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58 家族からの手紙

 箱の底から出てきた、エルフの男の人からの手紙。


 ティアナさんはそれを食い入るように読み。もう一回読み直して、宙を見上げる。


 俺はたきぎ拾いを切り上げ、ティアナさんの近くの倒木に腰を下ろして、火をおこすべく薪を組み上げていく。


 ……しばらく静かな時間が過ぎた後、ティアナさんが言葉を発した。


「あ、その組み方じゃダメだよ。もっとこう、隙間を空けつつ高くしないと上手く燃えないよ」


「お、おう……」


(そっちかい)と突っ込みそうになったが、まだ気持ちの整理がついていないのかもしれない。


 ティアナさんに手伝ってもらって火が熾きると、ティアナさんはおもむろに手紙を火に投げ込んだ。


「――いいんですか?」


「うん、読んだら焼くようにって書いてあったから」


「そうですか……誰からだったのかとか、訊いてもいいですか?」


「弟だよ。色々迷惑かけちゃったから、文句がいっぱい書いてあったね」


 そう言って苦笑するティアナさん。近しい間柄だろうと思っていたけど、弟だったのか。


「文句以外はなにか書いてありました? 言いたくなければ言わなくてもいいですけど」


「……村に戻るのは一生無理だろうって」


「それは……エルフの一生ってどのくらいですか?」


「さぁ? 1000年とか1500年とか言うけど、正確に数えた人はいないんじゃないかな? 私も200歳までは数えてたけど、今は分かんないもん。270歳くらいだと思うけど」


 おおう……さすが長命種。文字通り桁が違う。


 そして、なんとも重たい話だ。


 今はまだエリス父やエリスと再会できる可能性があるけど、人間の寿命なんて100年もない。


 ハーフエルフであるエリスは人間より長生きかも知れないけど、純粋なエルフであるティアナさんよりは短命だろう。


 ティアナさんは残りの一生、数百年単位の時間を孤独に生きないといけないのだ。


「…………」


「やだな、しんみりしなくていいよ。そもそも私の身から出たさびなんだから、アルサル君が気に病む話じゃないよ」


 それは確かにそうだけど……。


「他にはなにか書いてありませんでしたか? 弟さんから定期的に連絡を取りたいとか、会いたいとか」


 いつも森で会うエルフの男の人。ティアナさんの弟だった人はお姉ちゃんを心配している様子だったし、手紙も村の人達に隠れて渡したい様子だった。


 接触を試みてもおかしくないし、せめて弟さんとたまにでも会う事ができれば、寂しさは相当軽減されるだろう。


「んー、会いたいとは書いてなかったけど、近々村ごと他所に移るかも知れないって書いてあった」


 ――が、俺の期待はもろくも崩れてしまう。


「引越しですか? エルフは定期的に住む所を変えたりするんですか?」


「そんな風習はないよ、あそこにはもう何千年も住んでると思う……移住しちゃったら、どこに行ったかなんて私には知る術もないから、村との縁が完全に切れちゃうね……」


 そう言って、寂しそうな目をするティアナさん。


「場所を探す事はできないんですか?」


「う~ん、エルフの村は上手に偽装するからね。案内がないと見つからない気がするなぁ、要所に見張りもいるだろうし。


 それに、新しい村で新しい記憶を積み重ねていけるみんなと違って、私には古い村の記憶しかないからさ。


 たとえ1000年後に、『せめて死ぬ時だけは故郷で……』ってのが許されたとしても、私にはそこが故郷だと思える自信がない……かな」


 おおう、悲しい話だ……。


 なんとかしてあげたいけど、俺になにかできる事はあるだろうか?


 ……そういえば、普通は村を移したりはしないと言っていたな。


「引越しするのはなにか理由があるんですか?」


「人間の国が臣従を求めてきたんだってさ。従わないなら攻撃するんだって」


 ――――!


「それは、アムルサール帝国ですか?」


「え、知らない。そこまでは書いてなかった。この前アルパの街に軍隊が来てたから、それ絡みかなとは思うけど」


「その辺の事情はご存知ですか?」


「私は山の中から見ていただけだから詳しくは知らないけど、大勢の人が街を逃げ出してたね。エリスの姿がないか必死に探したけど、見つからなかった。


 山に逃げてきた人達が、帝国がどうのって話してるのは聞いたけど」


 俺達も見た、アルパの街が帝国軍に占領される光景。あの時ティアナさんも近くにいて、同じ光景を見ていたらしい。


「はい、東にあるアムルサール帝国が攻めてきてジェルファ王国を征服し、アルパの街も占領されてしまいました。


 エルフの村に臣従を迫ったのは、多分新たに街を支配した帝国の者達でしょう。街で山の民の情報を得て、そこも支配下に収めようとしたのだと思います」


「人族は相変わらずやる事が乱暴だねぇ、大きい国を作ってもどうせ何百年かで滅びちゃうのに」


 ……ティアナさんの言う事は、人間からすると耳が痛い話だ。


 元の世界でも、人類の歴史は大きな国が出来ては滅ぶの繰り返しだった。


 寿命が数十年の人間からすれば数百年続く王朝とか立派なものだと思うけど、寿命1000年を超えるエルフから見ると、多くの血を流してそんな物を作るのは馬鹿馬鹿しく見えるのだろう。


 ただ、小さい国が乱立している状況なら平和かと言うとそうでもないのが人類史の難しい所だ。


 この辺はもう、人間のごうと言うしかない領域なんだろうね……。



 ――それはともかく、これは俺にとってチャンスかもしれない。


 今エルフの村を脅かそうとしている帝国は、俺の宿敵でもあるのだ。


 それなら村の移転を阻止するために、俺とティアナさんは目的を同じくできる。


 エルフの村の協力は……どうか分からないけど、弟さんだけなら協力してくれるかもしれない。



 そう考えて、俺はティアナさんに秘密を話す覚悟を固めるのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・100万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×7


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)

メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)

エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)

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