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78 孤児達の成長

 翌朝、ちょっと早起きした俺は耳を澄まし、『ビュッ』と鋭い音が聞こえてくる方に足を向ける。シーラはいつも、早起きしてやりの鍛錬をしているのだ。


 長い黒髪をなびかせ、汗を散らせながら槍を振るう姿は舞いのように美しく、とてもかっこいい。


 ……よく見ると、周囲には草むらに隠れるように何人も見物人の姿があった。


 クレアさんと一緒にオークとゴブリンの巣穴から助けられた人達で、全員女性だけど、シーラのかっこよさは女の人さえとりこにするらしい。


 ――俺も眺めていたいけど、用件があって来たので足を進め、長い槍のリーチに掛からないように、離れた位置から声をかける。


「シーラ、ちょっといい?」


「はい、なんでしょうか」


 鍛錬を中断し、こちらに歩いてくるシーラ。


 カッコイイ槍捌きを見られなくなった人達からの非難めいた視線を感じながら仮面作りの話をすると、『そんな事なら』と快く了解してくれた。


 この中州は流木がよく流れ着くので、早速川岸へ行って手頃な流木を探し、シーラが槍を一閃すると太い木の枝があっという間に真っ二つになり。もう一閃で薄い板が切り出される。


 バームクーヘンでもこんなに綺麗に切れないと思うが、シーラの腕と、エルフの村で作られた高品質な槍の併せ技なのだろう。


 切り出した板と、真っ二つにした流木のうち小さい方を持って集落に戻り、朝食を作っている火のそばに陣取って、仮面作りをはじめる。流木はとりあえず椅子いすになり、後は燃料なり木材としてなり使われる事だろう。


 ……シーラは槍を短剣に持ち替え、手際よく板を削っていく。


 まずは全体の輪郭を整え、目の丸、鼻の三角、口の四角とあっという間にくり抜いてしまい、ヒモを通す用の穴を開けたら完成だ。


 安定性を増すためか、おでこから頭の上を通して後頭部に回る紐も付いた、三点固定式である。


 丁度朝食と同じくらいの時間に出来たので、朝ごはんを食べに来たクレアさんに早速試して貰うと、軽いし着け心地も悪くないと好評だった。


 無骨で飾り気がなく、似合っているとはお世辞にも言えないし、むしろちょっと不気味なくらいだが、クレアさん本人が気に入っているようなので善しとしておこう。


 デザイン云々(うんぬん)よりも、したっているシーラが作ってくれたというのが嬉しいのだろう。


 ……と言うか、削り屑をそのまま燃料にできるようにと火のそばで作業を始めたのに、なぜか一つ残らずクレアさんのお仲間達が回収していったからね。


 お守りにでもするのだろうか? シーラの人気が高すぎて、神に片足突っ込んでいる気がする。


 シーラの事が好きな俺としては、好きな人が好かれている事が嬉しい反面、ちょっと落ち着かない気持ちにもなる。


 女同士であるという以上に、今のシーラの精神状態的に恋愛に発展する事はないだろうから、多分大丈夫だろうけどさ……。


 まぁそれはともかく、これで中州の拠点の下地は整った。


 ティアナさんに高床倉庫を始めとした住環境の整備をお願いし、朝食を食べた俺とシーラはアルパの街へと向かう。



 秋以来久しぶりにエリスの宿に顔を出すと、エリスは嬉しそうに満面の笑みを浮かべて出迎えてくれた。


 なんかもう、とても癒される。


 そして、冒険者見習いのみんなはメルツから算術を教わっている所で、メーアに訊いてみると全員元気に冬を越し、冒険者としての能力も着実に成長しているのだそうだ。


 もう『見習い』を取って一人前の冒険者と呼んでもいいくらいだそうで、E級冒険者相当の能力はあるだろうとの事。心強いね。


 中州からアルパの街までは一日で往復できる距離だけど、さすがに急に来ていきなり連れ出すのは無理があるので、一泊して明日……と思っていたら、メルツと短く話したシーラが突然『これより即応訓練を行う、旅装で裏庭に整列!』と叫んだ。


 ――どうやら冒険者たる者……と言うか軍人たる者、いつでも急な事態に対応できるように心構えをしておかなければいけないし、なんなら夜襲にさえも即座に冷静に対応できないといけない。そのための訓練をするという話であるらしい。


 シーラ教官厳しいなと思うが、その心構えはメルツからも教えられていたらしく、命令一下全員があっという間に装備を整え、裏庭に整列するまで3分もかからなかったと思う。よく訓練されている。


 時間はまだお昼頃で、エリスが夕食の仕込を始める前だったので、緊急で夕食をキャンセルし、エリスも同行できないか訊いてみると、『私だけなら大丈夫です。すぐ用意しますね』と言って、本当にものの数分で準備を整えてしまった。


 なんだろう、エリスも軍人を目指していたりするのだろうか? ティアナさんが聞いたら全力で反対しそうだけどね……。


 そんな事を考えている間に、装備の点検をしている冒険者見習いの子達の一団に、エリスも合流する。


 用意してある食材は持って行く案も出たけど、道中狩りの訓練もするとの事で、エリス父に頼んで孤児院に届けてもらう事になった。


 なので今回はエリス父は留守番である……と言うか、クレアさん達の事もあるので留守番してもらう事にした。



 そんな訳で慌しく街を出発し、道中動物や小型の魔獣相手に狩りの訓練と食料調達もこなしながら、夕方前に中州の拠点の対岸まで来る事ができた。


 この先の行動はちょっと迷ったが、冒険者見習いの子達はメルツ・メーアと一緒にここで待機……ももったいないので、狩りと野営の実習をしていてもらい。俺とシーラ。エリスの三人で川を渡る。


 エリスには事前にクレアさん達の事を話しておいたが、嫌悪感的なものではなく、恐怖を感じているように見えた。


 エリスにとっては、単純に魔獣に襲われて攫われたというのが恐ろしいようだ。


 その先。攫われてからの事までエリスの想像が及んでいるかは分からないけど、無理に確認する事もないので、そのままそっとしておく。


 とりあえず、クレアさん達を見ても嫌悪感を見せなかったので、それで十分だ。


 エリスも山の民との混血で、特徴のある緑色の髪をしているせいで差別されたりしていたみたいだから、辛い気持ちが分かるのかもしれない。


 ……エリスとクレアさんを引き合わせ、それぞれ『アルパの街の拠点運営担当』『中州の拠点の管理担当』と紹介しておく。


 将来的に関わる事が多くなる二人だと思うので、仲良くして欲しい。


 今はとりあえず握手をし。ちょっと緊張してぎこちない感じで自己紹介をしただけだけどね。



 そんな訳で顔合わせを終え。一日でかなり建物を整備してくれていたティアナさんにお礼という訳ではないけど、エリスを引き渡し……と言うとなんか感じ悪いな。母娘水入らずの環境にしてあげて、あとは夕食を食べて就寝となる。


 明日は塩をアルパの街に運んで売却と、冒険者見習いの子達のこれからについての相談だ。


 あれこれ考えながら、一日中歩き通した疲労もあって、俺は急速に夢の世界に落ちていくのだった……。




帝国暦165年4月9日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・86万ダルナ

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2287万ダルナ(昨年秋時点)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×9


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア(協力者・中州の拠点管理担当)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の運営担当)

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