第3話 無能のはずなのに、なぜか後処理を任されます
合同魔法演習の翌日。
教室の空気は、ほんのわずかに変わっていた。
露骨に嘲笑されることは減った。
代わりに増えたのは――視線。
観察するような、探るような視線だ。
(あー……)
これはあれだ。
「昨日のアレ、なんだったんだろう」フェーズ。
だが、誰も口には出さない。
なぜなら結論は最初から決まっているからだ。
――無能が何かできるわけがない。
人は一度貼ったレッテルを、そう簡単には剥がさない。
「静かにしろ」
ガルド教師が教室に入ってくる。
「今日は演習の後処理だ。
昨日破損した魔力制御具の点検を行う」
黒板に、作業分担が書かれていく。
そして。
「……ノア・エルディン」
はい。
「お前は倉庫で予備具の整理だ」
どっと笑いが起きた。
「雑用係か」
「無能にはお似合いだな」
うん、知ってた。
「承知しました」
俺は静かに立ち上がり、教室を出る。
――が。
「待て」
呼び止めたのは、ガルドだった。
「……壊れた制御具も持っていけ」
「え?」
「どうせ役に立たん。
倉庫でまとめて廃棄予定だ」
そう言って、木箱を渡された。
(ああ、なるほど)
壊れた魔道具。
普通は専門技師が触るものだ。
(まあ、捨てるだけなら問題ないか)
倉庫は、学園の裏手にある古い建物だった。
埃っぽく、静かで、人が来ない。
俺は木箱を開け、中身を確認する。
――魔力制御具。
確かに壊れている。
だが。
(これ、破損じゃないな)
設計上の欠陥だ。
魔力の流れが一方向に偏りすぎている。
(……これ、誰が作ったんだ)
まあいい。
俺は指先で、ほんの少しだけ調整した。
ほんの少し。
無意識にやる程度。
――カチリ。
魔力の流れが安定する。
(あ、直っちゃった)
……まあ、いいか。
どうせ“廃棄予定”だし。
俺はそれを箱に戻し、他の制御具も同じように処理していく。
――数分後。
「……なんだ、これは」
背後から声がした。
振り向くと、ガルドが立っていた。
(あ、まずい)
完全に不意打ち。
「お前、何をしている」
「整理を」
「そうじゃない」
ガルドは箱の中を覗き、眉をひそめる。
「……これ、正常に動いているぞ」
「え?」
わざとらしく首を傾げる。
「本来、暴走していた制御具だ。
だがこれは……」
ガルドが魔力を流すと、制御具は安定して反応した。
沈黙。
数秒。
「……偶然か?」
(そういうことにしておいてください)
俺は困ったように笑った。
「たぶん、元から壊れてなかったんだと思います」
ガルドは俺をじっと見つめる。
だが、やがて視線を逸らした。
「……もういい。戻れ」
「はい」
倉庫を出るとき、背中に視線を感じた。
(あー……)
これは、面倒の種だ。
教室に戻ると、レオンが腕を組んで待っていた。
「ノア」
来た来た。
「昨日の演習だが……
教師に呼ばれた」
「そうですか」
「私の判断は完璧だったと、改めて評価された」
ドヤ顔。
(……うん)
(今、完全に勘違いしてる)
「やはり、無能を連れていても勝てる私こそが――」
「すごいですね」
適当に相槌を打つ。
レオンは満足そうに頷いた。
「分かっているならいい。
お前は今後も後方で――」
そのとき。
「アルフェルド」
ガルドが教室に入ってきた。
「次の演習だが、お前は前に出るな」
「……は?」
「指示を待て。
独断専行は、危険だ」
教室が静まり返る。
レオンの顔が、ぴくりと引きつった。
「なぜですか?」
「昨日の暴走を忘れたか」
「……!」
レオンは言葉に詰まった。
(あーあ)
(これは効く)
ガルドはそれ以上何も言わず、去っていった。
残された空気は、微妙に重い。
レオンが俺を睨む。
「……何か知っているのか」
「何も」
即答。
「……そうか」
だが、その目には疑念が残っていた。
――いい傾向だ。
疑い始めた人間は、
必ず自分から失敗を重ねる。
俺は机に突っ伏し、内心で呟いた。
(さて……)
(そろそろ、自爆用の導火線に火がついたな)
無能のままでいるのも、
意外と忙しい。
でも――
(まだだ)
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