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59 親心

 帝国の手がエルフの村まで伸びつつある事を知り、俺はティアナさんを反帝国軍の仲間に誘ってみようと、秘密を打ち明ける決心をする。


 元々シリアスモードだった空気を更に固くするように、真剣な顔と声で言葉を発する。


「ティアナさん、実は聞いて欲しい話があるんですけど、俺実はアムルサール帝国の先代皇帝で……」


 俺の生い立ちと、使い捨てだった皇帝の境遇。シーラと一緒に帝都を逃げ出してからの事を、順を追って話していく。


 例によって、転生前の記憶があるのは秘密だけどね。



 ……そこそこ長い話を語り終え。さて反応はとティアナさんを見る……と、なんか可哀想かわいそうな人を見るような目をしていた。


 あ、これ信じてないな……まぁ無理もないけどさ。


「信じられないのは当然だと思いますし、証拠を見せろと言われてもなにもありません。


 だから今は、俺がそう言っているという事だけ覚えておいてください」


「う、うん……」


「それでここからが本題なのですが、俺達は帝国に対して反乱を起こすつもりでいます。それにティアナさんも手を貸してもらえませんか? 実はすでに、エリスには仲間になってもらっているのです」


 その言葉に、今まで引き気味だったティアナさんの表情がキッと厳しくなる。


「あの子に危ない事をさせるつもりなの?」


「一応、戦闘要員ではなく後方での仕事をやってもらう予定でいます。エリスは賢いですから」


 ティアナさんは『エリスは賢い』の部分でちょっと顔がデレたけど、さすがにすぐ厳しい表情に戻る。


 いくらなんでもそこまでチョロくはないようだ。


「無理やり仲間に引き込んだんじゃないよね?」


「そんな事はしませんよ。反乱軍という立場上、信頼関係がある相手じゃないといけませんから。無理やり仲間にして、密告でもされたらおしまいでしょう」


「でも、脅迫してとかって可能性もあるじゃない。父親を人質に取るとか、そこまで行かなくても、父親が仲間に加わっているから仕方なくとかさ」


「エリスには『お父さんには秘密にしておくのがいい』って言われました。信用できないからとかじゃなくて、馬鹿正直で隠し事が苦手だからって」


「…………あはは、そりゃそうだ。あの人にそんな事話したら見るからに挙動不審になっちゃうよね。変わってないんだ、懐かしいなぁ」


 厳しい目から一転、ティアナさんは突然笑い出したかと思うと、穏やかな表情になる。


 自分の事が村の人達にバレたのもエリス父の性格のせいだと言っていたけど、本当にそういう所まで含めて好きなんだね。


 ……ひとしきり笑った後、ティアナさんは少し表情を真面目に戻して口を開く。


「わかった、エリスが自分の意思でアルサル君に協力してる事は認める……あ、呼び方変えたほうがいい?」


「今は一冒険者ですから、アルサルでいいですよ」


「そう、じゃあエリスが自分の意思でアルサル君に協力してる事は認めるけど、母親としては……全然母親らしい事はしてあげられてないけど、それでも娘に危ない事はさせたくない」


「戦場で戦う訳ではなく後方要員なので、比較的危険は少ないと思いますが……」


「それでも、もし捕まったりしたらタダじゃ済まないでしょ?」


 それはそうだ。ティアナさんが知っているかは分からないけど、反逆罪なんて死刑が当然だし、見せしめとして公開処刑や晒し首みたいな事もあるかもしれない。取調べで拷問を受ける事だってあるだろう。


 エリスがそんな目に遭うなんて、俺でも耐えられないのに、母親だったら尚更だろう。


 戦場では後方にいると言っても、それはもっと戦力が充実してからの話で、脆弱な今宿に踏み込まれたりしたらどうしようもない。


 危険が大きいのは間違いない事実なのだ……。


「…………」


 言葉を返せないでいると、ティアナさんはなぜかフッと表情をやわらげた。


「アルサル君はいい子だよね……今黙り込んだのは、エリスの事を真剣に考えてくれたからでしょ?


 もし無責任に『エリスの事は俺が守ります』とか言われたら、具体的な計画はあるのかとか、そもそもおまえそんな事言えるほど強いのか私と勝負しろとか問い詰めた所だけど、悩んでくれたって事は、エリスの事を本気で心配してくれたんでしょ。


 根拠もないのに自信満々で調子のいい事言う人より、ずっと信用できる。さすが私の娘、エリスの人を見る目は確かだねぇ」


「それは……ありがとうございます。ではエリスが反乱軍に入るのを認めてくれますか?」


「それとこれとは話が違う……って言いたいけど、最終的には本人が決める事かな。親としては一度は反対するけど、それでも本人が望むなら止めようがないからね」


 おお、さすが村の掟に反してエリスの父親を助けた人だ。物分かりがいい。


 思わずそう口に出そうになったのをそっと飲み込み、話を先に進める。


「では、会って話ができたらその時に。無理だったら後日手紙で確認してみてください……それで、ティアナさん自身は俺達に手を貸してくれますか」


「そうだねぇ……エリスが協力するなら私も手伝ってあげる」


 おお、これはもう事実上の承諾と言ってもいいのではないだろうか?


「分かりました……そういえば、エリスへの手紙は完成したんですか?」


「もうちょっと待って、まだ書き加えたい事があるから」


「はい……でも明日には持って行くので、それまでには完成させてくださいね」


「了解了解、分かってるよ……久しぶりの娘への手紙だからさ、考えれば考えるほど書きたい事が出てくるんだよね」


 そう言って楽しそうに笑うティアナさん。屈託くったくのない笑顔がホントにかわいい。


 俺にはシーラという心に決めた人がいるからいいけど、そうでなかったら惚れていたかもしれない。


 旦那さんも子供もいる人……エルフなのにね……。



 そんな事を考えながら、俺は鼻歌交じりにペンを走らせるティアナさんの姿を、温かく見守るのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・100万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×7


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

※58話に誤字報告をくださった方ありがとうございます。こっそり修正しておきました。

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