50 孤児院の事情とエリスの才能
エリスと合流し、晩御飯の買い物に向かいつつ話を訊く。
「ねぇエリス、孤児院の経営ってどんな具合か分かる?」
「……あまり良くはないようです。神父様とシスターの二人で運営していますが子供の数が多くて手が回らない所もありますし、街がこんな状況ですから孤児が増えたのに寄付は減って、ギリギリ飢えないですむ程度の食事を出すので精一杯という感じです」
「そっか……エリスはなんで手伝いに行ってるの? 知り合いがいるとか?」
「あえて知り合いと言うならララクですね。血まみれのメルツさんが連れてきて、しばらくの間一緒にいました。
両親を帝国軍に殺され、他に行く所もないとの事で、メルツさんが面倒を見ると言っていたのですが、傷が酷くて起き上がる事もままならない状態でしたから……。負担になるのを嫌ったのでしょう、本人が気を使って出て行くと言ったので、せめてもと私が孤児院まで送り届けました。
その時に孤児院の状況を見て、私にもなにか助けになれる事があればと思ったのが、お手伝いに通うようになったきっかけです」
おおう、エリスはホントにいい子だね……。そしてララクも、芯が通っていると言えなくもない気がする。
エリスが孤児院に連れて行かなかったらその辺で野垂れ死にしていた気もするので、賢い立ち回りではないと思うけどね……。
「孤児院って今何人くらいいるの?」
「八歳以上が46人、それより小さい子が39人で、合計85人です」
お、さすが宿屋兼食堂の娘、計算が速い。
「八歳以上で分けたのは何か意味があるの?」
「働けるかどうかの目安です。八歳を超えていても怪我などで働けない子もいますし、幼くてもお手伝いをしてくれる子はいますが、一応の」
……八歳と言うと、元の世界では小学校二年生か三年生だ。
そんな小さな頃から働くんだね……。
「寄付が減ってるって話だったけど、孤児院の経営この先どうなりそうとかは分かる?」
「正確には分かりませんが、冬を越せない可能性はあると感じています」
「そっか……薪の材料はいっぱいあったけど、食料は冬に値上がりするもんね」
「あの木は仕事として薪へ加工しているものですから、孤児院で使える分はほとんどありません。
細かい枝や、切った時に出る木屑を燃料に使えるくらいです」
「あ、そうなんだ……ちなみにいくらくらいの儲けになるの?」
「30人で一日働いて、小さな荷馬車一台分くらいの薪を生産できます。
それを銀貨10枚で買い取ってもらって、一本銀貨二枚程度の木を二本買います。それを薪に加工すると大体荷馬車一杯分になるので、差し引き銀貨六枚。そこから道具を借りている代金銀貨一枚を引いた銀貨五枚が儲けになります。
ただし雨の日は作業ができませんし、道具を借りている代金は雨だろうとかかるので、全体の儲けはもっと少なくなります」
お、おう……なんかすっごい具体的な話が出てきたな。
「もしかしてその仕事、エリスも絡んでる?」
「はい、私が働いている荷捌き場で木材の扱いがありますから、そこで曲がっていたり枝分かれしていたりで建築用に適さない木を安く買い取って、孤児院で薪に加工する事にしました。
薪の買い取りも、以前からうちの宿に薪を納めて貰っていた商店に頼んで、金額を高めに設定してもらっています。
将来的に道具も自前で揃えて利益率を上げたり、孤児院の経費を全部賄えるようになると良いなと思いますが、中々難しいですね……」
おおう……この子もしかして、経営の才能があるんじゃないだろうか?
宿屋兼食堂の娘だし、そういえば父親がわりといいかげんだから、エリスが帳簿を付けているのを見た事がある。
……これは、思わぬ才能を見つけてしまったかもしれない。もし自前で商売をする事があったら、エリスに協力を頼んでみよう。
いい人材を発掘できた事に気を良くしながら夕食の買い物をし、ついでに塩作り用の大きな鍋も買う。
食材は以前よりかなり品薄みたいだが、高いだけで無い訳ではないようだ。
エリスは最初かなり遠慮していたが、『多めに買って余った分は明日孤児院に持って行ってあげるといいよ』と言うと、『いいんですか?』と確認した上で、積極的に買い物をするようになった。
それだけ孤児院の食糧事情がよくないという事なんだろうね。
お金は俺が持つと言ったのになるべく安い物を選んだり、しっかり値切る辺りは好感が持てるし、何度も『ありがとうございます』とお礼を言われて、逆にこっちが恐縮してしまうくらいだった。
孤児院の子供達の食事が確保できてもエリスが得をする訳ではないのに、優しくていい子だね……。
そんなこんなで食材を買い込んで宿に帰還し、久しぶりに腕を振るえると喜ぶエリスと別れて、俺達はメルツの元へ向かう。
ララクを仲間に加える件について相談するためだけど……その前に。階段を登った所で足を止めて、シーラを振り返る。
「ねぇシーラ、ララクや他の帝国に恨みを持つ子供達を仲間に引き込むって言ったら、反対する?」
「反対する理由が見つかりません。復讐を望む者にその手段を提供し、我々は戦力が増える。お互いに利がある話なのに、なにか問題があるのでしょうか?
私は復讐の手段を提供して下さったアルサル様に感謝こそすれ、恨みに思う事などなにもありませんよ」
「うん……でもシーラは父親の敵討ち以外に、母親を取り戻すのと妹を守るって目的があるじゃない。だけどララクは、戦ったってもう取り戻せるものはなにも残ってないんだよ……それなのに戦いに引き込むのは、どうにも気が引けてさ」
「私はそれでも復讐を果たすべきだと思いますよ。人は心に穴が開いたままでは前に進む事ができません。
そして、大切なものを奪われてできた穴を埋める事ができるのは復讐だけです。少なくとも、私はそう信じています」
おおう……ものすごく覚悟完了した目だ。
実際に大切な物を奪われている人の言葉だけに、説得力が半端ではない。
……『復讐はなにも生まないよ』なんて綺麗事を言うつもりはないけど、シーラの心の穴は復讐が成った時、本当に埋まるのだろうか?
ちょっと不安な所だよね……。
――まぁ、それはずいぶん先の事になるだろうから追々考える事にして。とりあえずシーラの意見は了解した。
最終的には本人に選んでもらうけど、選択肢を提示する方向でいこう。ララクに関しては、メルツの了解を貰ってからだけどね。
そんな事を考えながら、俺はメルツとメーアの部屋の前に立って扉を叩くのだった……。
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・1068万2980ダルナ(-8万5700)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
配下
シーラ(部下・C級冒険者)
メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者)
メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)




