表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/227

5 シーラの計画

 シーラが胸に秘めている覚悟。宰相を殺して母親を取り戻す計画について、覚悟を決めて内容を聞く事にする。


 話をうながすと、シーラはゆっくりと口を開いた。


「最初に、『宰相の女の好みは人の妻と皇帝の母親』と話したのを覚えておいでだと思いますが、宰相は即位した皇帝の母親を自分の屋敷に連れて行き、愛人にするのが常です。


 つまり私がここで皇帝陛下のご寵愛ちょうあいを賜って子を成し、その子が皇帝に即位すれば、私が宰相の元に呼ばれるという事です。そしてその時が、復讐の時だと心得ております……」


 ああ……やっぱりそうなるよね……。


 そして『皇帝の母』というワードに、俺の心が妙にざわつく。


 わずかに残っている皇帝の意識が、母親の消息に反応したのだろう。


 即位以来会えなくなって、寂しく思っていたのは知っていたけど、まさかこんな事になっていたとはね……。宰相やりたい放題過ぎるだろう。


 体を引き継ぐ形になってしまっている以上、これは俺にも宰相を倒す理由ができてしまったかもしれない。


 ……だけど今は、シーラの事だ。


「シーラ、おまえはその為に後宮ハーレムに入ったのか?」


「いえ、おそらくは宰相の命でここに入れられました。逃亡が難しく、監視もしやすいからでしょう」


「そうか……」


 修羅場をくぐってきているとはいえ、14歳の少女であるシーラの考えではそうなのかもしれない。


 だけど18歳未満閲覧禁止の漫画とか小説とかを色々読んできた俺は、もっと嫌な想像をしてしまう。


 そもそも宰相は好きなタイプが人妻と皇帝の母という時点で、略奪欲とか征服欲とかが強そうだし、高貴な地位の女性も好きなのだろう。


 そしてそれを強引な手段で手に入れている事からすると、女性を支配的に扱う加虐趣味とか持っていそうだ……。権力を持たせてはいけない、厄介なタイプの変態の可能性がある。


 そしてシーラを後宮ハーレムに入れたのが、その宰相の差し金なのだ。


 シーラが復讐を志すだろう事は当然計算の内で、むしろ自分好みに育ったシーラが手元に来た所を……という想像までできてしまう。


 頭の中に『親子丼』という単語が浮かんでくるが、当然鶏肉と卵じゃない方のやつである。


 シーラが皇帝の子供を産んで、その子供が皇帝になって……と考えると多分10年以上先の話で、その時シーラの母親が何歳になっているか知らないけど、熟女趣味ならいける範囲だと思う。


 ……そんなえげつない想像をし、杞憂きゆうであってくれればいいと思うが、可能性は低くないと思う。


 大体、シーラが後宮ハーレムに入れられている事自体がおかしいのだ。母親へのおどしに使うだけなら、どこかに監禁しておけば済む。


 それをわざわざ復讐の可能性が見えてくる場所に置くなんて、誘っているとしか思えない。


 ――だとしたら、シーラの計画は最初から宰相の手の平の上という事になる。


 自分の身を犠牲にし、長い時間を耐えてやっと本懐を遂げようとしたら、敵の罠の中。


 その絶望はどれほどのものだろうか? そして宰相は、それを楽しもうとしている気がする……。


 全部俺の妄想ならいいんだけど、本当にありそうなのが怖い所だ。


 ……そしてできる事なら、俺はシーラを守りたい。


 父親の復讐と母親の解放という重い決意を胸にいだいていたのに、熱病にかかって死にかけの皇帝を命がけで看病してくれたシーラ。


 まだ子供を作る事ができない皇帝だし、一人死んでもいくらでも次がいるから、目的を達するだけなら俺にこだわる必要なんてなかったのに。


 ただ純粋に死の淵にいる子供を哀れんで、死病に感染するリスクを侵して看病してくれたのだ。


 そんな優しくていい子を、宰相の欲望のために悲惨な目に遭わせたくはない……。


 そしてもし宰相の罠が俺の杞憂きゆうだったとしても、復讐を遂げたシーラはきっと、その場で殺されてしまうだろう。


 宰相の屋敷の寝所で宰相を殺して、無事で済むはずがない。


 それはそれでシーラは本望かもしれないが、俺的にはバッドエンドだ。俺はシーラを死なせたくはない。


 その為には、かわいそうだけど今の計画は諦めてもらうしかないよね……。



「……なるほど、おまえの考えはよく分かった」


 重々しくそう言った後、少し時間を置いて言葉を続ける。


「おまえが計画を話してくれたのだから、こちらも話そう。……余は一旦ここを脱出し、国外に拠点を作って力を蓄え、しかる後に宰相を討ち滅ぼしたいと考えておる。


 脱出するだけでも容易ではなかろうし、逃げ延びた先で力を蓄えるのも時間がかかるだろう。10年か、それ以上かかるかも知れん。成算も怪しい。


 だがその上で頼みたいのだが、同じ10年の時をかけるのなら、共に来て余に力を貸してくれんか?


 一緒にここを脱出したら、おまえの計画は遂行できなくなってしまう。二者択一の選択だから無理にとは言わんし、これは皇帝としての命令ではなく、同志としてのお願いだと思って欲しい。……だが今の余には、おまえ以外に頼れる者がおらんのだ……できれば一緒に来て欲しい」


 俺の言葉に、シーラはじっと考え込む。


 正直勝算なんて全くないし、逃亡計画にその後を付けただけで、具体的な計画もない。どこに逃げるかさえも決まっていない。


 シーラが胸に秘めている計画より大雑把で、いい加減で頼りない計画だろう。だけどもし成功したら、シーラが生き残る事ができるのだ。


 武家の娘だと言っていたので、皇帝の子を産んで宰相の元に呼ばれるのを待つルートよりも、辺境で独立勢力を作って戦う方が性に合っていると思う。


 復讐のために好きでもない男の子供を産むよりも、マシだとも思う。


 ……だけどシーラはすぐに答えず、迷っている様子だ。



 水を飲ませてもらって少し体力が戻ってきたので、頭を持ち上げてシーラの全身に目をやってみる。


 後宮ハーレムの要員だからなのか、踊り子が着るような薄い半透明の布をまとっていて、体のほとんどの部分が透けて見えてしまう……。


 恥ずかしいのを抑えて観察すると、来たるべき日に備えて鍛錬を続けているのだろう。よく引き締まった筋肉質の綺麗な体をしている。


 さすがに腹筋が割れているほどではないけど……いや、うっすら割れてるかな?


 多分、後宮ハーレム要員として皇帝の寵愛ちょうあいを受けるのに問題がない程度に、こっそり体を鍛えているのだろう。


 いつか父親の無念を晴らし、母親を助け出すために……。


 だけどその努力は一瞬に賭ける宰相暗殺よりも、俺と一緒に来た場合の方が活かす機会があると思う。


 上手くいけば軍隊を組織したりする訳だし、将軍の娘であれば兵法とかも知っているかもしれない。


 実力を活かせるのは絶対こっちだと思うんだけど……迷っている様子なのは、俺に対する信頼が足りないのか。


 あるいはなにか、他に気がかりがあるのか……。



 俺はなんとかシーラに一緒に来てもらうべく。背中を押す言葉を考えるのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……1.2%


資産

・特になし


配下

シーラ(協力者)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ