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74 トラウマ

 北の拠点に移住してくれるというクレアさん以下21人は、残留する4人の見送りを受けて、中州の拠点を出発する。


 移住に関して意見対立を起こし、険悪になったりはしていないようでなによりだ。全員ではなく、希望者だけにしたのが良かったのかもしれない。


 各自に街で買ってきた水筒代わりの水袋を一つを渡し、5人ずつ小舟で岸に輸送する。


 ……俺はじっとそれを見ていたが、みんな表情は冴えない。不安なのか、希望がないのか……両方かもしれないね。


 ともかく対岸に集合し、シーラに護衛してもらいながら北へ向かって歩き出す。


 草原にはあまり強い魔獣は出ないけど、戦闘能力がない人が無防備に歩いて平気なほど安全な場所でもない。


 それこそ、オークやゴブリンが村を襲う事だってあるのだ。


 シーラの指示にはちゃんと従い、集団で行動するようにと注意をして進んでいく。



 ……幸いにも危険に遭遇する事はなく森に到達し、ここからはティアナさんが護衛に加わってくれる事になる。


 一旦小休止をして、ティアナさんを紹介しようとみんなの前に連れ出した……のだが、ティアナさんを見た瞬間『ヒッ!』と悲鳴を上げて何人かが身を固くし、視線を伏せて震える人や、隣の人の胸に顔を埋めて泣き出す人までいて、ちょっとしたパニック状態になってしまった。


「……ねぇアルサル君、私ってひょっとしてものすごく嫌われてる?」


 ティアナさんが棒読みの声を発するが、人間の山の民に対する感情は基本蔑視べっしであって、恐怖ではない。


 これは……あ。


 ある事にピンときた俺は、ティアナさんに小声で耳打ちする。


(あのですね、この人達実はオークやゴブリンにさらわれていた所を助け出された人達なんですよ)


(あぁ、それは……ってなに、私がオークやゴブリンに見えるって話? アルサル君の事殴っていい?)


(殴るのは勘弁してください……多分ですけど、耳が似ているんだと思います。オークはよく知りませんけど、ゴブリンの耳って長くて尖ってるでしょ? それで怖い記憶が蘇ってきたんだと思います)


(……やっぱりアルサル君の事殴っていい?)


(俺は似てるって思ってませんよ。でもティアナさんには不本意でしょうが、人間から見ると他種族の似た特徴に見えるって人はいると思います)


(……わかった、それは認めるとしてどうしたらいい? 女だって証明すれば解決するなら、服でも脱いでみせる?)


(そんな事してくれるんですか?)


(アルサル君だけどっか行ってくれるなら、女同士だったら別に問題ないよ)


 ……それはありがたい提案だけど、効果はなさそうな気がする。


 服なんて脱がなくてもティアナさんは十分女性に見える……と言うか女性にしか見えないから、それでもおびえた人達には効果がないと思う。


(せっかくですけど遠慮しておきます。申し訳ないですけど、姿を隠して少し離れた所から護衛して頂く事はできませんか?)


(お、自分が見れないと分かったから却下した?)


(そんなんじゃありませんよ)


(あはは、分かった。問題ないよ、姿を隠して見守る。指示がある場合はシーラを通じて伝えればいいよね?)


(はい、よろしくお願いします)


(うん。オークやゴブリンは女のエルフ族にとっても仇敵きゅうてきだからね、気持ちは分かるつもりだよ……)


 ティアナさんは、急に固い口調になってそう言った。


 俺をからかうような言葉を発していた時も、『あはは』と笑って見せた時も。本当に楽しんでいるような様子はなかったから、空気が重くなり過ぎないように気を使ってくれたのだろう。


 護衛をしてもらうのに隠れてなんて申し訳ない話だけど、快く受け入れてくれた、いい人だ。


 心の中で感謝しながら、俺はクレアさん達に向けて言葉を発する。


「彼女はエルフ……森の民と呼ばれる人です。オークやゴブリンと違って人間を襲ったりしませんし、そもそも女性ですからご心配なく。


 俺達の護衛をしてくれますが、シーラもいますから安心してください」


 多分頭ではわかっているはずだけど、一応ティアナさんは無害という事を念押ししておき。あとはクレアさん達に全面的な信頼を寄せられているシーラの名前を利用させてもらう。


 その効果は絶大で、シーラがいるというだけで全員の顔に安堵あんどの表情が宿り、動揺が静まっていくのが手に取るように分かる……さすがだね。


 クレアさんが代表してティアナさんに『よろしくお願いします』と言ってくれ、ティアナさんが『了解。前方で進路の探索と魔獣の警戒をしてくるね』と言って姿を消した事で、おおむね状況は平穏に戻ったと思う。



 ――それからもうしばらく休んで行動を再開したが、みんなせていて体力がないので行動はゆっくりとなり、いつもは三日ですむ所を五日かかって、全員無事に北の拠点に辿り着いた。


 道中はティアナさんの弟に出くわさないようちょっと先行して話をしたり、獲物を狩って来てくれるのに一緒にご飯を食べられないティアナさんに気を使ったりと色々あったが、ティアナさんの方でもこちらに気を使ってくれ、トラブルなく過ごす事ができた。


 そして道中の観察によると、クレアさん達が痩せているのは食料が足りないせいではなく、メンタル方面の問題であるようだ。


 食欲がないとの事でみんなあまり量を食べないし、夜は悪夢を見ているのか、うなされている人が多い。泣く人もいる。


 五日間一緒に過ごして一度も笑い声を聞かなかったし、軽い雑談などをしているのもついぞ聞かなかった。


 仲が悪い訳ではなく、むしろお互いを思いやる団結力はかなり高いように見えたが、いかんせん心の傷が深すぎるのだろう。


 それをどうにかするのも俺の役目だと思うが、正直効果的な方法はさっぱり分からない。


 帝国に家族を殺されたララク達なら復讐が生きる原動力になったけど、クレアさん達のかたきに当たる存在はもう討たれてしまっている。


 そしてそもそも、敵討かたきうちちで癒されるタイプの傷ではないだろう。このタイプの傷を癒すのに必要なのは……平和で穏やかな時間とかだろうか?


 イマイチ自信がないけど、今は他の手段も思いつかないので、この方向で進めてみようと思う。


 ともかく次の春まで一緒に住む事は確定している訳だから、様子を見たり話をしたりして、手探りで進めていこう。



 そう決意を固めて、到着翌日から早速、俺はクレアさん達に塩作りの方法を教えるのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・86万ダルナ(-14万)

・エリスに預けた冒険者養成所運営資金 2287万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×9


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

クレア以下21人(協力者・北の拠点生産担当)

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