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99 姉弟の再会

 クレアさんの弟である現商会長だと思う人と向かい合い、俺はゆっくりと口を開く。


「商会長殿でよろしいですよね?」


「はい。そちらは名乗って頂けないのですか?」


 若いのに堂々として落ち着いた声。さすがの風格だ。


「俺はアルサルで、こっちはシーラです。この仮面の人に関してはもう少しお待ちください」


 そう断ってから、手紙を取り出す。


「この手紙を商会長殿に読んで頂きたいのですが、他の方には見られないようにして欲しいのです。お供の方とは距離を置いて、壁を背にして読んで頂けませんか? そして読んだ後は返却してください、こちらで処分しますので」


「……ずいぶん厳重ですね。ですが私が内容を覚えてみなに話したら意味がないのでは?」


「その判断はお任せします。とにかく最初に一人で読んでくださればそれで構いません」


「……わかりました」


「ありがとうございます。では部屋の真ん中辺りまで持って行きますから、置いて戻ったら取りに来て下さい。お供の方は離れて頂けると助かります」


 俺の言葉に、両脇の二人が視線を商会長に向け、黙ってうなずくのを確認して端に寄る。


 それを確認してゆっくり前に進み、部屋の中ほどに落ちている手頃な瓦礫がれきの上に手紙を置いた。


 そのまま後ずさるか背を向けるか迷ったけど、シーラもいてくれるし背中を襲われる事もないと思うので、くるりと背を向けて元の場所まで戻る事にする。背中を見せれば、多少は警戒を解く効果もあるだろう。


 ――元の位置まで戻って振り返ると商会長も歩き出した所で、手紙を拾い上げると、こちらの要望通り壁際へ向かう。


 あの手紙はクレアさんが書いたもので、最初に『落ち着いて、冷静に読む事。表情を変えないように』と注意書きをした後、俺が元帝国皇帝である事と、仮面の人がクレアさん……本名は違う名前らしいけど、お姉ちゃんだと書き記してある。


 そして、今は命を助けられた元帝国皇帝の下で働いているという話も。もちろん、お姉ちゃんしか知らないような姉弟の思い出も付記してだ。



 ……手紙を開いて間もなく、弟さんの表情が変わる。注意書きがしてあっても、さすがに耐えられなかったのだろう。


 思わず顔を上げて仮面をつけたクレアさんの姿をじっと見た後、手を震わせながら手紙を読み進め。最後まで読んだのだろう、また顔を上げてこちらを見る。


「商会長殿。お一人だけで話をしたいのですが、時間を取って頂けますか?」


 間を置かずにそう畳み掛けると、あっさり『分かりました』と答えてくれた。


 商会員さん達が血相を変えて止めに入るが、一言『大丈夫、夜までには戻る。私を信用して欲しい』と強い口調で言うと、みんなそれ以上は一言もなく黙ってしまう。


 まだ若いのに立派に商会長をやって、信頼も得られているようだ。



 ……そんな訳で、続きは俺達が泊まっている宿で話をする事にして。預けた武器と手紙を返してもらい、商会長を現場から連れ出す。


 商会員の皆さんはすごく不安そうにしていたし、シーラによると後をつけて来ているらしいけど、それは気にしない。


 話の内容さえ聞かれなければ、泊まっている宿とかはバレても問題ないからね。


 ……宿まで歩く道中はクレアさんが俺の右、弟さんが左と離れて歩き、二人共ずっと無言で一言も口を開かなかった。


 話したい事は沢山あるけど、歩きながらするような話でもないという事なのだろう。


 基本、人に聞かれたら困る話だしね。



 道中、クレアさんは一束の草を刈り取り。宿に着いて部屋に入るとそれを束ねて、ゆらゆらと揺らし始める。


 なんだろうと思ったけど、どうやら音消しらしい。


 揺れる草はガサガサと音を立て、話の邪魔になるほどではないけど、隣の部屋とかで聞き耳を立てている人には厄介この上ないだろう。


 さすがと言うか、密談手馴れてるね。


 ……とはいえせっかくの姉弟再会だ。草束を振りながらというのは微妙な気がするので俺がその役を代わり、更にシーラが『私がやります』と代わってくれた。


 弟さんは今すぐにでも話をしたそうにそわそわしているが、とりあえず椅子いすを勧めると、大人しく腰を下ろしてくれる。


 さすが商会長をやっているだけあって、我慢強い。


「――さて、準備は整いましたが、まずは何の話から始めましょうか?」


 そう言うと、商会長が食い気味に言葉を重ねてくる。


「その人が姉さんだというのは本当ですか?」


 おお、やっぱりそこが一番か。さすがの帝国皇帝も姉弟の絆には勝てないらしい。


 俺が一言『本当ですよ』と答えると、クレアさんが仮面に手を掛け。ゆっくりと外す……手が震えてるけど、緊張してるのだろうか?


「――――」


 およそ二年ぶりに顔を合わせる、クレアさんと弟さん。


 二人はじっとお互いを見つめ合うが、どちらも言葉を発する事なく、無言のままだ。


 ……弟さんにとっては、死んだと思っていた姉との再会。


 クレアさんにとっても、もう二度と会う事は叶わないと思っていた。それでもずっと心配していた弟との再会である。


 しかも両親を失い、弟さんにとっては家族がみんないなくなってしまったと思っていた所からの再会だ。


 話したい事が山ほどあるだろうし、弟さんの目には涙が浮かんでいて、今にもお姉ちゃんの胸に飛び込みそうだ。


 なのにじっと耐えているのは……やっぱり俺がいるからだよね? 商会長としての体面たいめんとかあるから、俺がいる前でお姉ちゃんに抱きついて泣いたりできないのだろう。


「ええと、俺はお茶貰ってきますね。ちょっと時間がかかると思うので、ゆっくりしていてください」


 空気を読んで立ち上がり、シーラも草束をクレアさんに渡して一緒についてくる。


 扉を閉めた瞬間『ガタッ!』と音が聞こえてきたので、多分二人抱き合ったりしているのだろう。


 ……一応争う音がしないかを確認した後、俺とシーラは宿の厨房へと向かう。


 別料金のお茶を注文し、シーラに『商会の人達の気配ある?』と訊いてみたら、『表に四人、裏に三人ですね』と答えが返ってきた。


 相変わらずシーラの気配察知はレーダーのようだ。そしてたまご亭では商会長さんを除いて五人だったのに、人増えてるね……。


 一瞬商会の人達にもお茶を差し入れようかというイタズラ心が芽生えたが、気が立っているだろう人達にイタズラは危ないなと思って自粛する。


 俺は空気が読める子だからね。


 お茶は水を沸かす所からスタートらしく、『出来たらお部屋にお持ちしますよ?』という店員さんに不審がられながら、じっとお湯が沸く所を見て過ごす。



 ……それなりに時間が経ち。お茶ができたので、俺がティーセットを乗せたトレイを持って部屋へと運ぶ。


 慣れないトレイを持って階段を上がるのはちょっと危なっかしかったけど、無事に登り切って扉の前まで来る事ができた。


 ――さあ、これからが話の本番だ。


 俺は決意を新たにドアをノック……しようとしたけど、片手でトレイを持つのはさすがに危なっかしかったので、シーラにやってもらう。



 イマイチ格好つかないなぁ……。




帝国暦165年6月24日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・194万ダルナ(追加で1600万入る予定) ※800万ダルナは馬4頭を借りた預かり金で、返却時に大半は返還される予定

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2330万ダルナ@月末清算(現在5月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×30


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア(協力者・中州の拠点管理担当 帝国暦169年5月分まで給料前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者)

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