45 占領された街
エルフ族との交易を終えた翌日、俺達はアルパの街を見下ろせる所まで山を下ってきた。
2か月ぶりくらいに見る街は、一見して大きく変わった所はない。
とりあえず、燃えたり大きく壊れたりはしていないようだ。
「シーラ、メーア、危なくなったら逃げるの優先するからね。命を最優先でいくよ……俺のじゃなくて、全員のね」
そう言うと二人共頷いてくれ、山を降りて街へと向かう。
……誰かに会ったら街の様子を訊きたかったのだが、誰とも出会わないまま街の入口まで着いた。
人通りが減っているのだろうか?
街壁には帝国の旗が掲げられいて、門には警備の兵士が4人、こちらを見ている。
「……ねぇシーラ、あの兵士って帝国兵かな?」
「少なくとも鎧は旧領主の軍隊で使われていたものですね。接収した可能性もありますから、中身まで旧領軍の兵士かは分かりませんが」
だよね、なんか見た事ある格好だと思った。
帝国軍の鎧よりもアルパ領軍の鎧に見覚えがあるとか、元皇帝としてどうかと思わないでもないが、皇帝時代に兵士を見る事なんてほとんどなかったし、たまに見ても特殊な鎧を着た近衛兵だったからね。しょうがない。
……そんな自己弁護はともかく、帝国は治安維持を旧勢力に任せているのだろうか?
高度な自治を認めているとかだったら見直すけど、どうだろうね?
その辺りを確認するべく注意深く近付いていき、こちらから声をかける。
「あの、行商の者なのですが」
そう言葉を発する……が、兵士達は俺に視線を向ける事なく、別の方向を見ている。
視線を追ってみると、俺の斜め後ろ……シーラだ。
知り合いかなと思っていると、兵士の一人。多分隊長格の人が驚いた感じで言葉を発する。
「あなたはたしか、冒険者の……」
「どこかでお会いしましたか?」
「はい、昨年西の村がオークとゴブリンの群れに襲われた時、討伐隊でご一緒しました」
「ああ、あの時ですか。あの時私はただのD級冒険者に過ぎなかったはずですが、よく覚えておられましたね」
「それは――印象に残りましたから」
……お、なんだなんだ、ラブコメの気配か?
許さんぞ、シーラは俺の恋人……ではないけど、いつかそうなりたい人なのだ。どこの馬の骨とも分からん男に……。
――と一瞬闇落ちしかけたけど、冷静になってみるとあまり恋の気配は感じないな?
兵士の人、どっちかと言うとちょっと引いてる感じがする。
「……シーラ、知り合い?」
「集団での討伐クエストに参加した時、同行した方であるようです」
なるほど、街を挙げての緊急クエストみたいなものだったのだろう。魔石採集ばかりやっていた訳じゃなかったんだね。
そう理解して、話を兵士の人に向ける。
「シーラは活躍したんですか?」
「それはもう。討伐数はB級冒険者を抑えて、全参加者中最多でした。
返り血に染まったその姿は『鮮血姫』と異名をとったほどで……あ」
(しまった)という表情を浮かべて口を噤む兵士の人。本人には内緒だったらしい。
……気にしていそうな様子はないから大丈夫かな?
それにしてもシーラ、知らない所でそんな二つ名を取るほど活躍してたんだね。
毎日一緒にごはん食べてたけど、シーラはあまり自分の事を話さないからな……。
まぁそれはともかく、兵士の人がシーラに向ける感情が恋愛や憧れではなく、恐怖や脅えに近い物だと分かって安心した。そういえばちょっと敬語だもんね。明らかにシーラより年上なのに。
……そんな俺の心中など全然知らないのだろう。兵士の人がちょっと暗い表情で言葉を発する。
「シーラ殿は行商人の護衛に出ておられたのですね……街の事情はご存知ですか?」
「帝国に占領されたと聞いています」
「はい……そのせいで以前の身分証は使えません。今回は通行料を払っていただき、冒険者ギルドへ行って新しい物を作ってもらってください。
再発行にもお金がかかるようですし、会費などの条件も悪くなったようですが」
ああそうか、支配者が変わったから前の身分証は使えないのか。
俺も再発行しないといけないな……F級冒険者証だから、そんな大したものでもないけどさ。
そんな事を考え、横から口をはさんで街の様子を訊いてみる。
「街はなにか変わりましたか?」
俺の言葉に、兵士の人は表情を苦々しそうにゆがめた。
「税金が高くなって、そのせいであらゆる物の値段が上がった。食料も日用品も、ここの通行料もだ。
それでもまだ買えるならマシな方で、商人が減ってしまって物も不足気味だ。だから行商人が来てくれるのは正直助かる」
「そうですか……お役に立てるよう努力します。帝国兵の様子はどうですか? 何人くらいいます?」
「兵士が100人に行政官が10人と言った所だが、連中税金を取り立てる以外はなにもしやがらねぇ。昼間っから酒を飲んで、いいご身分だ……。
行商人さん、西にある元領主館には近付かない方がいいぞ。連中に絡まれたらろくな事にならんからな」
「ご忠告痛み入ります……」
どうやら、帝国軍の評判はあまりよろしくないらしい。
でも、街の規模を考えれば駐留部隊が100人は少ないと思う。領軍がどれだけいたかは知らないけど、ある程度戦闘ができる冒険者だけでも3倍はいたはずだ。
……多分、街の治安維持や運営は前の組織をそのまま使って手間を省き、帝国はお金を毟り取る事しか考えていないのだろう。
兵士は役人の護衛で、もし反乱が起こったら、どこかにまとまった数が駐留しているだろう軍隊を差し向ければいい。
100人の駐留部隊を追い払う事は簡単でも、万単位の討伐軍を向けられたらとても勝ち目はないからね。
……正直、搾取するだけならとても効率がいい方法だと思う。
微妙な気持ちになりながら、俺達は以前の倍に上がった通行料を払ってアルパの街に入る。
まずはメルツの、そしてエリスの安否確認からだ。
言われた通り西を避け、ちょっと大回りして、俺達は街の北にある宿を目指すのだった……。
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・1046万8680ダルナ(-3万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
配下
シーラ(部下・C級冒険者)
メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者 アルパの街に残留)
メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)




