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49 エリスとの再会

 メルツが助けたという子供を見に行った孤児院。そこになぜか、エリスがいた。


 俺を見つけたエリスは全速力かと思うような勢いで駆け寄って来ると、壁にしがみついて身を乗り出してくる。


 壁がなかったら抱きついてきたんじゃないかと思う勢いだ。


「アルサルさん、お帰りになったんですね!」


「う、うん……エリスはどうしてここにいるの?」


 俺の声が弱い事に気付いたのだろう、エリスはハッとしたような表情を浮かべて、慌てて言葉を発する。


「違いますよ、お父さんは元気ですよ。ここにはお手伝いで来てるんです……まだ宿へは行ってないんですか?」


「メルツの顔を見に行ったけど、おじさんはいなかったかな」


「ああ、お父さんも今は働きに出ていますから……宿のお客さんは全然来ないし、食堂も材料が手に入らなくて営業できなくて……」


「そっか……エリスはここで働いているの?」


「いえ、働いているのはこの近くの荷捌にさばき場です」


「荷捌き場?」


「大きな商会が運営していて、街の外から売りに来た品物や他所から買い付けてきた荷物を一旦保管しておいて、必要に応じて運び出す保管所のような場所です。


 倉庫と荷捌き場とあって、私が雇って頂いているのは屋根がない荷捌き場の方ですね」


「なるほど……って、そこ荷物運びとかやるんだよね? 大丈夫、辛くない?」


「重い物を持つのは疲れますけど、お昼前には終わるのでクタクタになると言うほどではありません。今は街全体の景気が悪いので、雇ってもらえる場所があるだけでもありがたいですから……」


『でも、エリスならもっと他に……』と言いかけて、ハッと一つの事に思い当たった。


 エリスの緑色の髪。山の民との混血を示すそれは、この街では忌み嫌われるものなのだ。


 エリスの料理の腕と可愛かわいさがあれば、本来食堂でも屋台でも引く手数多あまただったと思う。


 だけどこの髪色のせいで客商売では雇ってもらえず、荷運びしか働き口がなかったのだろう。


 俺の一歳年上のはずだから、まだ13歳。元の世界で言えば中学一年か二年くらいで、体なんか俺より小さいのにね……。


 ……なんと言うか、嫌な現実を見てしまった。


 これ以上この話を続けてもエリスに嫌な思いをさせてしまうだけなので、早急に話題を変えにいく。


「今夜はエリスの宿に泊まる事になると思うから、またよろしくね」


「――はい! じゃあ今夜は腕によりをかけて美味しいものを作りますね!」


 表情を明るくして、本当に嬉しそうに言うエリス。いい子だね……。


 食材が手に入らないって言ってたから、今夜の食材は俺が奮発しちゃおう。


 幸い資金には余裕があるし、俺もおいしいものが食べたいからね。


 北の大地にいた時の食事がまずかったという訳ではなく、メーアが頑張ってくれたから美味しかったんだけど、食材が肉と魚、山菜と海草しかなかったから、主食に当たる穀物がなかったのだ。久しぶりにパンとか食べたい。


 本当はお米があったら最高だけど、お米は後宮ハーレムにいた時でさえ見なかったからなぁ……希望すれば出してもらえたのだろうか?


 ……と、そんな事に意識を飛ばしていると、エリスが不思議そうな表情で口を開く。


「そういえば、アルサルさんはどうしてここへ来たんですか? 仕事が終わった後でここのお手伝いをしている事は、メルツさんにも言ってないはずなんですけど?」


「あ、そうだ。実はメルツが助けたっていう子供の様子を見に来たんだけど……エリス知ってる?」


 そう口にした瞬間、エリスの表情がサッと曇る。


「あの……アルサルさんはララクに罰を与えに来たのですか?」


 お、名前ララクって言うんだ。


「違うよ、どうしているのか気になっただけ。せっかくメルツが命がけで助けたのに、生きる希望を失って死にそうとかだったら悲しいじゃない」


「――ああ、それなら是非会ってやってください。今は裏でまき割りをしているはずです」


 急に元気になったエリスにかされるようにして入口に回り、手を引かれて裏庭に案内される。


 大勢いる子供達の視線が一斉に集まってきて、なんか妙な緊張感があるな……。


「――エリス、まずは離れた所から様子を見せてくれないかな?」


「分かりました……あの子です」


 裏庭には大量の木が置いてあって、大勢の孤児達が働いていた。


 ナタで細い枝を払う子、ノコギリで木を30センチくらいに切断する子、それをオノで割って薪にする子……。


 男の子が多いが、女の子もいる。


 薪割りというと一番最後のオノを振るうイメージだったけど、こうして見るとやる事がいっぱいあって、大変な作業だね。


 特に木を輪切りにするのが一番大変そうで、その作業をしている子が一番多い。


 そんな中、エリスが指さしたのは奥でオノを振るっている子だった。


 ……なにかやり場のない怒りを抱えている風で、それを吐き出すかのように、一心不乱にオノを振るっている。


 無気力な抜け殻とかにはなっていないようだけど、これはこれで危なっかしい雰囲気だ。


 投げやりと言うか捨てばちと言うか、生き急いで死に向かっている感じがする。


 そしてかなりせていて、上半身裸の体にはアバラが浮いていた。


 他の子も痩せているけど、特に酷い。


「……ねぇエリス、ここってそんなに食糧事情悪いの?」


「良くはありませんが、あそこまで痩せ細るほどではありません。あの子は食欲がないと言って、スープを飲むくらいでパンは小さい子達にあげています」


 それは……自己犠牲なのか、本当に食欲がないのか。どちらの可能性もあるけど、やっぱり死に急いでいる感じがする。


 生きる目的を持ってもらうには……やっぱり一番確実なのは復讐なんだろうね。シーラもそうだけど、生きる理由としては最強クラスに強い。


 ……だけど一応、仲間に誘う前にメルツにお伺いを立ててみよう。


 自分が命がけで助けた子供が帝国との戦いに巻き込まれるとか、よく思わないかもしれないからね。


「エリス、今日は一旦帰って、また明日来るよ。……エリスはどうする、一緒に帰る?」


「はい、ご一緒させてください!」


「うん、じゃあ晩御飯の材料買ってから帰ろうか。材料費は俺が持つから安心して。道中で孤児院の事とか、この二か月の事とか色々聞かせてよ」


 そんな話をし、エリスと共に宿へ戻る事になった。


 ララクを帝国と戦う仲間に加えたいと言ったら、メルツはなんて言うだろうか?


 そしてエリスは……そういえばエリスにはまだ俺が元皇帝で、帝国と戦おうとしている事を話してなかったな。


 ララクを仲間に引き込むなら、エリスにも話しておくべきだよね……。



 そんな事を考えながら、俺は夕食の買い物をするべく市場への道を歩くのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1076万8680ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

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