7 ハーレム生活
シーラと密約を交わした俺は、しばらくの間皇帝として振舞いつつ逃亡準備を進める事になった。
ちなみに俺はやはり熱病で死ぬものだと思われていたらしく、その予定で準備が進んでいたらしい。
復活して一悶着あるかなと思ったけど、特になにもなく日常が進行している。
顔を合わせる後宮の人達からは快気祝いの言葉を貰ったけど、宰相や大臣からは挨拶どころか、手紙も使者も来ない。
本当に扱いの軽い、お飾り皇帝なんだなと実感させられる。
宰相は多分生涯に渡る宿敵になるだろうから、怖いけど今のうちに一度会っておきたい気もするけどね……その内機会があるだろうか?
――それはともかくとして、後宮生活の方はとても快適である。
三食美味しいご飯が山のように出るし、お菓子も食べ放題。お酒は頭痛がすると言って飲んでないけど、多分高級な品が沢山あるのだろう。
そしてそれらを、薄い服を着た美人なお姉さん達が食べさせてくれたり、着替えから入浴まで付っきりでお世話をしてくれるのだ。
将来的には夜のお世話までしてくれるらしいので、まさに天国と言っていい。
これは堕落しますわ……ダメ人間製造所だ。
ずっとここにいたい気になってしまうけど、たとえ無害な皇帝を演じ続けたとしても、宰相の趣味を知ってしまった以上『新しい皇帝の母親が欲しい』とかの理由で殺されてしまう未来が見える。
命の危険が尋常ではないし、なによりシーラとの約束がある。気をしっかり持って、流されないようにしないといけない……。
ちなみに快適な一方で馴染めない所もあって、それはプライベートが皆無な所だ。
常に二人以上傍仕えの女官がいて俺を見ているので、夜はゆっくり寝られないし、トイレにいたっては落ち着かない事この上ない。
とはいえ今までこうだったみたいなので、急にやめてくれと言ったら怪しまれるだろうから、なんとか耐えている。
傍仕えの人達も基本みんな美人なので、そんな人達に見られながらトイレとか、変な趣味に目覚めたらどうしてくれるんだ。
……そんな心配はともかくとして、この傍仕えの人達はシーラによると、全員宰相の息がかかっているらしい。
後宮には妃候補と皇帝の身の回りの世話をする傍仕え。あとは医者やメイドさん的なポジションの人達もいて皇帝以外全員女性だけど、傍仕えは皇帝の世話係という名目の割にはあまりその仕事をせず、実質皇帝の監視役として動いている。
夜寝る時やトイレの中までついてくるのは、妙な動きをしないか見張るため。
誰かとの接触はもちろん、調べ物をしたり手紙を書いたりなんかも絶え間なく監視され、怪しい動きがあれば宰相に報告されるのだ。
後宮では刃物と筆記用具の管理が特に厳しく、ごく一部の人にしか所持を許されていないが、前者は安全のため。そして後者は密かに外部と、あるいは内部で連絡を取り合うのを封じるためである。
……最初に全てを決めてしまおうと言ったシーラの言葉は、本当に正しかったと思う。
そんな状態なので逃亡用の宝石の確保はもちろん、シーラから受け取った忠誠の証である印章が記された布を守るのも大変だ。
なにしろ皇帝には全くプライベートな場所がなく、小物入れ一つ持っていないし着替えも傍仕えが見ているので、なにかを隠す事ができないのだ。
……仕方がないので隠すのを諦め、大っぴらにやる事にした。
幸い後宮には玩具の類が沢山あったので、その中から犬のぬいぐるみを選び。気に入ったフリをして常に持ち歩き、『もっと綺麗に飾り立てろ!』とわがままを言って、宝石を沢山縫いつけさせた。
結果として宝石で全身を覆いつくされた不気味な犬が完成したが、一応目的は達したと思う。シーラの印章が記された布は、スカーフみたいにしてぬいぐるみの首に巻いた。
妃候補の一人から布を貰い、それに重ねて巻いたので、ほどかなければ多分バレない……と思う。
あまりに大切にしていると怪しまれかねないので、基本その辺に放置して、たまに思い出したように遊び、夜は枕元に置いて寝るくらいのお気に入り具合に調整している。
それにしても、子供のわがままでぬいぐるみを飾るために本物の宝石が大量に使われるとか、後宮はホントに贅沢な場所だよね。
まぁ、服とかにも邪魔に思うくらい装飾品ついてるし、そういう文化なのだろう……。
そんなこんなで逃亡準備を進めつつ、皇帝の記憶もゆっくり検証して、この世界の事も知っていく。
そして出た結論は、どうやらここは俺が元いた世界とは違う。多分異世界であるらしい事。
魔法の存在は確認していないが魔道具はあって、後宮でも照明に使われている。
そして魔獣もいるらしく、大きな角が生えたクマみたいな生物の剥製が飾ってあった……こんなのがいるとなると、外に出るの怖くなるくらいの迫力だ。
一方で文明度は、少なくとも産業革命よりは前っぽい。ガラスや金属の加工技術はあるみたいだけど、プラスチックは見かけないし電気もない。車もなくて、馬が主要な移動手段みたいだ。火薬があるかは不明。
トマトやジャガイモっぽい野菜はあったけど、そもそも世界が違うなら、これをもって大航海時代以降と判断するのは無理がある。
周りの人に質問をしたくてしょうがないけど、不審がられるのは困るし。王宮には多分書庫とかあると思うんだけど、そこに行きたいと言うのも危険だろう。
勉強をする皇帝なんて、宰相の目には危険な存在に映るに違いない。
なので限られた情報だけで推測するしかなく、もどかしい日々だ。
ちなみに鏡があったので自分の姿を見てみたけど、すっごくかわいい美少年だった。
かわいい系ショタ皇帝とか、人生完全に勝ち確なのにね……宰相に国を乗っ取られていて、平均寿命15歳じゃなければね。
……思わず悲しい気持ちになってしまったが、その運命を変えるのが俺のやるべき事なのだ。
シーラとの約束を果たすためにも、まずは脱出を成功させなくてはいけない。
俺は固い決意を胸に、少しずつ情報を集め続けるのだった……。
現時点での帝国に対する影響度……1.2%
資産
・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ
配下
シーラ(部下)