67 新しい約束
一旦アルパの街に戻った俺達は、宿の裏庭でバーベキューパーティーを開く。
この世界にはバーベキューなんて言葉はないみたいだけど、まぁイメージだ。
ティアナさんがくれたお肉はかなりいい物だったようで、柔らかくて脂も乗っていて、最高に美味しかった。
冒険者見習いの子達にも大好評で、連日訓練続きの中、いい息抜きになったと思う。
……そして翌日。俺とシーラはお昼過ぎ到着を目指して、ちょっと遅めに街を出る。
道中も気持ちゆっくりめに歩いて、ちょっとだけシーラと二人のピクニックデート気分を味わいつつ、エリス達の元へ向かう。
――エリスを連れ戻しに来た形になる俺達を見て、ティアナさんは嫌な顔をするかなと思ったが、別段そんな事はなく。普通に迎えてくれた。
どうやら昨夜、エリスとしっかり話し合って納得してくれたらしい。
……とはいえ、納得したのと娘と離れるのが平気かどうかは別問題らしく。街へ帰るエリスを涙を浮かべて……と言うかボロ泣きで見送ってくれる。
ティアナさんはお土産をいっぱいくれたらしく、エリス父が大きな荷物を背負っているが、田舎に帰った時のお婆ちゃんみたいだね。
荷物を梱包する所を見たけど、お土産は魔獣の角とか牙とか毛皮とかで、あまり田舎のおばあちゃんっぽくはなかったけどね……干した薬草は少しだけそれっぽかったかもしれない。
ティアナさんと暮らす案も出ていたエリス父だけど、結局エリスと一緒に帰る事にしたらしく。別れ際にティアナさんと抱き合って長いキスをしていた。
……ちょっと羨ましいよね。俺もいつかシーラと……と思いながら、とりあえず今はエリスの意識を逸らす事に注力しておいた。
もうちょっと大人になってからね……。
そんなこんなでティアナさんと別れ、夕方よりちょっと前に街に戻ると、エリスは休む間もなく夕食作りに取りかかる。
ティアナさんから食材を貰ってきた上にレシピも教えてもらったらしく、やる気満々である。
その間に、俺達はエリス父から改めてお礼を言われ、ティアナさんが持たせてくれたお土産から『なんでも好きな物をお持ち下さい』と言われた……けど、遠慮しておいた。
売れば価値がある品なんだろうけど、これはティアナさんが愛する娘と夫に贈った品だからね。
売るにしろ飾るにしろ、使い道は二人で決めて欲しいし、なにより俺としては、今回の事でエリスとティアナさんからの強い支持を得る事ができれば、十分過ぎる成果なのだ。
……果たして翌朝。エリスからは改めて俺達の反乱軍計画に全面的に協力するとの言葉を貰う事ができた。
ティアナさんにもそう話したそうなので、多分ティアナさんの協力も得る事ができると思う。
やっぱりあの手紙、中身は反乱軍に関する案件だったんだね。
――という訳で、これで今回街に来た目的は全部果たした事になる。
冬が来る前にもう一回交易をしておきたいので、俺達は迅速に北の拠点に戻る事になった……。
シーラと二人、街を出て北上して森に入ると、すぐにティアナさんが姿を現す。
文句を言われる覚悟をして身構えていると、ティアナさんはおもむろに地面に膝を着き、頭を下げた。
元の世界で言う土下座ポーズ。この世界でも最大級の誠意を表す時に使われるポーズだ。
「娘と夫に会わせて頂いてありがとうございました……再びこんな日が来るなんて夢のようです。
それなのに一昨日は無礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした……」
予想外の行動に戸惑うが、エリスが街に帰ると言った時に俺を睨んだ、あの件だと思う。
……あれはまぁ、わりと俺のせいでもあったからね。
「気にしないで下さい……て言うか頭上げて下さいよ。思わず睨んでしまった気持ちは多少なりと分かるつもりですから。……いつかまた、家族一緒に暮らせる日が来るといいですね」
「はい……」
頭を上げたティアナさんは、本当に心の底から搾り出すように、その一言を口にする。
その日はきっとシーラの大願が成就する日でもあるので、俺としてもぜひ実現したい所だ。
そしてそのためには、ティアナさんの協力を得られるととても助かる訳で……。
「そういえば、エリスの手紙にはなにが書いてあったんですか? 言えるならでいいですけど」
「アルサル様の支援を得て、帝国の侵略で孤児になった子供達の支援をしている。その子達を助けて立ち直らせるまで。そのために必要とあれば、復讐を果たすまで手助けをしたい。
できるなら、国中の他の街にも同じ境遇の子が大勢いるはずだから、全員を助けるまで力を尽くしたいと。そう書いてありました。そのために可能なら、私の力も貸して欲しいと」
おおう、国中全員か。エリスってば、俺より視野が広いね。
人員はもっと必要だから、他の街でも同じ事をやるのは俺としても目的に適っている。
今すぐには無理だけど、来年の課題だね。
そういえば他の街がどうなっているとか、帝国本国の情勢がどうとか、全然情報が取れていない。
これも来年の課題だ。やる事いっぱいだね……。
そんな事をひとしきり考えた後、意識をティアナさんに戻す。
「目的は俺とエリスで微妙に違いますが、やる事は同じですからこれからも協力し合えると思っています……ティアナさんの協力もお願いできますか?」
「はい、もちろんです。家族と再会させて頂いた恩がありますし、なにより娘に頼まれました。できる事ならなんでもやります」
おお、これはとても心強い。
そして『なにより娘に頼まれました』という言葉。
昨日エリスには『できる事ならなんでも、できない事でもやる』と言っていたけど、俺に対しては『できる事ならなんでもやります』だけ。
これを併せて考えると、あくまでエリスが優先で、エリスが望む限り最大限の協力をしてくれるという事だろう。
ティアナさんに関してはこれでいい。俺の手助けをするよりも、エリスの手助けをするという認識の方が断然やる気を出してくれるだろうからね。
そんなちょっと小ずるい計算をして、手を差し出す。
「改めて、これからもよろしくお願いしますね」
「はい」
そう言って握手をし。三人パーティーとなった俺達は、足取りも力強く北の拠点へと向かうのであった……。
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・100万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×7
配下
シーラ(部下・C級冒険者)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)
ティアナ(エリスの協力者)




