第25話 無能だったはずの生徒が、いなくなった
翌日。
王立魔法学園は、
いつも通り授業を始めた。
鐘が鳴り、
生徒たちが教室に入る。
特別なことは、何もない。
――少なくとも、表向きは。
「……あれ?」
後列の席を見て、
一人の生徒が首を傾げた。
「ノア、
今日いないのか?」
「さあ?」
「昨日、
荷物まとめてなかったか?」
小さなざわめきが起きる。
だが、
すぐに別の話題に流れた。
無能扱いされていた生徒が、
一人いなくなっただけだ。
騒ぐほどのことじゃない。
――はずだった。
実技演習。
いつもなら、
最後尾で基礎練習をしている
生徒がいない。
「……」
ガルドは、
一瞬だけ視線を巡らせる。
何も言わない。
演習は、
滞りなく進む。
事故もない。
失敗もない。
それなのに。
(……妙だな)
ガルドは、
胸の奥に残る違和感を
振り払えずにいた。
昼休み。
例の平民の生徒が、
一人でパンを齧っている。
「……静かだな」
誰に言うでもなく、呟く。
騒がしい連中はいる。
笑い声もある。
だが、
何かが欠けている。
それが何かは、
言葉にできない。
午後。
旧監視施設の再調査に関する
連絡が入った。
「……調査、
難航しています」
支援部隊の報告。
「内部の魔力が、
安定しすぎている」
「再現性がなく、
原因を特定できません」
学園長は、
短く頷いた。
「そうか」
それ以上、
何も言わない。
別の教師が、
ぽつりと漏らす。
「……彼がいた時は」
言葉は、
最後まで続かなかった。
夕方。
教室の掃除当番が、
机を拭いている。
後列の席。
いつもなら、
雑用を手伝っていた
生徒はいない。
「……まあ、
いなくても困らないか」
そう言った生徒は、
すぐに首を傾げた。
「……いや」
「困らない、
ってわけでもないな」
理由は分からない。
だが、
落ち着かない。
夜。
学園長室。
学園長は、
窓の外を見ながら言った。
「彼がいない状態が、
“正常”だとは――」
一拍。
「もう、
誰も言えなくなっている」
副学園長は、
静かに頷いた。
学園は、
何も変わっていない。
時間割も、
制度も、
授業内容も。
変わったのは、
たった一つ。
無能だったはずの生徒が、
そこにいない。
それだけ。
だが。
その“空白”は、
思った以上に
大きかった。
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