第26話 納得はしていないが、逆らう気もなかった
馬車は、
思ったより静かに止まった。
「到着だ」
御者の声。
窓の外を見ると、
石造りの建物がいくつか並んでいる。
高い塀はない。
見張り塔もない。
(……管理施設、
って聞いてたけど)
(見た目は、
普通だな)
馬車を降りると、
空気が少しだけ澄んでいる。
王都から、
それほど離れていないはずなのに。
「ノア・エルディン」
声をかけてきたのは、
見覚えのない女性だった。
制服は着ていないが、
所作がきっちりしている。
「私は、
ここでの生活管理を担当する」
「案内する。
ついてきて」
「……はい」
建物の中は、
本当に普通だった。
廊下。
個室。
簡素な食堂。
学園の寮と、
ほとんど変わらない。
「規則は三つだけ」
歩きながら、
彼女は言う。
「一つ。
外出は申請制」
「二つ。
無断行動は禁止」
「三つ。
こちらからの指示には従う」
「……学生の寮より、
ちょっと厳しいくらいですね」
率直に言うと、
彼女は少しだけ笑った。
「そう思えるなら、
問題ない」
部屋に通される。
窓はある。
鍵もある。
閉じ込められている、
という感じはしない。
ただ――
(……自由、
ではないな)
荷物を置き、
椅子に座る。
静かだ。
だが、
学園で感じていた“放置”とは違う。
ここでは、
確実に見られている。
(納得は、
していない)
説明がない。
理由も曖昧だ。
それでも。
(無駄に逆らう気も、
ない)
今は、
それが一番合理的だと分かる。
昼。
食堂で、
簡単な食事を取る。
他に人はいない。
「……一人か」
不思議と、
寂しさはなかった。
午後。
部屋に戻ろうとすると、
先ほどの女性が声をかけてきた。
「ノア」
「はい」
「明日から、
“同行”の予定が入る可能性がある」
「……同行?」
「詳細は、
まだ確定していない」
その言い方が、
少しだけ引っかかる。
「危険なものですか」
彼女は、
一拍置いて答えた。
「危険にならないようにするためのもの」
それは、
答えになっているようで、
なっていなかった。
「拒否権は?」
「形式上はある」
「……形式上、
ですか」
彼女は、
否定しなかった。
「今日は、
ここまで」
「何かあれば、
呼び出しを」
彼女が去った後、
俺は窓の外を見る。
風が、
穏やかに流れている。
魔力の流れも、
安定している。
(……静かすぎるな)
学園にいた時も、
静かな方だった。
だが、
これは別の静けさだ。
何も起きないように、
整えられている静けさ。
その夜。
簡単な書類が届いた。
内容は、
同行候補者としての
事前登録。
職務欄は、
空白。
(……雑用、
って書かれてないな)
少しだけ、
違和感を覚える。
だが、
今はそれ以上考えない。
分からないことを、
無理に分かろうとすると、
ろくなことにならない。
それは、
学園で学んだ。
俺は、
書類を閉じ、
ベッドに横になる。
納得はしていない。
でも、
逆らう気もない。
この状況が、
どこへ繋がっているのか。
それを知るのは、
もう少し先の話だ。
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