第32話 それはもう、偶然では済まされなかった
次の任務は、
これまでとは少し違っていた。
目的地は、
魔獣発生頻度が高いとされる
丘陵地帯。
公式の危険度は、
中。
「……今回、
少し荒れるぞ」
隊長が、
出発前にそう言った。
俺は、
黙って頷く。
(……荒れる、
予定なんだな)
隊列を確認する。
前回までと同じ顔ぶれ。
だが、
配置が違う。
俺は、
中央。
守るでもなく、
守られるでもない。
ただ、
外せない位置。
出発。
丘陵に入ると、
空気が重くなる。
魔力の流れが、
複雑だ。
(……本来なら、
厄介な場所だよな)
斥候役が、
緊張した声を出す。
「反応、
複数」
「距離は――
思ったより遠い」
隊長が、
即座に判断する。
「このまま進む」
迷いはない。
俺は、
その判断に違和感を覚えた。
(……突っ込むのか)
普通なら、
様子を見る。
だが、
隊は進む。
数分後。
魔獣の気配が、
消えた。
「……え?」
斥候役が、
思わず声を上げる。
「散った?」
「いや……
最初から、
寄ってきていない」
丘の向こう。
本来なら、
鉢合わせするはずの地点。
そこには、
何もいなかった。
隊長は、
無言で手を上げる。
停止。
数秒、
全員が息を潜める。
何も起きない。
記録担当が、
端末を操作する。
「……魔獣反応、
圏外です」
完全に、
予測とズレている。
帰路。
隊長は、
終始無言だった。
管理施設に戻ると、
俺は別室に通された。
今回の同席者は、
隊長と、
見覚えのない男。
年配。
立場が上だと分かる。
「ノア・エルディン」
男が名を呼ぶ。
「今日の任務、
どうだった?」
「……何も、
起きませんでした」
「そうだな」
男は、
あっさり認めた。
「それについて、
一点だけ確認する」
「君は、
今日の行動で
何か意識したか?」
「いえ」
即答。
「魔力操作は?」
「していません」
「違和感は?」
「……ありましたが」
「言語化できません」
男は、
満足そうに頷いた。
「結構」
隊長が、
ここで口を開く。
「……報告します」
「これまで四回の任務で」
「ノアが同行した場合、
魔獣との交戦はゼロ」
「離した場合のみ、
小規模接触が発生」
「偶然とするには、
再現性が高すぎます」
男は、
静かに息を吐いた。
「……やはり、
そうか」
俺は、
話についていけない。
ただ、
名前が何度も出ている。
「結論は出すな」
男が言った。
「評価もしない」
「だが――」
一拍。
「前提条件として扱え」
隊長は、
短く頷く。
「配置は、
戦術扱いにする」
「本人には?」
「説明不要」
その言葉に、
俺は少しだけ眉をひそめた。
「……俺、
何かやらかしてます?」
思わず聞く。
男は、
一瞬だけこちらを見る。
そして、
穏やかに言った。
「いいや」
「君は、
何もしていない」
それが、
一番困る答えだった。
「だが」
「君がいる状態を、
基準にする」
それだけ言って、
話は終わった。
部屋を出る。
廊下は、
いつも通り静かだ。
(……基準、
ね)
無能扱いされていた頃、
俺は基準の外だった。
今は、
基準そのものらしい。
正直、
よく分からない。
だが。
この瞬間で、
はっきりしたことがある。
俺はもう、
「同行してもいい存在」じゃない。
同行しないと困る存在に、
なってしまった。
それを、
俺だけが知らないまま。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




