第10話 無能の日常は、なぜか少しだけ過ごしやすくなった
最近、学園生活が少しだけ楽になった。
いや、正確に言うと――
雑音が減った。
以前は、廊下を歩くだけで聞こえてきた。
「無能だろ、あいつ」
「鑑定不能って笑えるよな」
そういう声が、ほとんどなくなった。
(……妙だな)
別に評価が上がったわけじゃない。
教師の態度も、公式には何も変わっていない。
俺は相変わらず最下位扱いだし、
課題も基礎中心だ。
それなのに。
――絡まれない。
レオン・アルフェルドも、
最近は俺に近づいてこなかった。
視線は向けてくるが、
声はかけない。
(避けられてる……?)
理由は分からない。
分からないから、
深く考えない。
実技の時間。
「ノア・エルディン」
ガルドが名前を呼ぶ。
「今日は、ここを使え」
指されたのは、
演習場の端――だが、
障害物の多い、少し難しい区画だった。
周囲が一瞬、ざわつく。
「え、あそこ……?」
「基礎向けじゃなくないか」
俺も、少しだけ首を傾げた。
「……ここ、ですか?」
「ああ」
それ以上、説明はない。
(まあ、いいか)
言われた通り、
指定された課題をこなす。
動作は基礎。
魔力操作も基礎。
ただ、障害物が多い分、
足運びと間合いだけは慎重になる。
結果。
――特に失敗もなく、終わった。
「……安定してるな」
また、ガルドの小さな呟き。
(気のせい、だな)
昼休み。
例の平民の生徒が、
パンを片手にやってきた。
「最近さ」
「はい」
「なんか、お前にちょっかい出すやつ減ったよな」
「そうですね」
「……理由、分かる?」
分からない。
だから、そのまま答える。
「さあ」
「だよな」
彼は苦笑した。
「まあ、いいけどさ」
少し間を置いて。
「変に絡まれるより、
今の方が平和だろ」
「ええ」
それには同意だ。
放課後。
校舎を出るとき、
また、視線を感じた。
今度は、隠そうともしない。
事務棟の窓。
開いたカーテンの向こう。
誰かが、
こちらを“確認”している。
(……ああ)
(これか)
理由は分からないが、
原因はこれだろう。
――見られている。
警戒、というほどではない。
だが、
無関心でもない。
(面倒だな)
それでも。
今のところ、
直接困ることは起きていない。
なら、
余計なことはしない。
俺は、いつも通り学園を後にする。
無能として。
静かに。
――ただし。
胸の奥に残る違和感は、
昨日より、少しだけ重くなっていた。
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