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68 ティアナさんと弟

 北の拠点へと戻る途中。俺はふと思い出した事を訊いてみる。


「そうだティアナさん、エリスの事で忘れてましたけど、弟さんからの手紙の返事ってどうなりました?」


「……一応書きはしました」


 ティアナさんはそう言って、荷物から一枚の紙を出してくる……俗に言う、ペラ紙一枚というやつだ。封書にすらなっていない。


 ズシリと重かったエリス宛の手紙と、えらい違いだね。


「これだけですか?」


「はい。あまり書く事もありませんから」


「……ちょっと話逸れるんですけど、その固い口調ってもしかしてずっと続きます?」


「配下になったのですからそのつもりですが」


「ええと……配下ではなく協力関係って事で、今まで通り普通に話してくれません? なんか落ち着かないので」


「アルサル様がそうお望みならそのようにしますが、本当によろしいのですか?」


「ぜひお願いします。ティアナさんには直接俺とよりも、俺に協力してくれるエリスの協力者くらいの立ち位置でいて欲しいですから」


「……わかった。じゃあ改めてよろしくねアルサルくん」


「はい」


 微妙な間からすると、エリスを介しての関係の方が積極的に協力してくれそうと思っているの、感付かれたかな?


 でも感付かれた所で、エリスがそれを望んでいる限りティアナさんは全力で俺を手伝ってくれるだろうから、なにも問題ない。


 ……よし、話を戻そう。


「弟さんへの手紙、せめて封くらいしないと俺が読めちゃいますよ」


「別に読んだっていいよ。そんなに大した事は書いてないし、むしろ目を通しておいて欲しいくらいかも」


「はぁ……」


 そう言われて、休憩をかねて一時停止して、手紙に目を走らせる。


 中には短く、『情報感謝する。村に戻る事は諦めているから移転はどうでもいいが、人族との関係については様子を見る事を勧める。そちらに接触した勢力がアムルサール帝国であれば、現在対立中。撃退予定』と書いてあった。


「……撃退予定なんですか?」


「違うの?」


「いや違いませんけど……そんなすぐできないですよ。早くて数年。下手したら10年後かもしれません」


「10年くらい適当にはぐらかしてたら引き伸ばせない?」


「エルフの感覚だと10年は短いかもしれませんが、人間にとってはすごく長い時間です。そんなに引き伸ばすのは無理だと思いますよ」


「ああそうか、待つ時の10年は長いもんね……」


 ティアナさんはエリスと会えなかった時間を思い出したのか、苦しそうな表情を浮かべる。


 人間とエルフの時間感覚の違いを理解してくれたかは怪しいが、とりあえず10年は長いという事は理解してもらえたようだ。


「どうします、書き直しますか?」


「別にいいんじゃない。人間に奇襲されるほど間抜けではないだろうし、逃げるだけならなんとでもなるでしょ。


 そもそも、これが村の長老連中まで伝わるかが怪しいし。伝わった所で、村を追い出したはぐれエルフの言う事なんてまともに取り合わないだろうからね」


 ……たしかに、村に近付くだけで警戒の人が出てくるし、俺何回か交易してるけど、村がどこにあるかさえ知らないもんな。


 そしてティアナさん、ちょっと自虐っぽい事を言っているけど、意外と本音っぽい。


 これはもう完全に、優先順位がエリス>>>>>>>>村になっているのだろう。


 これに関しては俺が口を挟む事ではないと思うので、手紙を届ける仲介役に徹する事にする。



 ……間もなく弟さんの警戒圏にかかるからだろう。ティアナさんは上で再合流する約束をして、一旦俺達と離れていく。


 そしてしばらく山を登ると、例の男エルフさんが。ティアナさんの弟が姿を現した。


 いつもは友好的な様子なんて欠片かけらもないけど、今回は手紙の件があるからだろう。敵意と警戒心が薄い気がする。


「……ねぇシーラ、他のエルフさんが見張ってる気配とか感じる?」


「感じませんが、ティアナ殿と同等の能力を持った相手である場合は、察知できない距離にいる可能性はあります」


 なるほど……まぁ、それだけ離れていれば直接見えはしないだろう。木がいっぱい茂ってるしね。


 そう考えて、俺は無言のままスッと紙一枚を差し出す。


 エルフさんはそれが何か察したのだろう。無言のまま近寄ってきて、丁寧な感じで受け取ってくれた。


 いつもは警戒感全開でなるべく距離をとろうとするのに、なんか懐かなかった猫にマタタビを見せたら一気に友好的になったような。そんな感じがする。


 エルフさんは紙を受け取って目を走らせると、悲しそうに目を伏せた。


『村に戻る事は諦めている』って書いてあるからだろうね。


「ティアナさんは娘さんと再会が叶ったので、当分は寂しくないと思いますよ」


 この言葉が慰めになるかどうかは分からないけど、とりあえずそう伝え。様子を見るが、特別な動きはない。


 今すぐ新しい手紙をという事もなさそうなので、『今年中にもう一回街へ行く予定です』とだけ伝えて、その場を後にする。


 一応、他のエルフさんに聞かれてもギリギリ問題ない会話だった思う。



 しばらく進んでティアナさんと再合流したが、後を付けられたりもしていないようで、そのまま順調に山越えをし。三日目には無事北の拠点に帰り着いた。


 冬の山越えに関してはティアナさんに訊いてみた所、『雪が積もった状態で大山脈を越えるのは不可能ではないけど、かなり危険。大きな荷物を背負っては難しい』だそうだ。


 荷物に関してはそりみたいな物を作ってみる手もなくはないけど、ティアナさんが難しいと言うからにはかなりの物なのだろう。基本冬の交易は不可能という認識でいよう。



 なので冒険者養成所を春まで運営できる資金を確実に確保するため。俺は塩作りに邁進まいしんするのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・100万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×7


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

ティアナ(エリスの協力者)

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