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46 再会

 久しぶりに来たアルパの街は、以前より活気がなくなっているような感じがした。


 この街の街壁は南と西に門があるけど、西門は領主やその関係者専用なので、俺達が使うのは街道に面した南門だけ。


 門をくぐると商業地区があって、周辺の村から運ばれてきた農産物を売る市場や、店舗を構えた専門店が並んでいる。


 ……だけど、市場に出ている店は明らかに前より少ないし、売られている商品も少なくて高い。


 専門店も店を閉めている所が多く、門で聞いた通り流通が減って商品が入らないのか、上がったという税金のせいで商売が出来ないのか。


 あるいは、占領時の略奪のせいで潰れてしまったのか。


 いずれにしても、暗い雰囲気が漂っているのは間違いない……。


 とりあえず門でのアドバイスに従って、東寄りの道を選んで北上していくが、この街は西に行くほど高級住宅地で、あまり東に寄るとスラム街に足を踏み入れてしまい、それはそれであまりよろしくない。


 なので適度な間隔を保ちつつ、北にあるエリスの宿を目指す……。



 ――懐かしい宿が見えてくると、メーアが待ちきれなかったように走りだした。


 メルツとの再会が待ちきれないのだろう……俺も気持ち足を速め、宿の入口をくぐる。エリスもメルツも、無事である事を祈りながら……。



「メルツ、会いたかった!」


 宿の二階から聞こえてくるのは、メーアの嬉しそうな声。


 入ってすぐの場所にエリスの姿は見当たらなかったので、とりあえず俺もメルツの顔を見ようと二階に上がっていく。


 そこにはメルツに抱きついて泣くメーアの姿があり、メルツも固くメーアを抱きしめて…………あれ?


 確かに二人抱き合っているのだけど、少し様子がおかしい。メルツの右手が、ダラリと下に垂れ下がったままなのだ……。


 感動の再会なのに、あえて左手だけで抱きしめる理由なんてなにもない。


 メーアは気付いているのだろうか?


 血の気が引くのを感じていると、メルツの方でも俺達に気付いたらしい。


 申し訳なさそうに目を伏せると、『メーア、ごめん……』と言って体を離し、床にひざを着く。


「申し訳ありません、危険な事はしないと約束したのに、それに反して傷を負ってしまいました……」


 そう言って、深々と頭を下げる……その言葉にメーアも顔色を変え、メルツの体を食い入るように見る。


「――メルツ! この腕どうしたの!?」


「ごめん、メーア……」


 メルツは力なく、つぶやくように言う。


 指先を震わせ、言葉を失ってメルツの右腕を抱くメーアに代わって、俺が話を続ける。


「なにがあったか聞かせてもらえますか?」


「はい……。あれは、この街が占領された翌日の事でした。


 略奪した品を荷車に山のように積んだ帝国軍が、次の街に向かおうとしていた時。一人の子供が帝国軍の列に向かって石を投げたのです……」


 おおう……なにか事情があったのだろうけど、それはよくない。


「帝国兵の剣が子供に向かって振り上げられるのを見た時、考えるより先に体が動いていました。子供を抱きかかえてかばった瞬間、右腕に冷たい痛みが走ったのです……。


 ――その場は地面にひざまずいて許しを乞い。金貨を差し出す事でなんとか見逃してもらえました。ですが右腕の傷は深く、自分の意思で動かせなくなってしまいました。これではもうお役に立てません。約束を果たせず、申し訳なく思っております……」


 これは……キツイ話だ。


「その子は無事だったの?」


「はい。帝国軍に両親を殺されたらしく、今は孤児院で預かって貰っています……」


「そっか……傷見せてくれる?」


「はい」


 メルツが上着を脱ぐと、右腕の肩からひじ近くまで、ざっくりと傷跡が走っている。


 傷はまだ完治していないのか生々しく、赤黒い皮膚からは今にもまた血が吹き出してきそうな気さえする。


 メーアが『ヒッ』と息をんだのも無理ないだろう。この世界の医術を多少なりと勉強した知識で言うと、出血多量で死んでいてもおかしくなかったレベルだ。


 おそらく、腕のけんが切れてしまって動かせないのだろう……これを治そうとしたら、中級傷薬では足りないくらいの怪我だ。


「……ねぇシーラ、上級傷薬使っていいかな?」


「アルサル様がお望みであれば」


 俺の言葉にシーラは即座に返事をして、腰のポーチから小さな薬ビンを出してくれる。


 一本が1000万ダルナもする、高価な品。


 だけどその分効果は抜群で、致命傷に相当する傷ですら治せてしまう。


 手持ち1本しかない貴重品だ。


 買い直そうと思っても流通が滞っている今となっては幾らするか分からないし、そもそも入手不可能かもしれない。


 だけどここは、使うべき所だろう。


 受け取った薬ビンをメルツに渡そうとするが、慌てた様子で左手を後ろに隠してしまう。


「い、頂けません! もうすでに一度恩を受けたのに、二度目などお返しする方法が……」


 お、遠慮された。


「でも、その手のままだとそれこそ返す方法がないじゃない。怪我が治ればまたパーティーメンバーとして働いてもらえる訳だしさ……それに、子供を助けるために渡した金貨も、貴重な蓄えからだったんでしょ? これからメーアと生きていくにもお金が必要なのに、その手でどうやって稼ぐの?」


「それはそうですが……、しかし危険な事はしないという約束を破ったのに、さらに温情をかけて頂く訳にはいきません」


「でも『死なない』って約束は守ってくれたよね。そっちの方が重要だったんだから、それでいいよ。なにより、俺達にはメルツが必要だからさ」


「しかし…………」


 う~ん、反論に詰まってはいるが、薬を受け取ってくれる様子はない。年収何年分もするものだから簡単に受け取れない気持ちは分かるし、申し訳なさも感じているのだろう。


 ――よし、それならこの手だ。


「じゃあメーア、これ受け取ってくれない? 条件は……『はい!』


 おおう、ものすごく食い気味に反応がきた。


「いや、条件聞かなくていいの?」


「アルサルさんが無茶な条件を出すとは思いません。私の時と同様、時間をかけてゆっくり返済させて頂けるのでしょう?」


「う、うん……」


「ではぜひお願いします!」


 ――なんか俺、意外とメーアから信用されていたみたいだ。


 ちょっと嬉しくなるし、メルツもメーアからとなれば受け取るのを嫌とは言わないだろう。


 メーアを助けるためにメルツが、メルツの怪我のためにメーアが上級傷薬を求める……本当にお互い想い合っていて、いいカップルだよね。


 ……心の中に、(これでメルツとメーアを当面パーティーメンバーとして繋ぎ留めておけるな)という黒い考えが浮かんでしまった自分がちょっと嫌になるが、でもシーラから求められている参謀の仕事というのは、そういう事なのだろう。


 将来起こす帝国との戦いにまで巻き込むかは、本人達の意志を尊重するけどね。


「……そうだメルツ、エリス知らない?」


 上級傷薬を使うためだろう、メーアと二人で部屋に戻ろうとしている背中に声をかける。


「宿に客が来ないので、働きに出ています。夕方には帰ってくるはずですが」


「そっか、ありがとう。……メーアとは久しぶりだから、ゆっくり過ごしてね」


 そう言葉をかけると、二人の顔が赤く染まっていく。なんか微笑ほほえましいね。



 部屋に入る二人を見送り、以前俺達が使っていた部屋へ行ってみると鍵が開いていたので、とりあえずそこに荷物を置かせてもらう。


 お客さんはいないみたいだし、ここを出て山へ向かう前、『いつかまた泊まりに来るから、その時の前払い』と言って金貨を渡したので、怒られる事はないと思う。


 あの金貨、役に立ったかな?


 役に立たない状況が一番いいけど、メルツでも金貨に命を救われる場面があったみたいだからね。


 上級傷薬代の返済の他に、ちゃんと給料も出していて良かった……シーラの稼ぎからだけどさ。


 それはともかく、エリスが帰ってくるのは夕方らしいので、それまでこの街でも交易をやってみよう。



 そうシーラに告げ、俺達は貴重品と塩を持って街へと出かけるのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1046万8680ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

※45話に誤字報告をくださった方ありがとうございます。こっそり修正しておきました。

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