第31話 それが迷惑なら、最初から言ってほしかった
その日、
俺は一人で昼食を取っていた。
管理施設の食堂。
相変わらず、
静かだ。
最初は気楽だった。
今は――
少し、落ち着かない。
(……最近、
俺がいる前提で
物事が進んでるよな)
同行任務。
配置。
書類の備考欄。
どれも、
俺に説明はない。
ただ、
“そうなっている”。
午後。
管理担当の女性に呼ばれた。
小さな応接室。
彼女は、
書類を一枚置く。
「次の任務」
「また、
同行ですか」
「ええ」
即答だった。
「……俺、
邪魔じゃないですか」
言葉が、
先に出た。
彼女は、
一瞬だけ驚いた顔をする。
「どうして、
そう思う?」
「任務が、
変わってる」
「俺がいると、
静かすぎる」
言いながら、
自分でも曖昧だと分かる。
「……それ、
迷惑ですよね」
沈黙。
彼女は、
すぐに否定した。
「違う」
きっぱり。
「少なくとも、
現場からは
苦情は出ていない」
「でも」
「ノア」
彼女は、
言葉を遮る。
「あなたが“原因”だと
断定されたことはない」
「だから、
迷惑だとも
判断されていない」
論理としては、
正しい。
だが。
(……否定の仕方が、
曖昧だな)
「……なら」
俺は、
少しだけ言葉を選ぶ。
「俺が、
いない方が
普通なら」
「その方が、
楽じゃないですか」
彼女は、
少し困ったように笑った。
「“普通”が何か、
まだ分からないの」
その答えは、
正直だった。
「あなたがいる状態が
普通かもしれないし」
「いない状態が
異常かもしれない」
「……逆も、
あり得る」
俺は、
何も言えなくなる。
夕方。
廊下で、
例の隊長とすれ違った。
「……あ」
向こうから、
声をかけてきた。
「調子はどうだ」
「普通です」
いつもの答え。
隊長は、
少しだけ迷ってから言う。
「……無理はするな」
「無理?」
「気に病むな、
という意味だ」
その言い方が、
遠回しすぎる。
「俺、
足引っ張ってませんか」
思い切って聞いた。
隊長は、
足を止めた。
「……逆だ」
「え?」
「お前がいると、
判断が遅れる」
「慎重になる」
「だから、
疲れる」
正直な言い方だった。
「……すみません」
反射的に言う。
隊長は、
首を振った。
「謝るな」
「それが、
“悪いこと”かどうかは
まだ決まっていない」
それ以上、
話は続かなかった。
夜。
部屋に戻り、
椅子に座る。
(……迷惑なら)
(最初から、
言ってほしかった)
無能扱いされていた頃は、
分かりやすかった。
期待されない。
干渉されない。
今は、
違う。
否定もされない。
肯定もされない。
ただ、
“扱いづらい”。
(……それ、
一番面倒だな)
俺は、
ベッドに倒れ込む。
誰も、
答えをくれない。
だが。
この状況が続く限り、
俺は
“外されない”。
それだけは、
分かってきた。
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