第1話 鑑定不能=無能らしいので、静かに学園生活を送ります
この学園では、
入学時の「鑑定結果」がすべてを決める。
強ければ称賛され、
弱ければ見下され、
反応しなければ――無能。
俺の鑑定結果は、
なぜか「鑑定不能」だった。
説明すれば誤解は解けたかもしれない。
でも、騒ぐのは面倒だったし、
無能扱いされる生活も、案外気楽だった。
だから俺は、
何も言わず、何も主張せず、
静かに学園生活を送ることにした。
……それが、
なぜか一番面倒な選択だったらしい。
王立魔法学園の入学式は、毎年恒例の「公開鑑定」から始まる。
新入生全員が講堂に集められ、壇上に並べられた巨大な鑑定水晶に順番で手を触れていく――それが、この学園における最初の“序列決定”だ。
水晶が光れば適性あり。
色が濃いほど優秀。
反応がなければ――無能。
「次、レオン・アルフェルド!」
名前を呼ばれた少年が、さも当然といった様子で壇上に上がる。
金髪に整った顔立ち。姿勢も良い。周囲の視線を一身に集めながら、水晶に手を置いた。
――瞬間。
水晶が眩い赤光を放ち、講堂がざわめく。
「火属性適性、ランクSS!」
「さすがアルフェルド家……!」
「最初から格が違うな……」
どよめきと賞賛。
レオンは満足そうに微笑み、ちらりとこちらを見てきた。
……はいはい。
どうせ、そうだと思ってましたよ。
そして、鑑定は順調に進み――問題は、俺の番だった。
「次、……えーと、ノア・エルディン」
教師が一瞬だけ名簿を見直したのが分かった。
平民出身の名前は、やはり目に引くらしい。
俺は壇上に上がり、水晶の前に立つ。
周囲の視線は薄い。最初から期待されていない。
「では、鑑定を始める。水晶に手を」
言われた通り、手を置いた。
――が。
何も起きない。
光らない。
色も出ない。
沈黙。
……あれ?
いや、正確には“反応しすぎて、何も表示されていない”のだが、そんなことを説明しても意味はない。
講堂が、ざわついた。
「……反応、なし?」
「鑑定不能だと?」
「無属性……いや、適性なし?」
教師が眉をひそめ、水晶を軽く叩く。
だが結果は変わらない。
「……鑑定不能。属性適性、確認できず」
一瞬の静寂。
次の瞬間、失笑が広がった。
「ははっ、適性なしって……」
「平民だからだろ?」
「よく入学できたな」
ああ、うん。
予想通りの流れ。
俺は深くため息をついた。
――正直、面倒だ。
本当なら全属性に反応して水晶が処理落ちしているだけなのだが、それを言ったところで「言い訳」扱いされるのは目に見えている。
それに。
目立つと、ろくなことがない。
「鑑定不能ということは、実質無能と同義だ」
レオンが、わざとらしく声を張り上げた。
講堂中に聞こえるように。
「学園のリソースを無駄にしないためにも、最低ランクとして扱うべきだろう」
教師たちが顔を見合わせ、やがて一人が頷いた。
「……妥当だな。ノア・エルディンは、クラス最下位とする」
決定。
あっさりと。
周囲から、完全に“下”を見る視線が向けられる。
――はい、確定演出入りました。
俺は軽く頭を下げ、壇上を降りた。
抗議もしない。反論もしない。
内心では、こう思っているが。
(まあ、予想通り。
鑑定水晶くん、今日も仕事しすぎだよ)
クラス分け後。
俺の席は、教室の一番後ろ。壁際。
隣の生徒は、露骨に距離を取ってきた。
「……無能と関わると、評価下がりそうだし」
うんうん。
分かる分かる。
昼休み、レオンが取り巻きを連れて俺の席まで来た。
「おい、ノア」
あ、来た。
テンプレイベント。
「自覚はあるか? お前はこの学園で最も価値がない存在だ」
「はあ」
「努力でどうにかなるレベルじゃない。潔く雑用に徹することだな」
取り巻きが笑う。
教師も止めない。
――なるほど。
この学園、思ったより分かりやすい。
「分かりました」
俺がそう答えると、レオンは拍子抜けした顔をした。
「……は?」
「静かに過ごします。目立たないように」
「……そうか。身の程を理解したなら、それでいい」
満足そうに去っていく一団。
俺は椅子にもたれ、天井を見上げた。
(さて……)
静かに過ごすつもりではある。
あるのだが。
(あの手の人間、
だいたい自分から面倒事を持ち込んでくるんだよな)
経験則で知っている。
力を隠している者の平穏は、
周囲の“勘違いした優秀者”によって壊される。
俺は小さく笑った。
「まあ、いいか」
どうせ。
「そのうち、勝手に自滅するだろ」
――その時まで、
俺は無能の仮面を被っていればいい。
面倒じゃなければ、それでいい。
……どうせ、すぐ面倒になるんだろうけど。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




