第30話 それを前提にしない限り、説明がつかなくなった
三度目の同行任務は、
これまでで一番静かに始まった。
人数は変わらない。
目的地も近い。
違うのは――
最初から、俺が隊列に組み込まれていることだけだ。
「配置は、このまま行く」
隊長が、短く言う。
「途中変更なし」
誰も異を唱えない。
俺は、
斥候役のすぐ後ろ。
前回、
一度も離されなかった位置だ。
(……検証、
ってやつか)
馬車が進む。
街道は、
前回と同じ道。
だが、
雰囲気が違う。
整っている。
あまりに。
斥候役が、
低く呟いた。
「……反応、
最初から薄いな」
「気配が、
寄らない」
隊長は、
何も言わない。
ただ、
歩調を一定に保つ。
俺は、
足元を確認しながら進む。
魔力の流れは、
均一。
乱れがない。
(……安定、
しすぎだろ)
だが、
口に出す理由はない。
途中、
小さな崖を通る。
以前なら、
魔獣の巣があっても
おかしくない場所。
「……何も、
いないな」
斥候役が、
ぽつりと言う。
隊長が、
初めて立ち止まった。
「確認する」
全員が止まる。
数分。
何も起きない。
魔獣の気配は、
完全に消えている。
隊長は、
静かに言った。
「……記録しろ」
記録担当が、
黙って頷く。
その顔には、
戸惑いが浮かんでいる。
帰路。
誰も、
雑談をしなかった。
管理施設に戻ると、
即座に報告が上げられる。
俺は、
別室に通された。
待っている間、
何もすることがない。
(……俺、
何やってるんだろうな)
しばらくして、
管理担当の女性が来た。
「ノア」
「はい」
「今日の任務、
どう感じた?」
少し考える。
「……前回より、
静かでした」
「理由は?」
「分かりません」
正直に答える。
彼女は、
視線を落とした。
「そう」
それだけ。
別の部屋では、
隊長と上層が話している。
――俺の知らないところで。
「偶然では?」
「三回続けば、
それは仮説になる」
「検証条件は?」
「彼がいること」
短いやり取り。
結論は、
言葉にされなかった。
だが。
配置が、前提になった。
その日の夜。
俺の部屋に、
新しい書類が届いた。
同行任務欄。
備考に、
短く書かれている。
原則、
任務開始から終了まで同行。
(……原則、
って)
俺は、
書類を閉じる。
納得は、
していない。
だが、
逆らう気もない。
ただ一つ、
分かってきたことがある。
これは、
“確認”じゃない。
もう、
前提として扱われている。
それを、
誰も口に出さないだけだ。
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