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85 甘い物

 メープルシロップ採取は、思いの他順調に進んだ。


 辺りには同じ木が沢山生えていたので、ノミで穴を開けて細いといを差し込むと、いいペースで樹液が流れ落ちてくる。


 わりとサラサラで、感覚的には水に近い。


 とりあえずバケツの数だけ設置し、翌日見に来ると結構溜まっていたので、作業小屋に運んでバケツはまた採取に回す。


 一日で20リットルくらい採れたので、とりあえず煮詰めてみる事にする。いつも塩を作っているので、煮詰めるのは得意分野だからね。


 焦げないようにゆっくり煮詰めていくと、だんだんトロミが出てきて色も茶色っぽくなり、俺が知っているメープルシロップのイメージになってきた。


 ためしにちょっとめてみると、バッチリ甘い。そして昨日からの経過を見るに、毒もなさそうだ。


 ――とはいえ俺が知っているメープルシロップの甘さではないので、さらに煮詰めていく。


 樹液の量の10分の1、20分の1になってもまだ物足りなくて、最終的に『これだ!』という甘さになった頃には、大き目のコップ一杯くらいの量になっていた。50分の1くらいだろうか?


 初めての収穫なのでみんなにも味見してもらい、かなりの好評を博する事ができた。売れそうな気がする。


 塩の輸送から帰ってきたティアナさんにも味見してもらったけど、『なんか木材みたいな匂いがしますね』と、こちらは不評だった。


 エルフの口には合わないのだろうか?


 とはいえ可能性を感じるので、しばらくはメープルシロップ生産に注力する。


 ……とはいえ、樹液採取は基本待つだけだし、煮詰める作業は塩作りと同じなので、塩作りも平行して行う事にする。いい感じで忙しくなってきた。




 そんなこんなで、北の拠点に戻って半月ほど。


 テイアナさんに運んでもらった塩は一回20袋で100袋に達し、メープルシロップも小型のたるに半分くらいまで貯まった。


 ざっくり4から5リットルくらいあると思う。


 メープルシロップは春が来て暖かくなり、木に葉っぱが繁るようになると樹液の出が悪くなったようで、季節限定の物なのかもしれない。


 その辺は順次研究するとして、とりあえず北の拠点の護衛をティアナさんに任せて、シーラと二人で中州の拠点に向かう。



 中州の拠点に着くとクレアさんが出迎えてくれ、塩100袋がしっかりと保管されていた。助かる。


 クレアさんにもメープルシロップを味見してもらって商品になるか訊いてみた所、一舐めして目を丸くし。


「ハチミツに似ていますが、くどさがなくさっぱりした甘さですね。香りもいいですし、こちらを好む人は多いと思います。


 少なくともハチミツと同額。希少性によってはそれ以上の値段で売れるでしょう」


 とお墨付きを頂いた。


 ただし、綺麗なガラス容器とかに小分けする必要はあるそうだ。まぁそりゃそうだよね。


 樽ごと商会に売ってしまう手もあるけど、小分けした方が利益が上がるだろう。


「クレアさん、ハチミツの相場って幾らくらいか知ってます?」


「私が商会にいた頃で、小瓶こびん一つが7万ダルナ。今だともっと高いかもしれません」


 おおう、結構なお値段だ。そしてさすが元大きな商会の跡継ぎ。よく知っている。


 そしてその値段だと庶民向けじゃないよね。お金持ちや身分の高い人相手……情報を得るのにうってつけだな。


 クレアさんに売りさばいてもらえれば一番いいけど、顔出しNGなので……やっぱり商会経由かな?


 そんな事を考え、その日は中州の拠点で一泊して。翌日、メープルシロップは一旦置いておいて、塩を売りにアルパの街へ向かう。


 いくらシーラが力持ちでも、100袋。300キロくらいあるのを持てる訳がないから、まずは人手だ。身軽な状態で、早足でアルパの街へ向かう。



 エリスの宿屋に着くと、メルツとメーア、そして今日は仕事が無いらしい冒険者一組七名がいた。


 一人前になっても暇さえあれば勉強しているのに感心しつつ、早速仕事を依頼して街中で空いている馬車を探してもらうと、お昼過ぎまでに四台集まった。


 大きさも種類もバラバラだが、とにかく手綱を取ってもらって中州の拠点に向かう。


 冒険者の子達は乗馬の訓練をしているだけあって、馬車の扱いも手慣れたもの。初対面の馬相手でも問題なく制御している。


 馬って意外と気難しいと聞くけど、大したものだ……。


 今に至るも俺に懐いていないシーラの愛馬、シルハくんを思い出して複雑な気持ちになりながら、馬車に揺られて中州の拠点へと向かう。


 道中メルツとメーア。冒険者の子達にも話を聞いたが、商隊護衛の仕事はおおむね順調。大きな怪我人は出ていないし商会からの評判も上々で、今では一組七人で本来の護衛五人分の配置になっているそうだ。


 一か月間で大きな成果だと思う。


 そして本来の目的の方も徐々に成果が上がっていて、この組を含めて三組とも最低一回は盗賊の襲撃に遭遇し、対人戦の経験を積んだのだそうだ。


 まだ一か月なのに、治安悪すぎるだろ……。


 その時の状況を聞いてみると、最初はさすがに戸惑う子もいたが、最終的には全員が護衛としての任務を全うし、実際人を手にかける経験をした子もいるのだそうだ。


 メルツでさえも人を殺した経験はないそうで、『冒険者としての経験値ではもう抜かれてしまったかもしれません……私は死にかけた事もあるので、くぐった修羅場の数なら負けませんが』と、ちょっと自嘲気味に言っていた。


 人を殺した経験か……そういえば、シーラにはあるのだろうか?


 まだ父親が生きていた頃、連れられて戦場に出た事はあるらしいが、当時はまだ10歳とかそのくらいだったはずだ。


 父親の方針次第だろうけど、どうだったんだろうね……。


 なんとなく訊くのはためらわれたので、話を他に移す事にする。


 護衛任務のもう一つの目的。情報の収集に関しては、こちらも成果が上がっているようで、近隣の街の様子を話してくれた。


 ……全体としてアルパの街と大きく違う所はないけど、ララクがやろうとしたような帝国兵への襲撃事件は複数起きていたようで、犯人は捕まって公開処刑にされてしまったのだそうだ。


 この件に関しては、元孤児のみんなにとっては我が事のような話なので、話す表情は真剣そのもの。


 一応。念のため改めて軽挙けいきょに走らないように言っておいたけど、内心は穏やかじゃないだろうね……。


 そして、やはり他の街にも同じように帝国の侵攻のせいで孤児になってしまった子達がいるようなので、その子達を集めて冒険者養成所の二期生を編成する計画を相談する。


 他の街は治安がよくない場所も多いらしく、せっかく設備があるので、アルパの街に集めて教育するのがいいだろうという事になり。メルツに人集めを。メーアに教育を。今ここにはいないけど、エリスにお世話をお願いする方向で話を進める。


 冒険者の子達も、時間が許す限り手伝ってくれるそうだ。自分達と同じ境遇の子達に関する事だけに、やる気満々である。


 計画の実行には多額の資金が必要だけど、塩を換金できればなんとかなるだろう。



 冒険者の子達の期待に満ちた目に若干のプレッシャーを感じつつ、馬車が川に到着したのは、陽が西に傾きつつある頃だった……。




帝国暦165年5月15日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・-332万ダルナ (手持ち68万とシーラに400万借金)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 258万ダルナ(-403万)@月末清算


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×6


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア(協力者・中州の拠点管理担当)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当)

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