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48 商人

 とりあえず塩が優秀な交易品になると確認した所で、他の商材についても探ってみる。


「今は手元にありませんが、食用にはならない照明専用の油って需要ありますかね?」


「照明専用ですか? 無くはありませんが、少ないですね。今の状況でもほとんど値段が上がっていないくらいです」


 おおう、灯油の商品化は難しそうだ。


 暖房用や調理用に使ってもらえればかなりの需要になると思うのだが、それには石油ストーブみたいな道具を開発して、セットで売らないといけない。


 ちょっと難しそうだよね……。


 やはり灯油を売るのではなく、燃料に使って塩を生産するのが現実的みたいだ。石油王への道は遠そうである……。


 そんな事を考えていると、店員さんが興味深そうな目をして話しかけてくる。


「アルサル様は行商を始められたのですか?」


 う~ん……まぁそう言えない事もないよね。


「はい、まだ真似事程度ですけどね」


「そうですか、仕入先が増えるのはとてもありがたい事です。ぜひこれからもよろしくお願いしますね」


 顔いっぱいの営業スマイルを浮かべて、握手を求めてくる。


 俺もその手を握り返すが、これはあれだ、(これからもうちに塩を売ってくださいね)と、暗に言っているよね。


 俺としても楽になるので専属で売る事に問題はないが、それは向こうも便宜べんぎを図ってくれるならだ。


 価格交渉の初手で吹っかけてくるとかは普通の事だから別にいいけど、俺は外見上12歳の子供なので、それでめてかかってくるとかだと考える必要がある。


 その辺は、もう少し話をして相手を見る必要があるだろう。


 今までは宝石を売って本を買うだけの『客』だったけど、行商人という『取引相手』に移行するのだから、お互い相手を知っておくのは重要だ。


 そんな事を考えていると、店員さんが話を向けてくる。


「そういえば塩が入っていたあの袋。あれはどこで手に入れたのですか?」


 お、海狸かいり族の人達が作っている魚の胃袋製の袋か。いい所に目をつけたね、あれは防水だし丈夫だしで、とても良い物だ。この店員さん、見る目がある。


 そしてこの訊き方は……俺試されてるかな?


 俺が相手を見定めようとしているのと同じく、向こうも俺を量っているのだろう。


 これから商売をする相手となれば、当然の事だ。


 むしろ相手が子供だからと頭からめてかかったりせず、ちゃんと試してくれるのはありがたい。それだけで、俺から見たこの店員さんの評価高いよね。


 そして商人にとって秘密を守るのはとても大切な事だから、ここで簡単に仕入先をしゃべるようなら、『そういう相手』だと認識されてしまうだろう。


 雄弁は銀、沈黙は金なりである。


「仕入先は秘密ですが、ご入用なら調達は可能だと思いますよ。幾つ手に入るかは分かりませんが」


「これは失礼を、行商人の方に仕入先を訊くなど無作法の極みでしたね……お詫びに袋は特別価格として、一つ銀貨二枚で買い取らせて頂きましょう」


「分かりました、一つ銀貨四枚でいかがでしょうか?」


「それはさすがに……と言いたい所ですが、塩の高い品質はあの袋のおかげもあると見ました。今後、塩を私専属で卸して下さるという事であれば、その値段でお受けしましょう」


 ああなるほど、塩の買い取り価格やたら高かったけど、品質も考慮してくれたんだね。丁寧に作った身としては単純に嬉しくなる。


 そして、『当商会専属』ではなく『私専属』ときたか。


 他の商会とはもちろん、この商会の中でも店員同士の競争があって、得意先の囲い込みみたいな事も行われているのだろう。


 そしてこのお誘いがあったという事は、俺を囲い込んでおきたい優良な取引先と見込んでくれたという事だ。


 それはそれでありがたいし、この提案は俺にとっても利点がある。


 将来的にこっちから色々お願いや相談をする事があるだろうから、気心が知れた相手がいるのはありがたいし、秘密を共有する相手は少ないほどいい。


 そしてなにより、帝国と事を構える事になった時、商会の幹部全員が知ってると一人か二人くらい密告しないとも限らないからね。


 だから誰か一人と集中的に関係を築いておくのが、俺の目的にも適っている。


 できれば商会内で出世して、ある程度の影響力を持った実力者になって頂いた上で、俺との関係を失うと地位も失ってしまうくらいの、一蓮托生いちれんたくしょうの関係になってくれると大変ありがたい。


 俺達のやる事に、全面的に協力せざるを得ないくらいにだ……。


「わかりました、では専属で取引しましょう。これからよろしくお願いしますね」


 そう言って改めて手を差し出すと、店員さんもいい笑顔を浮かべて手を握り返してくる。


 目の前の子供がなにを企んでいるかなど想像だにできず、いい取引相手を捕まえたと喜んでいるのだと思うとちょっと申し訳なくなるが、最終的に店員さんにも大きな利益をもたらす事になる……といいな。そうできるように頑張ろう。


 そんな事を考えながら、俺は上々の結果に満足して商会を後にするのだった……。



 商会を出た後は、俺とシーラの冒険者カードを更新するべく冒険者ギルドに行き、無事に帝国仕様のカードへと変更できた……心中はちょっと複雑である。


 ギルドではギルドマスターの元気な姿を見る事ができて安心したが、かなりの数の冒険者が帝国の侵攻を逃れて西へ向かったまま、戻って来ていないのだそうだ。


 おかげで採取や護衛の人手が足りず、物不足の主な原因の一つになっているらしい。


 塩の供給に関してだけでも、お手伝いができるといいね。



 ……そんな訳で必要な用事は終わったのだが、まだ日暮れには早い。


 シーラにどこか行きたい場所はあるかと訊いたけど特にないそうなので、ならばと、ある場所に行ってみる事にした。


 道行く人に場所を訊いて、辿り着いたのは街唯一の孤児院。


 メルツが助けたという子供がいる場所だ。


 ……ここに来た理由は、その子を見るため。


 そしてあわよくば、帝国と戦う仲間に引き込むためである。


 親のかたきであれば帝国と戦う動機は十分だし、隊列に石を投げたのはあまりに無鉄砲だが、闘志旺盛おうせいという評価もできる。


 この先どう育つかは分からないけど、恨みを忘れずテロリストに育って悲惨な死を迎えるくらいなら、ちゃんとしたやり方で帝国と戦う機会を得られた方がマシだと思う。


 ……だと思うんだけど、子供を反乱軍に勧誘するのはどうにも気が引けるよね。


 その辺の後ろめたさからいきなり乗り込む事はできず、壁越しに様子をうかがう。


 教会が運営しているという孤児院は壁がボロボロで、子供身長の俺でも簡単に中をのぞく事ができた。


 ……小さな庭と古い建物。そこに過剰とも思える人数の子供達の姿が見える。


 どの子もボロボロの服を着て、せていた。


 西の方に行くと教会の勢力が強い国もあるらしいが、帝国とその周辺においてはあまり強くなく。各街、各村単位で運営されているのが基本で、国レベルの組織はないと聞いている。


 だから上納金とかはないと思うが、代わりに非常時の援助もない。


 そして普通の市民でも生活が苦しくなっている現状に加え、帝国の侵攻で新たに孤児になった子もいるだろうから、運営が苦しいのは容易に想像がつく。


 ……メルツが助けた子以外にも、帝国に恨みを持つ子がいたら仲間に加えれば、俺達は戦力が増えるし、孤児院の運営も少しは楽になるだろう。


 一石二鳥ではあるよね……と、自分に都合よく考えてしまうのがちょっと嫌だ。


 だけど実際の話、有効な方法なのは間違いない。


 ギリギリ許されるかもしれない選択肢としては、孤児院の運営を援助しつつ、帝国への恨みからテロリストに育ちそうな子がいたら、反乱軍に勧誘……とかだろうか?


 そんな事を考えながら孤児院の庭を見ていたら、干されていた洗濯物を取りに出てきた女の子の姿に目が止まる。


 ――あの特徴的な緑の髪は、エリス……だよね?


 そういえば宿で父親の姿も見かけなかったけど、まさか孤児になった?


 でもメルツは働きに行っているって言ってたよね? ここが職場なのだろうか?


 給料を出す余裕がありそうには思えないけど……。


 そんな事を考えて戸惑っていると、壁越しに覗いている俺とエリスの目が合った。


 と言うか、エリスが気配を察したようにこちらを見た。


 なんだろう、エルフの血を継いでいるから探知能力に優れているとかなのだろうか?



 困惑する俺をよそに。エリスは嬉しそうに、満面の笑みを浮かべてこちらに駆けてくるのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1076万8680ダルナ(-20万)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

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