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82 見習い卒業

 冒険者見習いの子達を荷物の配達に送り出した翌日。任務を完了した子達が次々に帰ってきたので報告を聞く。


 ……とりあえず全体的な傾向としては、配達は成功したけど反応はかんばしくなかったようだ。


 最初は女の人達の名前を出しただけで露骨な嫌悪感を示され。荷物があってお金も入っていると言うと受け取ってくれはしたが、手紙の読み聞かせには多くの人が渋い表情をし、途中で中断させた人もいたらしい。


 それでもなんとか、俺の要望に従って食い下がり。中には殴られたり物を投げられた子もいたようだが、グッと耐えて返事を貰ってきてくれた。


 メルツとメーアの教育の賜物たまものなのだろう。とてもいい子達に育っている。


 だけどそんな苦労をして貰って来てくれた返事の内容は、大半が『荷物は受け取った。だがもう連絡はしてこないでくれ』という極めて冷淡なもの。


 唯一、牛を届けた人の所だけが、短く『ありがとう』の一言だけという、想像していたよりはるかに厳しいものだった。


 周囲の目や世間体せけんてい的なものもあるんだろうけど、あまりに冷たい……。


 正直怒りすら覚えるレベルだけど、これがこの世界の一般的な感覚なのだろう。


 俺は重い気持ちで、配達に行ってくれた子達の報告をまとめ。一人ずつに報告して回る。


 冷たい家族の反応を悲しみ、絶望しないか心配していたけど、みんな家族の現状報告を喜んでくれ、『もう連絡してこないでくれ』という言葉には悲しそうな表情を見せたが、予想していた言葉らしく、改めて絶望したりする様子はなかった。


 安心したけど、悲しくもあるね……。


 ――ともあれ、改めて明確に拒絶された事は過去を振り切る力にもなったらしい。


 これをきっかけに逆にさっぱりした表情になり。次に給料を貰ったら何に使おうかなどと、前向きに未来の話をする人も見かけるようになったので、悪い事ばかりではなかったかもしれない。


 もちろん全員がすぐに切り替えられた訳ではなく、特に家族と連絡を取らなかったクレアさんはまだ複雑な感情を抱えているようだが、全体的には雰囲気が好転したと思う。


 これも冒険者見習いのみんなが普通の配達人の枠を超えて、いい仕事をしてくれたおかげだ。


 もう冒険者見習いの『見習い』を外して、一人前として扱ってもいい段階に来た気がする。


 ……みんなにも意見を訊いてみたら、シーラは『三人一組なら森に入っても問題ない』、メルツは『E級冒険者としての能力は十分。D級相当の子もいる』と、どちらも一人前の冒険者という評価。


 そして今回の配達に同行したメーアからは『冷静さを保って、十分に感情を制御できるようになった』との言葉を頂戴した。


 心身両面において十分に実力が育ち、そこらの体力一辺倒いっぺんとうの冒険者よりもよほど優秀に育っているらしい。


 ――それを受けて、俺はシーラ・メルツ・メーア・エリスを集めて、会議を開催する。


 ……なぜかティアナさんもいるけど、エリスを呼び出したら一緒についてきた。


 まぁティアナさんになら聞かれてもいいから、気にせず話を始める事にする。


「この先の方針だけど、帝国と戦うに当たってまずは情報を集めたい。最初はこの近辺で、アルパ以外の街の状況を。そして将来的には、占領地全域から帝国本土、周辺の他の国の情報まで。あらゆる情報が入ってくる情報網を構築したい。


 だけど一から情報網を構築するのは大変だし、時間も資金も人手もかかる。なので既存きそんの物を利用する事にして、塩の取引をしている商会。あそこに入ってくる情報をそのまま俺達にも流れてくるようにしようと思う」


 みんなの反応を見ながら話していくが、今の所反論とかはなさそうだ。


「そのためには俺一人だけの、お得意さんとしての繋がりだけでは弱いから、冒険者見習いのみんなに正式の冒険者の仕事として、商隊の護衛をやってもらおうと思う。


 護衛なら商隊の人達と寝食を共にして相当親しくなれるから、将来的に懐に入り込む事もできるだろうし、直接自分の目で見て他の街の情報を得る事もできる。


 そして商会の勢力が広がれば広範囲の情報を得る事ができるようになるし。各地の有力者と繋がれば、支配者層の情報を取れるようにもなる。


 お互い利益になるし、俺から商会の人に話してみるつもりなんだけど、みんなどう思う? 冒険者の子達できるかな?」


 そう言ってみんなを見回すと、最初に口を開いたのはシーラだった。


「情報収集に商人を使うのは良い手です。護衛任務は、平地の魔獣相手なら二人いれば十分。森を通る場合でも四人いればこなせるでしょう。


 盗賊団に襲われた場合は相手次第ですが、一般的な盗賊であれば三倍数までなら、逃げる時間を稼ぐくらいはできるでしょう」


 その言葉にメルツも同意を示し、メーアが言葉を発する。


「精神的にも問題ないと思います。家族のかたき本人を前にしても、一人でなければその場で暴発はしないでしょう。


 自分一人が本懐を遂げても、そのせいで仲間達の立場が危うくなるなら思い留まれる。そのくらいの連帯感は育っています」


 おお、すごいお墨付きだ。


 それだけ自制心を鍛え、仲間との絆をはぐくんだのは間違いなくメルツとメーアの。特にメーアの功績だろう。エリスの貢献もあったかもしれない。


 エリスは自分の担当分野ではないと思っているらしく黙っているけど、家族的な一体感を構築するには大きな貢献をしてくれたと思う。


 ……ティアナさんは、なにやらニコニコしながらエリスを見つめているので放っておこう。幸せそうでなによりだ。


「じゃあ護衛の任務を受けるって事で、編成を任せたいんだけど何組できそう?」


 俺の問いに、メルツとメーアが二言・三言言葉を交わす。


「七人一組の三組にして頂けるとありがたいですが、難しいでしょうか? もっと編成多くしますか?」


「いや、三組で問題ないよ、安全が第一だからね。護衛料は採用して貰いやすいように安めに設定するけど、問題ない?」


「それは元より生活全般の面倒を見て頂いているのですから、お任せします」


「うん、じゃあ三組の編成任せるね。……エリス、食事は隊商の方で用意してくれるように頼んでみるけど、念のため一人一万ダルナと携帯食二日分持たせてあげてくれる」


「了解しました」


「本当は給料も出したい所だけど、今ちょっと手持ちがないので一か月位してからになると思う。それまでは、報酬は初期経費に当ててるって事で納得してもらえるかな?」


「問題ないと思います。今まで養ってもらっていたのですから、その分を返すくらいは当然ですし、そもそも生活のために冒険者を目指している訳ではありませんから」


 メルツがそう言うが、そうだよね。冒険者になるのは目的ではなく、家族の仇を討つための手段なのだ。


 ……そんな訳で話がまとまり、俺は商会の人と話をするために、みんなと一緒にアルパの街に戻る事にする。


「――あそうだ、ティアナさん。この先一人で北の拠点からここまで塩を運んでもらう仕事をお願いすると思うので、船の扱いを教わっておいてください。時間を合わせてエリスに会いに来てもらえるようにするので、往復にかかる正確な日数も計算しておいてもらえると助かります」


 別れ際にそう言うと、定期的にエリスと会えるのが嬉しかったのだろう。満面の笑顔で『任せて!』と言ってくれた。


 暗い話も多い中で、ティアナさんのこの笑顔は癒しだね……。



 いつかシーラのこんな笑顔も見てみたいなと思いながら。


 だけど満面の笑みを浮かべたシーラの姿が想像できなくて悲しい気持ちになりながら、俺はアルパの街へと向かうのだった……。




帝国暦165年4月15日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・-332万ダルナ (手持ち68万とシーラに400万借金)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 661万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×9


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア(協力者・中州の拠点管理担当)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当)

元孤児の冒険者21人(部下・F級冒険者だけど実力はE級相当)

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