53 反乱への第一歩
動き出した反帝国軍養成計画。
その第一歩として拠点を構えて兵士候補となる孤児達を迎えるに当たって、経理担当になったエリスがざっくり見積もりを立ててくれる。
そして出てきた数字が、一日当たり
宿を借りる費用……1万ダルナ
受け入れる孤児の生活費……一人当たり3000ダルナ
冒険者養成所の運営費……8000ダルナ(+初期費用150万ダルナ)
孤児院への援助金……5万ダルナ
エリス・メルツ・メーアへの給料……7000ダルナ(メルツとメーアは5000ダルナを上級傷薬代として返済)
――で、受け入れ人数20人想定で、一か月当たり417万ダルナ。プラスで初期費用が150万ダルナとなった。
ちなみに宿を借りる費用は満室になった場合の五分の一の額。初期費用は馬と冒険者訓練用の装備、勉強用の紙とペンなどを買う費用らしい。
今の俺の所持金が1000万ダルナちょっとなので、手持ちでカバーできるのは二か月と少し……。
今は食料が高騰しているので孤児達の生活費と孤児院への援助金が高くなっているけど、物価が落ち着けば半分以下になる見込みらしい。
だけどいつ落ち着くか分からない以上、なるべく早く北に戻って塩の量産に取り掛からないといけない。
……そんな訳で、早速明日孤児院に行って人員を募る算段を立てていたら、見積もりを終えたエリスが口を開く。
「アルサルさん、孤児院で希望者を集めるのは私に任せて頂けませんか?」
「え……そりゃお願いできるならありがたいけど、大丈夫?」
「はい、孤児院の子達の事はそれなりに知っていますから。反乱軍入りを希望するだろう子に目星がつきます。
機密保持を考えるなら、全員集めて『反帝国の反乱軍を組織するので、参加したい者はいるか?』と訊く訳にもいかないでしょう。
私が一人ずつ、それとなく接触して様子を窺いながら勧誘してみます」
「それはありがたい、ぜひよろしく頼むよ」
「はい、お任せください」
さすがに帝国に占領されている街で、反帝国軍の兵士を大声出して公募する気はなかったけど、秘匿性は高ければ高いほどいい。
孤児院に来た理由を調べて、帝国兵絡みだったら勧誘を……と考えていたけど、孤児院の運営をしている神父やシスターに怪しまれる可能性はあったし、親を帝国兵に殺された子が全員復讐を望むとも限らなかった。
なので、孤児達の様子をよく知っているエリスが反応を見ながら勧誘してくれるのはとてもありがたい。
……なんか、財務から人集め。宿の仕事の内とはいえ、子供達の食事までエリスに任せる事になってしまった。
エリスはホント頼りになるね……戦場で作戦指揮とかは無理だと思うけど、後方での補給や物資管理、食事の手配とかにはすごく適性があるかもしれない。
時間がある時にでも、勉強期間中に取ったメモから該当部分を抜き出した参考書を作って、後方参謀としての勉強をしてもらうのもいいかもしれないね。
そんな事を考えながら最終的な打ち合わせをし。
・孤児院への寄付は匿名で行い、俺の存在は隠す
・引き取った孤児達には秘密の保持を徹底させる
・もし帝国軍に事が露見したらすぐに街の外へ逃げる
・そのための避難所を山の麓に確保しておく
・兵士の育成は一番適性がある分野を伸ばす一点主義でいく
などを取り決めた。
本当は色々できる万能型の兵士が理想だけど、そんな兵士は長い期間訓練と経験を積んでやっと育つものなので、帝国との戦いに間に合わせるには一点強化で育てるしかない。
シーラもそれがいいと賛同してくれたので、メルツにはその方向でお願いしておく。
お金はどうせ北の拠点では使わないので、手元に金貨一枚100万ダルナだけを残して、残りは全部エリスに預ける事にした。
額にして968万2980ダルナと、一般市民の年収六年分くらいの額だが、エリスは『確かにお預かりします』と言って受け取り、顔色一つ変えなかった。肝も据わっているようだ。
……まぁ、実質反帝国軍のメンバーに加えちゃったからね。覚悟も完了しようというものだ。
他にはせっかくの機会だから色々ハッキリさせておこうと、シーラにも給料の支給を提案してみた所、『必要ありません。むしろ私が資金を献上したいくらいです』と言われてしまった。
シーラはこの街で冒険者をやっていた時にけっこうな収入があったみたいだけど、そのまま自分で持ってもらっている。
非常事態が起きたら借りる事があるかもしれないけど、できれば反乱軍首謀者の責任として、俺の稼ぎだけで運営するのが目標だ。
シーラのお金は自分のために使って欲しい……けど、難しいだろうね。武器とかは別にして、シーラが自分の買い物してるの見た事ないし。
多分本格的に軍を組織できるようになった時、自分の隊のために使うとかになるんだと思う。
どんな宝石やドレスよりも、甘い物やかわいいぬいぐるみよりも、今のシーラにとっては宰相に復讐を果たす事が唯一の生きる目的であり、興味がある事なんだろうね。
……ちょっと悲しい気持ちになりつつ、ともかく計画をまとめ上げて、明日からの段取りを整える。
――翌日。早速孤児院に出向いたエリスが第一陣として八人の孤児を連れてきてくれたのを見届け、冒険者養成所が動き出すのを確認して、俺は資金確保のために北の拠点に戻る事にした。
メーアが街に残るので、今度はシーラと二人だけ。
荷物が多いので山越えは辛いだろうけど、そんな泣き言は言っていられない。
物々交換用にと残しておいた塩分たっぷり干魚は、二匹を帰り道の食料として残し、残りはエリスに渡しておいた。
予算が潤沢にある訳ではないけど、子供達にはできるだけいい物を食べて欲しいからね。
塩は今貴重らしいので、味の面でも予算の面でも食事の質向上に貢献してくれるだろう。
元の世界では減塩減塩言われていたけど、塩は人間が生きていくのに必須の栄養素だし、味付けの基本だからね。
そんな訳で、いっぱいの荷物を背負った俺達は、北の拠点目指して山越えに挑むのだった……。
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・100万ダルナ(残りはエリスに預けた)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
配下
シーラ(部下・C級冒険者)
メルツ(部下・反乱軍拠点訓練担当・E級冒険者)
メーア(部下・反乱軍拠点メンタル担当・E級冒険者)
エリス(協力者・反乱軍拠点運営担当)




