91 拠点拡張計画
セファルさんを部下に迎えた二日後。
商隊の護衛任務に出ていた冒険者の子達の一隊が帰ってきたので、馬車を借りて塩の輸送に出向く。
ついでにセファルさんにも同行してもらって、改めてクレアさんと顔を合わせ。定期輸送について確認もする。
セファルさんはクレアさん達への偏見がない……もしくは少ない貴重な人材なので、上手くやってくれると思う。
冒険者の子達はセファルさんを見て。特に顔の傷を見て一瞬息を呑んだが、敏感に空気を読み。極力その事に触れないように、冷静に対応してくれた。
メルツとメーアの教育がいいのだろう。さすがだ。
顔や体の傷痕は癒してあげられるといいんだけど、上級傷薬でもできるのは『傷の治療』であって、一応治っている傷痕の回復はできないんだよね……。
……癒えない傷を抱えているという点ではクレアさん達と同じで、だからこそ気持ちが通じて仲良くできるのかもしれないけど、あんまり喜ばしい事でもないよね。
複雑な気持ちを抱えながらも、今の俺にできる事はなにもないので、気持ちを切り替えて冒険者の子達から情報を収集する。
護衛任務の成果は良好であるらしく、商会の人達とはかなり仲良くなっているとの事。
一方で情報収集の方は、周辺のどの街もアルパの街と似たような状況という以上に、これといった情報はない。
メルツとメーアが毎回情報を聞き取ってまとめてくれていた報告書が宿屋にあったけど、やはり近隣の街とでそう大きな違いはないのと、まだ遠方まで足を伸ばせていないので、広範囲の情報は取れていないようだ。
これはこの先、商会の勢力拡大と併せての課題だね。
……そういえば商会と言えば、前回塩を売りに行った時に手持ちの資金が少ない様子だった。
なにか知らないかと訊いてみると、どうやら他の街に支店を増やす計画があるそうで、そのために資金を使っているのではないかという話だった。
とりあえず経営危機とかではなさそうで安心だ。そして商会の規模が拡大するのは情報網の拡大も意味するので、俺にとっても願ったりだ。頑張って欲しい。
……そんな事を話ながら中州の拠点に行き、塩を積み込んで帰ってくる。
これからはセファルさんが定期的に往復して運んでくれるので、この形式での輸送は今回が最後になるだろう。
冒険者の子達の仕事を邪魔しないし、俺も帰還待ちをしなくてよくなるので助かる。セファルさんの存在は本当にありがたいね。
そんなこんなで、ティアナさんが張り切って運んでくれた大量の塩。120袋を商会に持ち込むと、査定の間にいつもの店員さんがちょっと改まった感じで話を切り出してきた。
「実は当商会は近々支店を増やす予定で、私にその一つの支店長をやらないかという話が来ているのです。
ついてはご相談なのですが、私が他所の街の支店長になったら、その街の店で塩を売って頂く事は可能ですか?」
おお、冒険者の子達が言っていた支店開設案件か。この店員さんも出世するんだね。
その事自体は、この人を通じて商会に影響力を及ぼそうと思っている俺にとってもありがたい話だ。でも、塩の売り場所を変えるのはどうだろうね……。
「――正直、ちょっと難しいです。
元々この街に来る用事があって、そのついでに塩を運んでいる感じなので、他の街というのは……」
「ついで……ですか」
――お、不審がられたかな?
一回何千万ダルナという取引をしているのに、それをついでと言うのは怪しかったかもしれない。
これ以上下手な事を言わないように黙っていると、店員さんはしばらく考え込んだ後、改めて口を開く。
「わかりました。ではこの街に私の支店のさらに支店……出張所を置きますので、そこに売って頂く事は可能でしょうか?
もちろん各種費用はこちらで負担し、今までと同じ買い取り金額を約束いたします」
おお、なんか凄く特別扱いな提案が出てきた。塩の取引をついでと言ったのが、逆に俺を大物に見せたのだろうか?
「それなら問題ありませんよ。でも店を構える費用や、警備や輸送に結構お金がかかるんじゃないですか?」
「はい。なのでつきましては、アルサル様紹介の護衛見習いの方々を専属で使わせて頂けませんか? 一組だけで構いません」
「なるほど、それは問題ないですよ。……あ、そうだ。出張所を構える場所って決まっていますか?」
「いえ、これから準備をするつもりです」
「それなら、俺達がやっている冒険者養成所の隣はどうですか?
施設を拡張する計画があって、隣の建物を買収しようと思っているのです。その一部に出張所を置きませんか? お安くしておきますよ」
いい機会なので、このまま商会を巻き込んでしまおう。
冒険者養成所自体は秘密でもなんでもなく、冒険者ギルドでも商会でも、孤児院や近所の人達にも知られている存在だし、倉庫がそのまま売却所になるのは便利でいい。
ついでにお隣さん買収費用をちょっとでも負担してもらえれば、一石二鳥だ。
俺の提案に店員さんはしばらく考え込み、冒険者養成所の場所などを質問してきたが、利益があると判断したのだろう。『わかりました、よろしくお願いします』と言って、握手を求めてきた。
――それから出張所の広さや人員などの相談をし、基本こちらで管理をして、定期的に代金引換で塩を受け取りに来る事に決まった。
こちらの管理はエリスとメーアに任せよう。
そしてお隣さん買収費用の一部として200万ダルナと、管理費として月20万ダルナを貰う契約になった。
人一人を常駐させる経費に比べたら安いので、向こうにも得があると思う。
そんな話をした後、塩120袋を3600万ダルナと査定されて、商会に手持ちの資金では足りませんと頭を下げられた。
支店を増やそうとしているので、手元の資金が少ないんだろうね。
とりあえず2000万ダルナを受け取り、残りは後日としたが。利息代わりに商会の人を一人借り受ける事にした。隣の建物買収を手伝ってもらうのだ。
基本的な交渉はこっちでやるけど、めんどくさい手続きとかは商会の人が詳しいだろうからね。
そんな訳で早速一人を借り受けた俺は、お隣さん買い取り交渉へと向かうのだった……。
帝国暦165年6月14日
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・2510万ダルナ(+2200万)追加で1600万入る予定
・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2330万ダルナ@月末清算(現在5月分まで)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×30
配下
シーラ(部下・C級冒険者)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)
ティアナ(エリスの協力者)
クレア(協力者・中州の拠点管理担当)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当)
元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者)




