69 人手募集
北の拠点に戻って一か月ほど。俺は塩の量産を続け、シーラとティアナさんは越冬準備を整えてくれている。
ティアナさんはいい木工道具を手に入れた事で、張り切って家を建ててくれ。俺達は洞窟暮らしから家暮らしへと移る事ができた。
他にも倉庫や家具、各種道具類も作ってくれて、拠点の設備は急速に充実しつつある。
季節は秋なので、シーラが木の実を大量に集めてきてくれて冬の食料にする他、川には鮭みたいな魚が大量に遡上してきて、海狸族のみんなが干魚を大量に作って持って来てくれる。
元の世界の鮭とばみたいでお酒が欲しくなるが、この体はまだ12歳なので我慢だ。
海狸族の皆さんは瘴気を払ってくれたお礼だと言うけど、さすがにタダで貰い続けるのは気が引けるので、交易品として籠や銛なんかを提供する。
海狸族はあまり手先が器用ではないので、こういった実用品が好まれるのだ。
ちなみに籠はティアナさん作成、銛も穂先だけ街で買ってきて、ティアナさんが柄をつけた物だ。
木材加工に関してはティアナさんに任せて安心である。
そんな訳で食糧の備蓄も順調に進み、俺達の冬越し準備が整った所で、雪が降る前に今年最後の交易に向かう事にする。
交易も三度目となると慣れたもので、ティアナさんの弟さんと会って塩半袋と傷薬三本を交換し、一本をティアナさんに持っておいてもらう事にする。
大山脈を超えて麓まで来た所で、荷物の半分をティアナさんに預けて街に向かい、街で一泊した後、エリスとエリス父を連れて戻ってくる。
今回は三泊四日の予定で家族水入らずで過ごしてもらう事にして、俺達は残りの荷物を持って再び街に戻り、これで輸送完了だ。
宿の管理人さんがいないので、冒険者見習いの皆とメルツ達は同じく三泊四日の野外演習に出ている。
なので、今この宿には俺とシーラの二人だけだ。
……二人っきりで宿泊施設。なにも起こらないはずが……なにも起こらないはずしかなく。二人で夕御飯を作って食べたのがちょっと新婚カップルっぽかった以外は、何事もなく過ぎていく。
翌日、馬車を借りて塩を売りに行った所、エリスに預ける資金を追加で1230万ダルナ確保する事ができ、この前聞いた30日間の経費が400万ダルナちょっとだった事、追加前の資金が1000万ダルナくらいあった事を考えると、問題なく冬を越せそうだ。
ちなみに塩の売値は、前回が同じ28袋で1540万ダルナだったから、二割ほど安くなっている。
市場でも確認したがようやく物価が下がり始めたようで、帝国の侵攻前と比べればまだまだ高いが、それでも少しずつ生活が元に戻りはじめているらしい。
もっとも、税金は増えたし駐留する帝国軍の経費も街に負担が命じられているらしいから、住民の負担は大きい。物価はともかく、生活水準が以前と同じに戻る事はないだろう。
この辺の不満も、将来的に反帝国の軍を起こす時に取り込めたらいいなと思う。
現時点では下手な動きをすると帝国に反乱の動きを気取られるリスクの方が大きいから、大人しくしておくけどね。
ともあれ物価が下がれば、塩の売り上げが落ちる代わりに冒険者養成所の経費も減るはずなので、特に問題はない。
俺が供給した塩も物価安定に一役買ったのなら、喜ばしい限りだ。
……そんなこんなで街での用事は済み、早くもやる事がなくなったけど、エリスを迎えに行くまでには時間があるので、シーラに相談を持ちかけてみる。
「ねぇシーラ、これから北の拠点に篭って春まで生産活動に専念する訳だけど、できればもっと人手が欲しい。心当たりいないかな?」
「どのような者をご希望ですか?」
「働いてもらうから大人である事が前提条件で、秘密を漏らさない口が固い人がいいかな。
場所が大山脈の向こう側だから、そこまで行くのに同意してくれる人で、春まで街を離れていても問題なくて、可能なら春以降もずっと拠点で働いてくれるとありがたい。変な噂が立たないように、いなくなってもあまり気にされない人だと完璧なんだけど……難しいかな?」
「……冒険者見習いから何人か選抜しますか?」
「それも考えたけど、あの子達には将来反乱軍の中核になるべく訓練をして欲しいからね。希望者がいるなら別だけど」
「全員復讐心を忘れていないので難しいでしょうね……どんな者でもよいのですか?」
「う~ん、タチの悪い犯罪者とかは困るかな。悪い事はしてないのに事情があって追われる身になった人とか理想だけどね。引退した冒険者とかで心当たりいない?」
「……冒険者ではありませんが、ある程度条件を満たす者達に心当たりがあります」
「ホント? どんな人?」
「働ける大人で、春までどころかおそらく移住も問題ない。移住してしまえば他の人間と接触しませんから、口の固さも問題ないでしょう。
悪い事はしていませんが街や村から追われる身で、いなくなっても気にされない。人間的にもそう悪い者達ではないと思います」
「ほぼ完璧じゃない……自分で条件出しといてなんだけど、そんな人いるの? しかも『者達』って事は複数?」
「はい、以前冒険者として受けた依頼で知り合ったのですが……」
――さっきから歯切れが悪いな。シーラにしては珍しい。
「なにか問題ある人達なの? ……そりゃまぁ、問題がなきゃそんな境遇にはなってないだろうけどさ」
「私としては問題ないのですが……その、失礼ですがアルサル様はお幾つになられましたか?」
「12歳」
「この街が帝国軍に占領される時、メルツがメーアを逃がそうとした理由をお察しですか?」
「帝国兵に乱暴されるのを避けるためでしょ……一般的な暴力じゃなくて、性的な」
なんか、シーラが言い淀んでいる理由が分かってきた。そりゃ子供には話し辛いよね。
俺は中身がアラフォーだから、その手の話には一応耐性がある。
戦場で死体の山を前にした時の耐性とかはないけどね……。
シーラは俺の様子を見て、話しても大丈夫と判断したのだろう。ゆっくりと口を開く。
「あれはギルドからの依頼を受けて、村を襲ったオークとゴブリンの群れを討伐に行った時でした……」
予想したのとちょっと違う話を、俺は(そっちか……)と思いながら聞くのだった……。
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・100万ダルナ
・エリス管理の冒険者養成所運営資金 2287万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×9(+2)
配下
シーラ(部下・C級冒険者)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)
ティアナ(エリスの協力者)




