第106話 エピローグ 揺らぎのある日常
それから、しばらく経った。
揺らぎは、日常になっていた。
『微小揺らぎ:検知』
警報が鳴る。
だが、
誰も慌てない。
「東側、対応入ります」
「中央、参考値出して」
やり取りは落ち着いている。
速くはない。
正確でもない。
だが、
自然だ。
少し遅れる。
少しずれる。
それでも、
問題は起きない。
止まらないから。
エルドは管制室にいる。
以前と同じ場所。
だが、
景色は変わっている。
モニターの波形。
ばらばら。
歪んでいる。
だがそれは、
“正常”だった。
「……慣れましたね」
ミアが言う。
少し笑いながら。
エルドは頷く。
「はい」
短い返事。
「前の方が楽でしたけど」
「そうですね」
それも否定しない。
完璧な世界は、
楽だった。
考えなくていい。
迷わなくていい。
任せればいい。
でも、
止まった。
だから今は、
考える。
迷う。
選ぶ。
その分、
疲れる。
だが、
動いている。
カルディアは別の端末の前にいる。
以前よりも、
静かだ。
だが目は動いている。
細かく。
注意深く。
「……少し遅いですね」
小さく言う。
エルドが振り向く。
「北側の対応」
「ああ」
エルドは画面を見る。
「もう少し早くてもいい」
「はい」
カルディアは頷く。
そのやり取りは、
以前とは違う。
指示ではない。
確認だ。
彼女はもう、
断言しない。
その代わり、
見ている。
全体を。
現場を。
人を。
昼。
街。
揺らぎはある。
ほんのわずかに、
地面が沈む。
空気が歪む。
だが、
人は止まらない。
誰も驚かない。
少し足を止めて、
また歩く。
それだけ。
それで済む。
屋上。
風が吹いている。
強さはばらばら。
一定ではない。
ノアがいる。
相変わらず、
何もしていない。
「どうだ」
エルドが聞く。
珍しく。
ノアは空を見る。
「動いてるな」
短い言葉。
それで十分だった。
エルドは頷く。
「はい」
風が変わる。
少しだけ強くなる。
また弱くなる。
一定ではない。
揃っていない。
だが、
止まらない。
エルドは空を見る。
雲が流れている。
同じ形ではない。
同じ速さでもない。
それでも、
進んでいる。
カルディアが来る。
少し遅れて。
「……まだ無駄が多いですね」
言う。
エルドは笑う。
「はい」
カルディアも、ほんの少しだけ笑う。
「改善できます」
「少しずつ」
その言葉。
以前とは違う。
完璧ではなく、
途中を前提にしている。
エルドは頷く。
「止まらない範囲で」
「はい」
風が吹く。
揺れる。
ばらばらに。
それでいい。
それがいい。
世界は、
少し不安定で、
少し不完全で、
それでも、
動き続けている。
エピローグがあと1話あります。
最後までお付き合いください。




