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61 妻からの手紙と会計報告

 塩の売却を終え。馬車を返してエリスの宿屋に戻ると、冒険者ギルドに向かったメルツ達はまだ帰ってきていないらしく、メーアが居残りの小さい子達に読み書きや計算を教えていた。


 この子達の出自は様々で、裕福な家の子で読み書き計算をすでに学んでいた子から、全くできない子までいたらしい。


 だけど一か月が過ぎた今、みんなそれなりにできるようになって、お互い教え合ったりもしている。


 表向きは冒険者として、実際は帝国と戦うための戦士として教育している訳だけど、もし目的を果たせる日が来たら。今の帝国を倒して家族の仇を討てる日が来たら、その先には第二の人生が待っているのだ。


 そのためにも基礎教育はあった方がいいし、戦士と言っても部隊指揮官とかを任せるなら、読み書き計算が必要になる場合もあるだろう。


 冒険者稼業には必ずしも必要ではないし、実際読み書きができない冒険者は結構いるけど、できた方がいい事には違いないので、表向きにも怪しまれないと思う。


 初期メンバーは教育期間を長く取れるので、適性次第ではあるけど、基幹要員に育って欲しいよね。


 そんな事を考えながらしばらく授業を眺めた後、俺は宿の裏手へと向かう。


 そこは井戸があって、厨房と勝手口で繋がっている。


 エリスの父親が常駐していて、水汲みや食材となる動物の解体、豆の殻剥きとか食材の下処理をしていた場所だ。


 ――果たせるかな、今日もそこに主がいて、ハンマーを振るって動物の骨を砕く作業をしていた。


 スープのダシを取るための作業で、こうしたほうが早く味が出るのだそうだ。ティアナさんもやっていた。


 ティアナさんはハンマーではなく石を使っていたし、細い骨は直接手で折っていて、それを見たシーラが例によって対抗意識を燃やしていたけど、かなり力がいる作業だったらしい。


 エルフの身体能力は総じて人間より高いらしいけど、そこには筋力も含まれるのだろう。


 それはともかく、エリスが作る安くて美味しい料理は、裏方を勤める父親にも支えられているのだ。


 骨は強火で長時間煮込めば同じ効果を得られるのだろうけど、まき代が馬鹿にならないし、野営ではそんな時間はとれないからね。



 ……しばらく見ていると、作業が一段落付いたらしい。


 エリスの父親は砕いた骨を大きな鍋に入れると、勝手口を通って厨房に運び込む。


 続いて、井戸から汲んだ桶いっぱいの水も運んでいく……人数が多いので調理担当のエリスも大変だろうね。山からの道中でメルツに聞いた限りでは、張り切って楽しそうにやってるみたいだけど……と、そうだ。


 ここへ来た目的を思い出し。戻ってきたエリス父の前に姿を現す。


「ご無沙汰してます」


「…………」


 元々そうなのか、あるいは自分のせいでティアナさんの秘密がばれてしまったトラウマからなのか、とても無口な人で、一年間泊まっている間もほとんど絡んだ事がなかった。


 今も、怪訝けげんそうな様子でこちらを見ているだけだ。


 なので細かい挨拶とか世間話とかは省略して、いきなり本題に入る。


「北の大山脈でエルフの女の人と会いました。昔、山で魔獣に襲われていた冒険者を助けた事があるそうです」


 その言葉に、エリス父の顔色が変わる。


「人間と関わった罪でエルフの村からは追放されたそうですが、本人は元気そうでしたよ。手紙を預かってきました」


 そう言って薄い方の紙束を取り出すと、エリス父は一瞬強い動揺を見せたが、次の瞬間には奪うようにして手紙を受け取り。食い入るように読みはじめる。


 手紙を握る手が、ブルブルと震えていた。


 ……どんな事が書いてあるのか、後ろからそっと覗いてみたい衝動に駆られるけど、それをやっても気付かないだろうくらい手紙に集中している。まぁ、やらないけどね。


 とはいえ冊子さっし一冊分。読み終わるまで待っていると時間がかかりそうだ。


「俺達は部屋に戻っていますから、なにか用があったら来て下さい。娘さん宛にも手紙を預かっていて、今夜渡そうと思っています。なのでこの件について親子で話すのは、明日以降をオススメします」


 聞こえているか不安だったが、エリス父は顔を上げると『分かった……ありがとう』と短く言って、すぐに手紙に戻る。


 これ以上この場でする事はなさそうなので、俺とシーラは一旦部屋へと戻るのだった……。



 部屋に戻っても差し当たりやる事はないので、シーラとこの先の反乱軍編成計画を話し合って時間を過ごす。


 こちらも普段無口なシーラだけど、軍隊の話になるととても饒舌じょうぜつになる。


 シーラとしても冒険者見習いの子達には反乱軍の部隊長レベルへの成長を期待しているようで、時間があれば自分で直接指導もしたいとの事。やる気満々だ。


 その辺の計画を立てたり、戦術教本の作成を俺とシーラでやる相談をしたりしている内に夕方になり、ドアがノックされたので出てみると、嬉しそうな笑顔を浮かべたエリスがいた。


「アルサルさんお帰りなさい。夕食の用意ができましたけど、食堂で食べますか? こちらにお運びする事も可能ですが」


「あー……食堂は混むかな?」


「20人以上が一斉に食事をしますから、混みますね」


「じゃあ悪いけどここに運んでくれる? できればエリスと一緒にごはん食べたいけど……忙しいかな?」


「大丈夫ですよ。メーアさんの方針で、配膳と後片付けは生徒の皆さんが自分達でやる事になっています。


 本当は調理も教えたいみたいですが、時間がかかるのと秘伝の味付けだと思われているみたいで。私は構わないと言ったのですが、遠慮されているみたいです」


 おお、懐かしいな。俺も小学生の時に給食当番とかやったわ。


「じゃあ一緒にごはん食べようか、色々話したい事もあるからさ」


「はい!」


 俺の言葉にエリスは嬉しそうな笑顔を浮かべて、小走りで厨房へと駆けていく……。



 しばらくして部屋のテーブルに並んだのは、エリス特製の木の実入りパン、エリス父が下ごしらえをしてくれたスープ、ドライフルーツのパイだった。


 スープには野菜とお肉がたっぷり入っていて、これだけでお腹いっぱいになりそうである。


 実際野営の時の食事って、基本スープだけ。雨で火を起こせない時なんかは硬い干し肉をかじるだけとかが普通だし、この世界の一般庶民の食事は、家にいてもパンとスープだけというのが普通なのだ。


 豪華さはスープの具と味付けで決まり、お肉が入っていたり塩味が効いていると豪華判定になる。海から遠い場所では塩が貴重で高価だからね。


 その意味では、具沢山で塩味も効いているこのスープはかなり上等なもので、おまけにダシも効いている絶品だ。


 これとパンだけでも一般では相当豪華な食事なのに、それに一人一切れドライフルーツのパイがつく超豪華版だ。


 下級とはいえ貴族家の出身であるメルツでさえ、ここの料理は豪勢だと言っていたほどである。


 食事は豪華にしてあげて欲しいという俺のお願いが反映されているようで、ありがたい限りである。


 孤児院にいた頃はみんな痩せていたし、冒険者をやるにしても反乱軍をやるにしても体が資本で、体を作るには食事が基本だからね。



 冒険者養成所の運営状況を聞きながら、北の拠点では食べられない穀物を味わい。


 料理の味を褒めると照れて赤くなるエリスが可愛いなと思いながら夕食を食べ、食事が終わった所でお土産の塩一袋を渡す。


 塩の売り上げも渡し、代わりに会計報告書を受け取る。この先は簡単な運営会議だ。


 報告書をパラパラめくってみた所、現状生徒数21人で、直近30日間の経費が412万ダルナ。運営資金のプールが今渡した塩の売り上げを含めて、1909万ダルナあるらしい。


 ざっくり四か月ちょっと持ちそうだけど、冬になると大山脈を越えるのは難しい気がするので、それまでに春まで過ごせるだけの資金をプールしておきたい。


 エルフのティアナさんなら冬でも山を越えられるかもしれないけど、あと一往復交易をこなせばそれで足りると思うので、その方が安全確実だ。


 今は秋だから、雪が積もる前に行動を完了したい。


 そして冬の間は北の拠点にこもって塩を大量生産して、春以降作り貯めた塩を資金源に、反乱軍の体制を充実させていく。


 そんな相談をシーラ、エリスを交えて行い、みんなの合意を得られた所で会議は終了となる。


 テーブルを片付け始めたエリスに、俺はゆっくりと言葉を発した。


「エリス、今日の用事が全部済んだら俺の所に来てくれる。大事な話があるんだ」


「……はい」


 ゆっくり手紙を読めるように、渡すのは仕事が全部終わって、後は寝るだけくらいのタイミングがいいだろう。



 そう考えて、俺は少し緊張した様子のエリスを一旦部屋から送り出すのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・100万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×7


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

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