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62 母からの手紙

 エリスが再び俺の部屋を訪ねてきたのは、意外と早くだった。


 意味深に『大事な話がある』と言ってしまったので、気になって急いだのだろう。


 不安そうな表情で部屋に入ってきて、椅子いすに座る動きも微妙に固い。



「……あの、父が何かしましたでしょうか?」


 そして座るやいなや、予想外の事を口にした。


「いや、別になにもないけど……どうして?」


「先ほど顔を合わせたのですが、様子が変でした。何かあったのかと問い詰めても、『明日話す』の一点張りで……」


 ああなるほど。俺が『エリスと話すのは明日以降がいい』と言ったので、隠そうとしたのか……ホントに誤魔化すの下手なんだね。


「えっと、エリスのお父さんが何かした訳じゃないよ。でもエリスのお父さんにも関わる話ではある。……実は、北の大山脈でエリスのお母さんと会った」


「…………え?」


 完全に想定外の言葉だったのだろう。目を点して固まってしまう。


「ゴメン、エリスのお父さんにはしばらく秘密にしておいてって言ったんだ。エリス宛にも手紙を預かってきてるから、それを読んでからの方がいいかなと思って」


 そう言いながら、分厚い紙束をテーブルに乗せる。


 エリスは突然の事に状況が飲み込めていないのだろう。テーブルに置かれた紙束に視線を向けたまま、完全に固まってしまっている。


 ……たしか、ティアナさんはエリスと一緒に暮らした時間を五年間だと言っていた。


 つまりエリスが五歳の時に別れた訳で、元の世界で言えば小学校に上がる前。母親の事をあまりよく覚えていないのかも知れない。


 そんな母親からいきなり手紙だと言われたら、そりゃ戸惑うよね……。



 かすような案件でもないので、ゆっくりエリスの反応を見守っていると、しばらくして少しずつ事態を飲み込めてきたらしい。


 視線は手紙固定で体は固まったまま、それでも言葉を発する。


「私のお母さん……ですか?」


「うん、エリスのお父さんにも手紙を渡したけど、その反応を見る限り偽者ではなかったと思う。……エルフだってのは知ってるよね?」


「はい……」


「エルフは人間に捕まると売り飛ばされたりするらしくてね、今まで会いに来られなかったみたい。


 だけど元気だったし、エリスの事を本当に心配していたよ。それが手紙の厚さにも現れていると思う」


「…………」


 手紙を渡した時、父親はすごい勢いで。それこそひったくるようにして読んだけど、エリスはかなり戸惑いが強いらしい。


 テーブルに置かれた手紙をじっと見つめたまま、全然動かない。


 ここは俺がもう一押しする所なのだろう。


「エリス、お母さんの名前は知ってる?」


「『ティアナ』という名だと、父から聞いています」


『父から』か……自分では覚えていないくらい小さい頃に別れたって事だよね。


「うん、それでそのティアナさんは、エリスに会いたいって言ってる。


 もちろんエリスが望むならだけど、会いたいなら俺達が護衛してティアナさんの所まで送り届けるよ。答えは急がないから、とりあえずこの手紙を読んで考えてみて。


 お父さんに相談してみるのもいいし、俺でよければいつでも相談に乗るからさ」


「はい……」


 エリスはそう言って、ようやく手紙を受け取ってくれた。


「じゃあ、明日の仕事は俺が代わりにやるから、長い手紙だけどゆっくり読んでみてよ」


 そう言った瞬間、エリスが勢いよく顔を上げる。


「――それはいけません! ちゃんと宿代を頂いているのですし、アルサルさんにそんな事をやらせる訳にはいきません。宿の仕事は私がやります!」


 おおう……なんか急に元気になったな。責任感パワーだろうか?


 とはいえ本ほどもある手紙だから、とてもすぐには読み終わらないだろう。


 かと言って、ほとんど記憶にないほど昔に別れた母親からの手紙だ。半分だけ読んで、残りは翌日に回して寝るとか難しいと思う。当然一気読みの徹夜になるだろう。


「……分かった、じゃあ明日は冒険者養成所のみんなには、泊まりの野外演習に出てもらう事にするよ。ええと……朝ごはんはもう仕込んであったりする?」


「はい、大まかには」


「そっか、じゃあ朝ごはんだけお願いして、明日の晩ごはんと明後日の朝ごはんはいらないから、その間に手紙を読んで考えてみて」


「……わかりました、ありがとうございます」


 エリスはそう返事をして深く頭を下げると、手紙を抱えて部屋を出て行く。


 大切そうに持っているから母親に悪感情がある訳ではなさそうで、ちょっと安心した。



 ……エリスを送り出して、俺はシーラに向き直る。


「シーラ、明日はどうする? エリスの事が気になるなら宿に残ってもいいし、冒険者見習いの子達を訓練したいなら、演習に同行してもいいよ」


「エリス殿との話に私がいてもお役に立つ事はないでしょうから、演習に同行したく思います」


「了解。じゃあメルツと打ち合わせに行こうか」


「はい……ですがアルサル様、私がおそばを離れると護衛をする者がいなくなりますから、身の回りにはご注意ください」


 ここは大山脈でも北の大地でもないので、魔獣に襲われたりする心配はないけど、街には街の危険があるか……。


『わかった、宿から出ない事にするよ』と約束して、メルツ達の部屋へと向かう。


 もうすっかり夜だったけど、幸いすぐに応対できないような事はしていなかったらしく、すぐに部屋に入れてもらう事ができた。


 いきなり明日野外演習と言うのも急な話だけど、シーラに言わせると急な事態に対応できるようにするのも兵士の訓練の一つだそうで、そこはメルツも同意してくれて、スムーズに話が進んだ。


 まだ小さい子もいるので、場所は街の近くの草原。狩りと採取に分かれて、狩り組はシーラとメルツの護衛と指導の下、ウサギや鳥、草原に出る弱い魔獣なんかを狩る。


 採取組はメーアの護衛と指導で薬草などの採取。夕方から二組共同で解体と調理をして、夕食後夜営。交代で見張りを立てる訓練もする。


 翌日は朝食後、昼過ぎまでみんなで森に入って浅い所で採取をし、夕方帰還の予定となった。


 草原から森の浅い部分はF級冒険者の一般的な活動圏なので、危険は少ないとの事だけど、E級になったのでちょっと森の奥まで入ってみたら、強力な魔獣に出くわして全滅しかけたメルツとメーアパーティーみたいな例もあるので、油断はできない。


 メルツとメーアだけでは少し心配なので、シーラが同行できるのは貴重な機会だ。



 そんな感じで計画をまとめ上げ、あとは明日に備えて寝る事にする。


 演習の方はシーラがいるし、子供達はメルツとメーアの言う事をよく聞くようだから心配してないけど、エリスの方はどうだろうね?


 もし母親には会いたくないなんて言われたら、ティアナさんひざから崩れ落ちて泣いちゃうんじゃないだろうか?



 二人が笑い合える結果になるといいなと思いながら、俺もベッドに入る。


 今日先行したシーラから、今日俺が来ると聞いたのだろう。エリスが手入れしてくれたらしいベッドはフカフカで温かく、とても気持ちよかった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・100万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×7


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

申し訳ありません、サイトの仕様変更に対応しておらず定期更新が一回飛んでしまいました。

これが無事投稿されていれば今後は大丈夫なはずです。

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