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93 ガラスビンの調達先

 お隣を買い取った翌日。俺とシーラは二人で中州の拠点に向かう。


 セファルも同行してもよかったんだけど、今は運ぶ塩がないので、拡張したお隣の整備に回ってもらった。



 そんな訳で中州の拠点に到着し、早速クレアさんにガラス容器の調達先について訊いてみる。


「少量であれば古美術品を漁る手もありますが、似たようなものをまとまった数という事であれば、工房に発注するしかないですね」


 古美術品……その言葉に、改めてこの世界のガラスは高級品であり、意匠いしょうを凝らしたものは芸術品に分類されるのだと実感する。


 元の世界にもガラス工芸とかあったけど、大量生産できない分存在自体が希少価値なのだろう。


「工房に心当たりはありますか?」


「この辺りですと、三つ西に行った街にあります。帝国軍の侵攻で潰れていなければですが。……そこがダメなら、元の王都まで行かないとないはずです」


 おお、さすが元大きな商会の娘さん。詳しい。


「ではとりあえず、三つ西に行った街を訪ねてみます。ありがとうございました…………」


 そうお礼を言うが、なにやらクレアさんの表情が浮かない様子なのに気付く。


「えっと……西の街に行くのって何か問題あったりしますかね?」


「――あ、いえ。なんでもありません。その街は私の故郷でもあるので、懐かしく思っただけです……」


 懐かしく…………か。


 そのわりに辛そうな表情だったのは、その故郷がもう戻れない場所だからだろう。


 クレアさんは家の名誉のために、『私は生きていてはいけない存在なのです』って言っていたからね……。


「あの、よければお家の様子見てきましょうか? もちろんクレアさんが生きている事は言いません。家族がどうしているかだけでも……」


「――お願いできますか!?」


 おおう、すごい食いつきだ。


「はい、俺でお力になれる事があれば」


「でしたらぜひお願いします! 両親と、弟の様子を見てきて下さい! これは調査費用です」


 そう言って小さな袋を出してくるクレアさん……大きさ的に、この前払った給料全額じゃないだろうか?


「いや、ついでに見てくるだけですからお金はいりませんよ」


「ではこの半分を依頼料として、残りの半分は店で使ってきてください。買う物はなんでも構いません!」


「わ、わかりました。お預かりします……」


 鼻先三センチくらいまで顔を近づけてきた迫力に押されてお金を受け取り、荷物にしまう。


 商会の名前と、念のために家族の名前も聞き、俺とシーラは西の街に向かう事になった。



 ……街道に向かって南下している間に、シーラが口を開く。


「西に三つ行った街へは、身軽でも歩くと五日はかかります。すでに多少西に来ていますが、一旦アルパの街に戻って馬を調達した方が往復にかかる時間は短くなると思います。いかがでしょうか?」


 なるほど……多分シーラ一人ならもっと速いけど、俺の足換算で計算してくれているんだろうね。


 ここはシーラの助言に従って一旦アルパの街に戻り。馬二頭をレンタルして、出発は翌日とする。


 俺は馬に乗れず、シーラの馬に乗せてもらう事になるので二頭はいらない気がしたのだが、交互に乗る事で馬の負担を軽くし、かなり時間を短縮できるのだそうだ。


 俺達が北の拠点を離れている間は塩の輸送が止まってしまうので、その時間はなるべく時間短いほうがいいからね。


 ――そんな訳で、エリス達に事情を話し。俺とシーラは翌日早朝から、西に向かって旅立つのだった……。




「あいたたた……」


「大丈夫ですかアルサル様?」


 アルパの街をって三日目の昼過ぎ。俺達は無事に目的の街に到着した。


 ……正確に言うと俺はちょっと無事じゃなくて、全身が筋肉痛でとても痛い。


 シーラの乗馬の腕はかなりのものだったけど、残念な事に安全運転じゃなくてスピード乗りだった……。


 俺は二日目の途中まで必死にしがみついていたが、ついに力尽き。シーラに抱えてもらいながらここまで来たものの、全身筋肉痛で立つ事もできない有様だ。


 ……とりあえず宿を取って馬を預け、ベッドに横になったが、横になる動作だけでもう痛い。


「今日はこのまま休みましょう」


 俺を気遣ってくれるシーラの言葉に、思わず甘えてしまいそうになる……が、そうもいかない。


「それじゃあせっかく急いだ意味がないよ、情報収集に行こう。シーラ、悪いけどおんぶしてくれる?」


「それは構いませんが、大丈夫ですか?」


「動けないけど、しゃべるだけならなんとか……」


「――わかりました」


 そんなやり取りを経て、俺はシーラに背負われて酒場へと向かう。


 シーラ一人で情報収集に行ってもらう手もあったのだが、この街は相当治安が悪いらしく、俺を一人で宿に置いておくのは心配だというのがシーラの見立てである。


 事実、シーラの背中に揺られて見る街並みは荒れていて、鋭い目をしてこちらを睨んでくるガラの悪そうな男達や、痩せ細った体で目だけギラつかせている、孤児なのだろう子供達が大勢いる。


 ――道中仕入れた情報によると、帝国の侵攻に対してこの街の領主は降伏するのを善しとせず。戦ったのだそうだ。


 帝国の支配下に入る事を嫌って逃げてきた冒険者や、こころざしある他領の兵士達も加わり。一時はかなりの勢力になったそうだが、帝国の大軍の前には抗しきれず。


 街に篭って抵抗したものの最終的には陥落し、戦渦に巻き込まれた街は大半が燃えてしまい、大勢の住民が巻き込まれて死んでしまった。


 さらに帝国軍は見せしめにと、占領後に虐殺や街の破壊を行ったのだそうだ。


 結果として残ったのは、廃墟と化した街。そして家や財産、家族を失った大勢の人々と沢山の孤児。あとはやり場のない怒りと不満、絶望と悲しみだけだったという訳だ……。


 戦って死んでいった兵士や冒険者の胸には誇りが残ったかもしれないけど、それは本人の死と共に消えてしまい。今この街を覆っているのは暗く陰鬱いんうつな空気ばかりである。


 この分では、ガラス工房やクレアさんの実家もどうなっているか分かったものではない。


 ……そしてこの光景は、俺にとっても他人事ではない。


 帝国と戦おうとしている以上。もし敗れる事があったらこの街と同じ状況がアルパの街でも起こるかもしれないし、拠点にしている場所でも起こるだろう。


 その時の責任は全て俺にあるのであって、とても一人で背負えるようなものではない……。



 重苦しい気持ちに押し潰されそうになりながら、俺達はともかく情報を集めようと、廃材で作った椅子いすとテーブルが並ぶ、屋根もない酒場へと足を踏み入れるのだった……。




帝国暦165年6月18日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1628万ダルナ(-409万)追加で1600万入る予定 ※400万ダルナは馬を借りた預かり金で、返却時に大半は返還される予定

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2330万ダルナ@月末清算(現在5月分まで)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×30


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア(協力者・中州の拠点管理担当)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者)

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