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75 塩の増産とメンタルケア

 クレアさん達と共に北の拠点に到着するや、ティアナさんは精力的に動いてくれた。


 まず冬に備えて厚手の服の作成、手袋や毛皮のくつなどの防寒具の作成、寝具の作成、食器の作成、そして住居の建設と急がしく働いてくれ。さらにその間に食料調達までこなしてくれる。


 服や食器は一応街で買ってきたのもあったけど、ティアナさんの手造りの方が断然質がいいので、そっちに切り替える事にした。


 ……それにしても、材料を全部森で調達してあっという間に手造りしてしまう手際は大したものだ。エルフの能力なのか、年の功なのか……年齢の話はしないでおこう。


 いつもならシーラも食糧調達をやってくれるのだが、現状シーラの姿が見えなくなるとクレアさん達が不安がるので、拠点で塩作りの手伝いをしてもらっている。


 その分ティアナさんの負担が増えているが、ティアナさんにとってもオークやゴブリンにさらわれていた女性というのは大いに同情する対象であるらしく、とても協力的で、積極的に手助けし、気を使ってくれる。


 塩作りの方はおおむね順調で、まきを大量に消費するので海岸の流木だけでは足りなくなってきたが、人数が増えたおかげで白石油の精製にも人手を割けるようになり、灯油的な物を使う事で解決した。


 今は塩作りの他にも、炊事から暖房、灯りにまで大活躍だ。


 同時に生産される白いドロッとした物質については、ロウソクに加工してみようとしたが、真っ黒い煙が大量に出るし臭いもキツイので、とても屋内使用はできそうにない。


 海狸かいり族の皆さんが言う瘴気しょうきの成分は、全部こっちに集約されるらしい。


 かと言って在庫が積みあがっていくのも困るので、利用法を研究してみた所。乾かすとかなり硬くなる上に、水をはじく事が判明した。


 どうやら、油には溶けるけど水には溶けない系の性質らしい。


 とはいえ、固めたら火が点き難くなるものの一旦燃え出したら火力は強いし、有毒ガスも出る。


 なので建材には使えない、火事になったら大惨事不可避だ。


 となると……有効な使い道はやっぱり、元の世界で言う舗装材だろうか? ある意味白いアスファルトみたいなものだしね。


 元の世界のアスファルトは木造船の漏水防止に使ったという話も聞いた事があるけど、今の所船を建造する予定はない。


 道路を作る予定もあまりないけど、せっかくなので拠点と白石油が湧き出る所を結んでみよう。


 これから消費が増えるなら、輸送は楽な方がいいからね。


 ティアナさんに頼んで荷馬車を作ってもらえば、馬のシルハくんにも久しぶりに活躍の機会が訪れるだろう。


 今でもシーラの発案で、クレアさん達と触れ合ってアニマルセラピーみたいな事をやってくれているけどね。


 シーラは自分が馬好きというのもあるんだろうけど、トラウマを癒すのに動物と触れ合うというのは、とてもいい思いつきだと思う。元の世界にもそういうのがあった。


 クレアさん達の反応も悪くないし、シルハくんもよく懐いている。……なんだろうね、この定期的に沸いてくるエロ馬疑惑? もう疑わない事にしたけどさ……。



 ――そんなこんなで設備と環境は順調に整っていき、それに伴って塩の生産量も上がっていく。


 やがて雪が降り始め、寒さが厳しくなってくるが、燃料は豊富なので大きな問題はない。


 塩作りは大量の燃料を燃やすので、冬は暖房にもなって一石二鳥だ。


 海水を汲みに行く作業は寒いし冷たいしちょっと危険だが、三人一組で行動してもらっているので、今の所事故は起きていない。


 冬の海でも平気で泳いでいる海狸族の皆さんの協力を得られるといいのだが、クレアさん達が脅えるからね……。


 二足歩行のビーバーみたいな姿と、オークやゴブリンはあんまり似ていないと思うのだけど、理屈ではなく無理なものは無理らしい。


 海狸族は全身毛皮で覆われてるし、耳の形も丸いので(ゴブリンとエルフよりさらに違う気がするんだけどな?)と思ったが、またティアナさんに怒られそうなので黙っておく事にする。


 とりあえず魚の供給はありがたいので、俺が窓口になって物々交換は継続している。


 料理はクレアさん達の中から得意な人が作ってくれるようになり。荷物を運ぶ人、火の番をする人、海水の補充や塩の処理をする人、白石油を精製する人、道路を作る人、掃除や洗濯・裁縫さいほうや道具類の手入れなんかをする人など、役割分担も自然とできてきた。


 まだなごやかに談笑する光景こそ見ていないが、みんな少しずつ表情が明るくなってきた気もする。


 アニマルセラピーの効果なのか、休憩時間にシルハくんに乗せてもらっていた女の人なんかは、少しだけ楽しそうに笑っているようにも見えた。いい傾向だと思う。




 そうして穏やかな時間が一か月、二か月と過ぎていき、年が変わって俺は13歳になった。


 この世界ではカレンダーがほとんど普及していないせいもあって、誕生日という概念は薄く。年が変わったらみんな一斉に歳を取るシステムだ。


 シーラは16歳、エリスは14歳になったはずだ。テイアナさんは何歳だったかな? ……どうせ三桁だからあんまり変わらないか。


 とはいえ俺としては、皇帝の平均寿命だった15歳まであと2年。今年は色々動く事ができると思うから、大事な年になりそうだ。


 北の拠点では新年だからと言って特別なお祭りなどはできないけど、作業を休みにしてささやかなパーティーを開き、みんなでちょっと豪華な食事を食べた。


 豪華な食事と言っても農地がないし、冬なので採取もできないから、食材は限られる。


 乾燥して保存しておいた山菜や木の実、果物なんかと、狩りで入手したお肉。海狸族との交易で手に入れた魚介類と海草がメインとなる。


 ……ちなみに元日本人としては、『ちょっと豪華な食事で魚』となるとお造りが思い浮かぶのだが、一応生魚を食べる事についてみんなに訊いてみた所、内陸出身のクレアさん達は全員『気味悪い』。山の民であるテイアナさんも『そんなもの食べなくてもちゃんと調理するよ?』と、否定的な反応だった。


 唯一シーラだけは、『非常の時にはなんでも食べないといけません。日常からそれに備えた訓練をしておくのは良い事だと考えます』とやや肯定的だったが、どっちかと言うと元の世界で言う昆虫食とかに近い感じで、非常食であってご馳走とは認識されていないようだった。


 そんな訳で、よく考えたら醤油しょうゆもないのでお造りを出す計画は断念となったが、せっかく寒さのおかげで新鮮な魚が届くのに、もったいないね。


 そんな事を考えながらも、ともかく新年のお祝いはわりと盛況の内に終了し。クレアさん達にも少しづつ表情が戻りつつあるのを感じる。


 ……と言うか、今や一番無表情なのはシーラなんじゃないだろうか?


 よく考えたらシーラも重たいトラウマ持ちで、生きる目的が父親の復讐と、母親と妹の救出に集約されている子なのだ。


 笑顔も後宮こうきゅう時代の作り笑顔の印象が強くて、本当に心から笑っている顔なんて浮かんでこない。


 あえて言うなら一番最初に出会った時。熱病で意識不明だった俺が目を覚ました時に見せてくれた、あの笑顔くらいだろうか? 俺が一目惚れしてしまったやつだ。


 だけどあれも安堵あんどの笑顔であって、楽しくて笑った訳ではないだろう。



 ……いつかシーラの心からの笑顔が見られる日を夢にみて。


 それを実現するために全力を投入する決意を新たにして。俺は帝国暦165年であるらしい新年を迎えるのだった……。




帝国暦165年1月1日


現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・86万ダルナ

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2287万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×9


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア以下21人(協力者・北の拠点生産担当)

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