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52 冒険者養成所

 夕食はエリスが腕を振るってくれ、とても美味しいものを食べる事ができた。


 特にエリスが焼いてくれた木の実入りのパンは、久しぶりに食べる穀物だったおかげもあって特別美味しく感じられた。


 調理を終えたエリスも一緒に食卓を囲み、思い出話や近況の報告などをして穏やかな一時ひとときを過ごした後。食事が一段落ついた所で、口調を改めて言葉を発する。


「ねぇエリス、話したい事があるんだけど」


「――はい、なんでしょうか?」


 さすが空気が読める子であるエリスは、すぐに俺の雰囲気が変わった事に気付いたらしい。


 それまでの楽しそうな表情から一転、真剣な顔つきになる。


「ちょっと重たい話をするけど、落ちついて聞いてね。……実は今まで隠していたけど、俺アムルサール帝国の先代皇帝なんだ。それで……」


 ――俺の生まれから使い捨てだった皇帝の事情。シーラと一緒に帝都を脱出した事。この街に来てからの事や、メルツ達との事。そしてこれからやろうとしている事などを、順を追って話していく。


 さすがに前世の記憶の事は言わないけどね。ただでさえすぐには信じてもらえないような話なのに、より胡散臭うさんくささを増してしまう。


 最後に、将来の反乱軍を育成するためにこの宿を丸ごと借りて、希望する孤児達を引き取って教育する拠点にしたいという話をして、エリスの反応を待つ。


 ……エリスはじっと俺の話を聞いてくれ。メルツの時と同じく『帝国軍が攻めてきたのはアルサルさんを探してですか?』と訊いてきたけど、『死んだと思われてるはずだから違うと思う』と否定すると、後は深く考え込む。


 情報量が多かったからね……普通の人なら飲み下すだけでもしばらく時間がかかると思う。……と言うか、そもそも信じてもらえないだろうね。


 ――だけどエリスは意外と早く。俺がお茶を二口飲む間に顔を上げると、ゆっくりと口を開いた。


「アルサルさん……でいいですか? 皇帝陛下ってお呼びします?」


「アルサルでいいよ。今はもう皇帝じゃないから」


「ではアルサルさん。とりあえずこの件は、お父さんには話さない事をお勧めします。


 密告するからとかではなくて、あの人隠し事をするのがすごく苦手ですから……」


 ああ、それはなんとなく分かる。良く言えば正直な人で、嘘とかつけない不器用なタイプだよね。


「わかった。……でもそれだと、ここを拠点として使わせてもらうのは難しいかな」


「いえ、孤児達に職業訓練をする場所……という事であれば問題ありません」


 ああなるほど。元々表向きにはそういう事にするのだから、おじさんの所までを表にしてしまえばいいのか。


 なんか仲間外れにしているみたいだけど、隠し事が苦手なのはしょうがない。


「じゃあ、ここを拠点に使うのを認めてくれるって事?」


「……正直、この二か月間新しいお客さんは一人も来ていませんし、元々あまり多くもありませんでした。


 まとめて借り上げて頂けるというのはありがたいお話ですし、孤児院の子供達の手に職をつけて頂けるというのもありがたい話なのですが……」


 ……うーん、なんとなく歯切れが悪いな。微妙に乗り気ではない感じだろうか?


「やっぱり反乱軍の拠点にするのは抵抗ある? それとも、子供達を兵士に育てるのは反対?」


「いえ、私も帝国の事は……今の帝国の事は嫌いですから、反乱に協力する事に抵抗はありません。


 子供達の事にしても、自暴自棄じぼうじきになってララクみたいな行動に走ってしまう危険性を常に感じていますから、ちゃんとした手段で戦えるようにしてくださるのは、むしろありがたいと思うくらいです」


 わざわざ『今の帝国』と言い直したのは、俺に気を使ってくれたのだろう。


 相変わらず気遣きづかいのできる子だ。


「じゃあなにか他の事が引っかかってるの? 可能な事なら対応するから、遠慮なく言ってみて」


「その……兵士候補の子を集めるとなると、当然大きい子が中心になりますよね?」


「それはそうなるだろうね。親が殺されてしまった事さえ理解できないような小さい子に帝国への反感を吹き込んで、洗脳して兵士に仕立て上げるような事をする気はないから……って、そうか」


 ようやく俺にもエリスの心配がピンときた。


 前にエリスは八歳以上を『働ける歳』と言っていたけど、今の孤児院はその子達がまき割りをして稼いだお金が収入の柱で、同時に小さい子の面倒を大きい子が見ているのだ。


 そんな状況から大きい子を何人も引き抜いたら、孤児院の経営が立ち行かなくなってしまうと心配しているのだ。


「わかった。じゃあ孤児院にも俺から支援金を出すよ、それでいい?」


「――いいんですか?」


「うん。子供達も古巣が困窮こんきゅうしてるんじゃ勉強や訓練に集中できないだろうしね。それで問題ない?」


「はい、ありがとうございます!」


 エリスはそう言って、深々と頭を下げる。人のために真剣に悩んで、頭を下げられる。本当にいい子だよね。


 そしてこれはいよいよ、お金稼ぎ頑張らないといけない。


 必要を優先して計算全然してないけど、ちゃんと足りるんだろうか?


 宿を借り上げるお金、仲間にした孤児達の生活費、冒険者訓練所としての運営資金、孤児院への支援金……メルツとメーアにも給料出さないといけないよね?


 そもそも見積もりが立たないけど、宿を借り上げるお金はエリスと相談するとして、孤児達の生活費も主に食費なのでエリスと相談、孤児院への支援金もエリスが詳しそうだから相談を……。


「…………ねぇエリス、経理担当やってくれたりしないかな?」


「経理担当……ですか? 私が?」


「うん。俺は北の拠点に戻らないといけないから、その間お金の管理を任せられるととても助かる。


 この宿を借りるお金とか、子供達の生活費とか、孤児院への支援金とか、正直俺よりエリスの方が詳しいと思うし、お願いできないかな? 報酬出すから」


「そんな、私なんかにそんな大役……」


「今までもこの宿の経理はエリスが担当してたんでしょ? それに、孤児院に薪割りの仕事を斡旋あっせんして、仕入れ買取の段取りをつけた手際も見事だった。むしろエリスの能力を信頼して頼みたいんだよ。


 お金を預けるのも、エリスなら信用できるしね」


 そう口にすると、エリスの顔が照れたように赤くなる。


 特に、最後の『エリスなら信用できる』の部分に強く反応した。


「――わかりました、私なんかの事をそこまで信用してくださるなら、できる限りご期待に応えたいと思います」


 うん、返事も13歳とは思えないほどしっかりしている。信頼感があるね。


「じゃあよろしく頼むよ。……早速で悪いけど、ざっくりでいいから経費をまとめてくれないかな? 冒険者養成所の運営経費とかはメルツ達と相談して」


「わかりました」


 力強く返事をすると、エリスは早速紙に文字を書き連ねていく。本当に頼りになるなぁ。



 エリスとメルツの話し合いを頼もしく眺め、宿の借り賃やエリスへの報酬は俺も参加して話をして、ざっくり見積もりはみるみるうちに完成していくのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1068万2980ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

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