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9 もう一人の敵

 宰相から通信機の魔道具を渡された俺は、少し考えて行動に移る。


「おいおまえ、これを持っておれ」


 そう言って二つある内の一つを、かたわらにいる女官に投げ渡す。


 ――宰相のまゆが一瞬ピクリと動いた気がするけど、もしかしてすごく貴重な物だったりするのだろうか?


 ……まぁ、皇帝は賢い所を見せたら殺されるけど、国宝を壊したからって殺される事はないだろう……多分。そう考えるとホントに微妙な立ち位置だよね。


 そんな事を考えながら、通信機の片割れを手に俺は部屋の隅へと走る。


「おい、聞こえるか?」


 同じ部屋でわりと大きな声を出したので、通信機がなくても普通に聞こえるだろう。このアホっぽさがいい……と思う。


「はい、聞こえます」


 女官さんからの返事は小声で、通信機から聞こえてきた。大人の対応だ。


「おお、すごいな! ではもう少し離れてみるぞ!」


 そう叫んで部屋を飛び出すと、女官さん数人が追ってくる気配がしたが、構わず走る。


 ……て言うかこれ。魔道具だと言っていたから動力は魔獣から採れるという魔石なのだと思うが、スイッチもなにもついていない。


 通信機として以外に、盗聴器としても使えそうだ。歴代皇帝の動向を探るのにも使われてきたんだろうね……とりあえず今日遊んだら、あとは興味をなくしたフリをして放置しておこう。


 そんな事を考えながらしばらく走って通話を試し、繋がるとまた走って通話を試す。


 遊んでいる演技だが、宰相がいるあの部屋から離れたかったという理由もある。


 威圧感が半端なくて居辛かったからね……あの人を相手に戦うとか、正直全く勝てる気がしない。向かい合っただけで分かる、圧倒的な実力の違いがあった。


 何年かして俺が成長したら、対抗できるようになるのだろうか?



 現時点での宰相との差を痛感しながら、通信機を手に広い宮殿内を走り回る。


 ……しかし、本当に誰とも会わないね。今日は日曜日とかだろうか? よく考えたら俺、今日が何月何日かも知らないな。


 ――と、扉をくぐったらなにやら広いホールのような場所に出た。パーティー会場? それとも講堂みたいな場所だろうか?


 ぐるりと部屋を見回すと、一段高くなっている場所の向こうに大きな絵がかけてある……いや、あれは多分地図だ。


 逃亡計画を立案中の俺にとって、周辺の状況はのどから手が出るほど欲しい情報である。


 駆け寄って見上げてみると、絵のようにも見えるけど地図で合っていると思う。


 真ん中に描かれている街が多分帝都で、そこを貫いて大きな川が北西から南東へ向かって流れている。


 帝都を中心に幾つか大きな街が描かれていて、その外側は絵のイメージからすると、南に広大な砂漠地帯。南東は多分海で、東は森林、北は草原、北西は山……だと思う。


 多分その更に向こうもあるのだろうが、地図には描かれていない。帝国の影響力が及ぶ範囲の限界……という事だろうか。


 そして西には線で囲われた地域があるが、隣国だろうか?


 逃げる先としては、とりあえず砂漠は干からびて死ぬ予感しかしないので、海・森・草原・山・隣国の五択。


 理想を言うなら隣国だけど、この地図に描かれているという事は帝国の影響下にある属国かもしれない。


 地図の縮尺が分からないのでどれくらい離れているかは分からないが、大まかなイメージが掴めるだけでかなりありがたい。



 ……地図を目に焼き付けていると、不意に視界に影が差し。驚いて振り返ると、すぐ後ろに黒いよろいを着た大男がいて、俺を見下ろしていた。


 ――思わず悲鳴が出そうになったのは、突然背後に立たれていた事以上に、その男がまとう空気の異様さのせいだったと思う。


 見上げるような大男……なのだが、それは子供の俺が小さいからで、身長は多分180センチくらい。十分大きいが、くまみたいな大男という訳ではない。


 むしろスラリとしたヒョウタイプで、サラサラの金髪に優しそうな笑顔を浮かべている姿は、元の世界ならどこかのアイドルグループにいてもおかしくない。女性人気が高そうだ。


 ……だけど、俺の本能が(こいつはヤバイ奴だ)と警鐘けいしょうを鳴らしている。


 別に美青年に対するひがみではない。俺だってこの世界では将来有望そうな、かわいい系のショタなのだ。


 そういうのではなく純粋に、本当に嫌な感じがしてしょうがないのである。


 表情は穏やかな微笑びしょうを浮かべていて一見好感度が高そうだが。目の奥が笑っていない。優しそうな外面で人を騙して、裏では冷酷で残忍なサディストであるような、そんな気配を感じる。


 宰相が狡猾こうかつなヘビだとしたら、この男は表向きカッコよくて凛々しく、それでいて人に慣れたトラの皮を被っているけど、実際は獰猛で残忍なオオトカゲのイメージだ。


 今すぐにでも腰の剣が抜かれ、俺の首を胴体から斬り飛ばしてしまうような、そんな感覚に襲われる……。


「あ、皇帝陛下。こんな所にいらしたのですか」


 ――血が凍るような緊張状態を破ったのは、俺を探しに来たのだろう女官さんの声だった。


 彼女はパタパタと俺の元に駆け寄ってくると、一緒にいる男を見てほほを赤くする。


 俺には冷酷な死の化身のように見えるこの男が、女官さんには見た目通りの美青年に。優しそうな微笑を浮かべたイケメンに見えるのだろう。


「……皇帝陛下を謁見の間にお連れください」


 イケメンはどうやら、声もイケメンらしい。イケボって言うんだったかな?


 だがその甘い声も、俺には死神のささやきのように聞こえる……。女官さんが俺の手を取って謁見の間に戻ろうとする中、俺は振り返って言葉を発した。


「おまえは誰だ?」


 その問いに、青年は少し意外そうな表情を浮かべて口を開く。


「これは失礼しました。自分は宰相の6男で、シャルドと申します。お見知りおきください皇帝陛下」


 宰相の6男……それにしては若く見える。まだ20歳になっていないくらいだろう。


 まぁ宰相は色々お盛んなようなので、高齢になってから産まれた子供がいてもおかしくはない。


 謁見に大勢連れてきていたけど、その中にいたのだろうか?


 それにしても、宰相の息子というのは厄介だ。下手をしたら宰相を上回る最悪の敵になるんじゃないかと、俺の本能がそう告げている。


 そしてその相手に、地図をじっと見つめていたのを見られてしまった。


 それだけですぐ危険視されるかどうかは分からないが、行動を早くした方がいいだろう。


 一度宰相を見ておくという目的も達したしね。


 もっとヤバそうな存在がいるという、知りたくなかった情報も知ってしまったけど。いずれ戦わないといけないのなら、知らずにいるよりはよかったのだろう。


 ……憂鬱ゆううつな思いを胸に謁見の間へと戻ると、宰相は俺を待つほど暇ではなかったのか。すでに帰ってしまっていたので、謁見はそれで終了となった。



 もうこれ以上子ここに留まる理由もなくなったので、俺は脱出計画を本格的に始動するのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……1.2%


資産

・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ


配下

シーラ(部下)

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― 新着の感想 ―
[良い点] だんだんとキャラが増えてきて楽しみです 宝石犬はどう使われるのかも楽しみですね
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