56 友好関係
エルフのティアナさんとの関係は、ティアナさんが作ったスープを俺が完食してから良くなった感じがする。
翌朝の食事はシーラとティアナさんが一緒に作り、三人で同じものを食べたし、山登りの最中も俺達との距離を詰めてくれ、わりと砕けた感じで話をしてくれるようになった。
正直ちょっとチョロい感がないではないが、本来素直で人懐こい人……エルフなのだろう。
エリスの父親との馴れ初めも聞かせてもらったけど、冒険者だったエリスの父親が仲間達と山に来て、凶暴な魔獣に襲われてエリス父以外全滅してしまった。
その現場に居合わせたティアナさんが、村の掟で人間との接触を禁じられているのを忘れて助けてしまい、重傷を負ったエリス父を洞窟に匿って面倒を見ていたのだそうだ。
村から傷薬を持ち出すとバレてしまうので、数か月間地道な治療をしている間に恋心が芽生えてしまい、そのまま結ばれてエリスが産まれた。
その後も五年間一緒に暮らしていたけど、ある日エリス父の存在が他のエルフに見つかってしまい、エリス父の嘘が下手だったので関係がばれてしまい、ティアナさんは村に連れ戻された。
それがエリスの顔を見た最後で、事情聴取の末ティアナさんは村から追放となったが、隠れ家に行ってみてもエリスとエリス父の姿はなく。『アルパの街に戻る、ごめん』という書き置きだけがあった。
エルフの身で街へ行く事はできないので、エリス父とは連絡が取れないままずっと山で暮らしていて、遠くから街を眺め、山に入ってくる人間がいれば距離を取りながら、エリスの話が出ないかと聞き耳を立てていたのだそうだ。
俺達の事も初回から見ていたそうで、気配に気付けなかったと知ったシーラはまた凹んでいた……。
そんなこんなで気軽に話ができるようになり、情報交換をしながら山道を登っていく。
「山での暮らしはどうだったんですか? なにか不自由はありませんでした?」
「不自由と言えば、塩が手に入らなくて料理が味気なかった事くらいだね。他は……特にないかな。衣食住くらいは自分で賄えるからね」
さすが山の民で長命種だ。生活能力が高い。
「山に入ってくる人間に手紙を託して、届けてもらおうとは思わなかったんですか?」
「思ったけど、人族は見返りを要求してくるじゃない。私には提供できる物が無かったし、それでも接触を試みた事はあったけど……私がはぐれエルフだと分かったら、みんな態度を変えるからさ」
なるほど、エルフの村に攻め込むのは難易度高そうだけど、単独行動しているはぐれエルフなら攫っても問題にならなさそうだしね。
シーラによると、お城一つ分くらいの値段になるらしいし。
出会った当初俺達を思いっきり警戒していたのも分かろうというものだ。そう考えるとむしろ、早く馴染み過ぎにさえ思えてくる。
実際俺に悪意は無いからいいんだけどさ……エルフは人の悪意を感知する能力とか持っているのだろうか?
――道中、幸せだったエリス父との生活と、小さい頃のエリスがどれだけ可愛かったかという話を楽しそうに延々聞かされながら。
合間に突然スッと真顔になって遠距離で魔獣を射殺すギャップにちょっと引きながら、急ぎ足で山を登っていく。
俺の方からもエリスの近況と、エリス父の事を話したけど、エリス父の事はよく知らないんだよね。
あまり表に出てこないし、口数も少ないのは、自分の不器用さのせいでティアナさんとの関係がばれ、迷惑をかけてしまった事が尾を引いているのだろうか?
まぁ、娘にさえ『正直過ぎて嘘をつくのが苦手』って言われていたからね。
ティアナさんはそんな所も好きだったようで、色々とノロケ話を聞かされたけど、幸せそうでなによりである。
エリス父からの連絡がなかった事も、エリスを育てるので大変だったのだろうし。仲間が全滅した場所にまた来たくなかった事も、そんな危険な場所に大切な娘を連れて来られなかった事も、強い護衛を沢山雇う余裕がなかった事も理解できるとの事で、怒っていないようだ。理解度が深い。
むしろ自分が突然いなくなって、無事に街まで帰れたかを心配していたそうだ。
二人共無事だと分かって、心から安堵した様子だった。
本当にいい夫婦だったんだろうね……結婚してたかどうかは知らないけどさ。
そんな甘酸っぱい空気の中で山越えを終え、瘴気が消えている事も確認してもらって、北の拠点へと到着した。
ティアナさんはエリスへの手紙を書く傍ら、娘のためになるならと、俺達の手伝いもしてくれる事になった。
得意分野は、狩猟・採取・木工などであるようで、食料調達の他、色々な素材なども集めてきてくれる。
おかげでシーラが塩作りの助手に専念してくれて、生産効率激増でとても助かる。
時間に余裕ができて、エリスに後方参謀としての知識を学んでもらうための教材作りもバッチリだ。
最初はティアナさんを警戒していたシーラもだんだん打ち解け、今ではティアナさんから弓を習っている。
元々シーラは弓も上手かったけど、さすがにエルフには敵わなかったらしい。
相手の優位を素直に認めて教えを乞える素直さも、シーラの良い所だよね。
最終目的の為なら他の全てを犠牲にできる、執念の強さなのかもしれないけどね……。
そんなこんなで一か月ほどを忙しく拠点で過ごし、海狸族との交易もして袋をたくさん作ってもらい、推定3キロの塩が詰まった袋が30個も完成した。
重さにして90キロだが、ティアナさんが20個60キロを持ってくれるらしく、シーラが9個27キロ、俺が1個3キロときれいに分担できた。
……いやね、急な山を登るのって3キロの荷物でも相当応えるんだよ。むしろシーラやティアナさんが特殊なのであって、俺くらいが普通……と言い訳するのも苦しいほど情けない有様だが、これはもう慣れつつある。各自が得意な部分で頑張ろう。
そう自分に言い聞かせながら、俺達は二度目の交易のために。そしてエリスに母親の手紙を届けるために、山を越えて街へと向かうのだった……。
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・100万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×2
配下
シーラ(部下・C級冒険者)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)




