
だが。
(……それ、
生きてるって言えるのか)
部屋を出る前、
職員が一言付け足す。
「君が危険だと
判断されたわけではない」
「だが、
安全だとも
言い切れない」
正直だ。
正直すぎて、
胸が重くなる。
管理施設へ戻る馬車の中。
窓の外を、
ぼんやり眺める。
(……何もしない)
(何も起こらない)
(誰にも影響しない)
それは、
楽なはずだ。
責任もない。
判断もない。
でも。
(……それ、
俺が一番嫌なやつだ)
無能扱いされていた頃、
放置は楽だった。
だが、
今提示された放置は――
終身刑に近い。
管理施設に戻ると、
管理担当の女性が待っていた。
「……見たのね」
「はい」
「どう思った?」
少し考えてから、
答える。
「……丁寧ですね」
彼女は、
小さく笑った。
「ええ」
「だから、
余計に残酷なの」
その言葉に、
強く頷いてしまう。
「拒否、
って言葉を使ってるけど」
「実際は、
誰にも迷惑をかけない形で
消えるだけ」
彼女は、
淡々と続ける。
「国家としては、
最も安全」
「でも」
俺は、
はっきり言った。
「俺は、
それを選びたくない」
初めて、
即答だった。
理由は、
単純だ。
(……何も起こらない場所で、
時間だけ過ぎるのは)
(さすがに、
耐えられない)
その夜。
部屋で、
一人考える。
選択肢は、
まだ残っている。
だが。
一つは、
完全に消えた。
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