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64 エリスの答え

 ティアナさんから、娘であるエリスへ宛てた手紙。


 それを読んでエリスがどう反応するのか、確認するために言葉を発する。


「エリス、長い手紙だったけど読み終わった?」


「はい、最後まで読み終わりました」


「そう……どうだった?」


「記憶の奥底にぼんやりと残っていたお母さんの思い出が呼び起こされて、とても懐かしかったです……。そして、お母さんがずっと私とお父さんを心配してくれていた事、なんとか連絡を取ろうと苦心していてくれたのを知る事ができました」


 その言葉を口にしながら、エリスの目に涙が滲む……今朝目が赤かったのは、やはり泣いていたからなのだろう。


 手紙を持ってきてよかったなと感慨かんがいに浸っていると、指先で涙を拭ったエリスが、深々と頭を下げた。


「手紙の中には、これを届けられるのはアルサルさんのおかげだと書いてありました。ありがとうございます……」


 その言葉に、隣に座っているエリス父も並んで頭を下げる。


「お役に立てたのならよかったよ……それで、返事どうする?」


「それなのですが……」


 エリスはちょっと複雑そうな表情を浮かべ、視線を父親に向ける。


「お父さんも手紙貰ったんだよね。お母さんに会いに行くつもり?」


 突然話を向けられ、エリス父はちょっと動揺した様子を見せたが、すぐに落ち着いた声で返事をする。


「俺は、会いに行きたいと思っている……」


「私も連れて?」


「できればそうしたいが、大山脈はとても危険な場所だ。おまえを連れて行くのは抵抗がある……」


 ……たしか、冒険者時代に所属パーティーが魔獣に襲われて全滅したんだよね。


 その中で一人だけ。重傷を負った所をティアナさんに助けられたのだと聞いている。


 そんなトラウマの場所に大切な娘を連れて行くのは、そりゃ抵抗あるよね。


 シーラとティアナさんが規格外だから忘れそうになるけど、大山脈はそれだけ危険な場所。上級冒険者でなければ、踏み込むだけで命の危険を伴う場所なのだ……。


「――あの、会いに行くなら俺達が護衛しますよ。ティアナさんもふもと近くまで降りて来ていますから、合流できれば危険は少ないかと」


 そう口を挟むと、エリス父は表情を明るくして『本当ですか、それなら娘も連れて行けます』と嬉しそうに言う。


 エリスはその様子を見て、心から安堵あんどしたように声を発した。


「よかった……お父さんと母さん、喧嘩けんかして別れた訳じゃないんだね」


「え? いやいや、離れ離れになってしまった理由は話した事あるだろう?」


「うん……でもさ、仮に喧嘩して別れたとして、それを正直に子供に話したりはしないでしょ」


「…………」


 おおう、エリスは頭のいい子だと思っていたけど、そんな事まで考えていたのか。


「エリス、俺は直接ティアナさんに会ったけど、本気で二人の事を心配していたよ。これは間違いない。一目またエリスに会えるのなら、その後人間に奴隷として売られてもいいとまで言ってたんだから」


「――――そう、ですか……私はそんなに愛されていたんですね……」


 これは、エリスの中では自分は母親に捨てられた可能性まで考えていたのかもしれない。


 実際長い間、母親からはなんの連絡もなかったのだ。


 エルフと人間の間に産まれた子供という特殊な立場であってみれば、色々と思う所もあったのだろう。下手に頭がいい分、余計な事まで考えてしまったのかもしれない。


 孤児院の子供達を熱心に支援していたのも、近い境遇を感じていたからなのだろうか……。


 だけど今、そんなエリスの不安は杞憂きゆうだった事が分かった。


 それなら多分、いい返事がもらえるはずだ。


「エリス。最終的な決定事項として、手紙への対応どうするか考えてみてくれる?」


「それならもう結論が出ています。……アルサルさん、私とお父さんをお母さんの所へ連れて行ってください。お礼はいつか、必ずしますから」


「――うん、わかった。お礼はいいよ、エリスは俺達の……仲間だからさ」


 一瞬『同士だから』と言いかけたが、エリス父に反乱軍の事は内緒だった。


 仲間なら、冒険者養成所の運営仲間という事で違和感ないだろう。


 エリスは敏感にその辺を察してフォローを入れてくれ、エリス父に疑われた様子はない。


 ホントに優秀だねこの子。


 そんな訳で二人揃ってティアナさんに会いに行く事が決まり、日程は明日シーラが帰ってくるのを待って、明後日の予定となった。


 エリスは母親宛に手紙の返事を書くそうで、直接会うなら要らない気もしたが、まぁ本人の自由に任せておこう……。




 翌日。演習から帰ってきたシーラに話をしてみると、別段疲れとかはないとの事で、翌朝の出発を了承してくれた。


 ……演習に参加したメンバーは、メルツとメーアも含めて全員ボロボロだけどね……なにがあったのだろう?


 比較的危険が少ない場所で、狩りと野営と採取だったはずだけどね……後からメルツに訊いてみよう。大体シーラのせいな気がするけど……。


 とりあえずエリスが復帰したので、お風呂に晩御飯にと活躍してくれる。洗濯は訓練をかねて各自でやるらしい。



 ……ちょっと落ち着いた所でメルツに訊いてみると、夜営の時に抜き打ちの敵襲訓練があったらしい。


 メルツ達にも内緒で、シーラが襲撃者役……という時点で、どんなだったかおおよそ想像がつくよね。


 みんなの汚れ具合からしても、わりとガチ寄りの実戦的な訓練だったのだろう。


 まぁ、最終的には実戦を想定しているんだから、必要な訓練ではあるんだろうけどさ……。


 とは言え、初回でいきなりというのはどうなのだろう? 脱落者とか出ないといいけどなぁ……。



 そんな不安も感じながら。とりあえず今はエリスの母娘再会に向けて、山へ向かう準備を整えるのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・100万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×7


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

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