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雨のあとには  作者: 斗口なな
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永遠の愛。今の私にとっては、、、


恋人と喧嘩をしようが時間とともに傷口は、かさぶたとなり、ぽろぽろと落ちて少しずつ癒える。

はず。





『ごちそうさまでした。』


今日の晩御飯は、肉じゃが、きゅうりの漬物、お味噌汁、ごはん、ほうれんそうのお浸し。理想の奥さんを貰ったと周りが嫉妬してしまう献立だ。


「紬、何してるのー?今日は俺が食器洗い当番だよ。ほら、座って座って。」

「え、いいのいいの!今日は二人でやりたい気分なんだよね。ほら、結婚生活っぽいじゃん」


紬は口角を少し上げぎこちなく食器に泡をつけた。その泡は、水を流す前に間でもなく食器から滑り落ちる。


「、、、何かあったなら聞くよ?」


少しの表情も見落とさずに顔を少しのぞき込むように聞く。理想の旦那像だ。


「、、職場にさ、田中さんっているじゃん?。お客さんにアンケートのプリントを渡したんだけど、それが残り1枚だったの。なのに渡しっちゃったんだよ?ひな形のデータ探すために事務所のパソコンを何台も何台もはしごして探したんだから!、、本当にあり得なかったよ」


紬は右足のかかとを少し浮かし小さく左右に揺らす。

ここ最近の紬は自分には緩いが仕事の話となれば話は別だ。蒼空は、そんな紬が可愛く愛おしくありたい。ただ我儘を言うと仕事の時のような1+1=2のような当然の事を淡々とこなして見せる紬の姿をプライベートでも見る事が出来たらなと少し思う所でもある。


「私の事は良いんだよ、蒼空は悩み事とかあったりしないの?」

「うーん、仕事もプライベートもこの上なく充実してるからないかな」

「仕事も、プライベートも、かぁ。この先、私は少しだけ不安だなぁ」  


体温を、ほんのり感じる距離感で食器の後片づけを一緒にしながら紬は少し酔った事を口走りそうになり、気持ちを落ち着かせる為にコップに水を注ぎ一口飲んで自制した。


「少し、、?」

「うん、少しだけ。将来の事、、とか?」

「、、、そっかぁ」


仕事ではない限りは、恋人関係や、その先の結婚などは、ノリ半分。本気半分。すべてに対し漠然とした何かに悩み度々立ち止まる。大人たちなど、基本勢いで結婚をし大義名分などは後から付けるのだろう。紬はそう思ってやまない

、と思ってるんだろうと蒼空は勝手に仮定する


「少しだけの不安なの?」

「うーん。どうだろ。でも何とかなるとも思っちゃうんだよ。。人生も結婚も。私は近い将来、蒼空から聞くであろうプロポーズの言葉が楽しみで。やまないっよっ!」


濡れている手をパッパッと蒼空の顔をめがけて水を飛ばし少しおどけてみる。

・・・紬はいつもこうだ。どんな事でも考えがぼやっとしていて、その割に男に求める理想は色々とある。機能性最悪なゴムのワイパーでは蒼空の心にあるフロントガラスは綺麗に出来ず前がいつまでたっても見えずらい。


「俺さ、最低、子供5人は欲しいんだよね、、どうかな?」

「自分勝手だなぁ。5人は無理だよぉ。だって妊娠と出産なんて経験したことないから怖いもん」


目には目を、無理難題には無理難題を。紬とは大学1年の時から付き合っている。社会人にでもなれば現実を理想に近づける為、ロードマップを立て模索でもしよう所を紬は良い意味でも悪い意味でも紬だ。自分の感情が第一。


「そんな自分勝手な蒼空が彼氏だけどさ、こうして付き合うことが出来て、一緒に後片づけする事が出来て、本当に幸せなんだよね。」


まじまじと斜め下から上目づかいで見つめる紬の瞳には、まるで嘘を感じない


「あの日の私の暴走あって今の関係があるんだから感謝してよね」

「なっつかしい。あの伝説の告白な」

「そう」

『電車の扉が閉まる瞬間!!!』


2人して肩を寄せ合うようにして笑った


「あの時はまさか付き合えるとは思ってなかったけど。あの時の蒼空の顔を思い出すだけで今でも笑っちゃう」


紬の笑う顔の目には涙がたまる。


「私は今日も幸せだよ」


その瞬間テンプレートのような、紬構文に腹の底から蒼空は笑う。蒼空の心の中にしまっている鋭利な感情が指先の神経をチクリと刺す。



俺が惚れた紬はどの紬?



目の前の霧の湿度が99%まで上がる。

耐えきる事の出来ない感情が、真っ黒の感情が心を奪っていく。


「蒼空、顔白くなってる。大丈夫、、?」

「大丈夫。ここ最近、残業が長かったせいかなぁ。少しめまいがしただけだから」

「ちょっと待って!、、、ここ、夜間やってるなぁ、、」


紬があわててスマートフォンで今から診察をしてくれる病院を探している姿は心配の度合いもすごく声も指先までも震えている。


「いいよ、ただの立ちくらみだから。今日はもう先に寝てるね」

「待って、、、待ってよ、、病院行こう。。よ」


紬の頬に涙が頬をつたう

蒼空の醜く真っ黒な感情が、再び指先の神経を刺激する。


「心配してくれるのはありがたいよ。ありがとう。でも本当にダメだったら言うから」

「わかった。絶対にだよ?んっ」


紬は小さい手から細い小指を出し、指切りの契約を結ぼうとする。紬からすると本当に意味のある契約。

それだけに組ませた小指の力加減が全てを物語っている。


「おやすみ。先にベット行ってるね。」

「うん、おやすみなさい」


蒼空は先に入った寝室で、イライラの全てをぶつけるように自分の膝を殴り続ける。

蒼空の心の制御をしてくれる論理も理屈も深い霧で霞む。


【俺にとって、大事な、結婚のチャンス。紬は何で日に日に考え方が緩くなってんの。?何で日に日に馬鹿になってんの?。。。勉強の成績も悪くてコミュ障だった俺が。自分磨き始めてやっとの思いで出来た彼女なのに。この先の人生計画が。地面よりもっと下に落ちる気がする】




【日記】

4月14日。今日は気が気ではなかったな。蒼空の体調が心配。。。心配。蒼空には私が見る事の出来ない未来をどうか楽しんでほしい。同じ道には進まないで。神様がいるなら、どうかお願いします。

あとハピバトゥミ。来年まで意地でも生きよっ。



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