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44 商談成立と人間関係

 エルフの交易倉庫みたいな場所で、交換希望として集めた品。


 バケツと柄杓ひしゃくが2本、お椀、ノコギリとハンマーとノミ、やりが3本、手入れ用の油と砥石といし、弓が1りに矢が20本、調味料が3種類に、ドライフルーツが2袋。布が2巻きに太いひもと糸が1束ずつ……。


 鍋以外は今回の交易で目的としていた物が大体揃っている。


 ――果たして、持って来た塩4袋で足りるだろうか?


 正確な重量は量っていないし量る方法もないけど、多分1袋3キロくらいで、合計12キロ前後だと思う。


 塩の貴重さ次第だけど、全部は無理だろうか? 諦めるとしたら工具類と、槍を1本、布を1巻減らすとかかな? もっととなったら……メーアには悪いけど食べ物関係になると思う。


 頭の中でそんな計算をしていると、品の確認を終えたエルフさんが箱から石を取り出した。


「これでどうだ?」


 そう言って並べられたのは、大中小と3個の石。


 一瞬意味が分からなかったが、エルフさんが天秤を持ってくるのを見て理解ができた。これは塩の重さを量るおもり……分銅ふんどうなのだろう。


「持ってみてもいいですか?」


 俺の言葉にエルフさんが頷いたので手に乗せてみると、ズシリと重い。石なのに鉄みたいな重量感だ。


 3個でどうだろう? 10キロはいってないと思うけど、8キロくらいだろうか?


 これなら足りそうだ……けど、即答を待って少し考え込む。


 こういう時は値段交渉をするのがセオリーだけど、エルフさん的にはどうなのだろう?


 プロの商人みたいに交渉前提で吹っかけているのか、そんな駆け引きなしで妥当と思う値段を提示しているのか。


 後者だったら、値切ると印象悪くしそうだよね。でも前者だったらあなどられる。


 ……悩ましい所だけど、純粋な取引として考えれば、この量で塩10キロ以下は破格の安さだと思う。


 ――――よし、感覚を優先しよう。


「わかりました、ではそれでお願いします」


 そう口に出すと、天秤の片方に乗せられた箱に塩を注いでいく。


 エルフさんが反対側に錘を乗せ、釣り合うまで塩を盛るのだ。


 流れ落ちる塩をエルフさんがじっと見ているので、この方法は品質の確認も兼ねているのだろう。


 袋のままだったら上だけ塩で、下半分砂とかあるかもしれないからね。


 そんな事を考えながら1袋・2袋と入れていき、3袋目の半分くらいで天秤がゆらゆらと揺れだし、3分の2くらいで大体釣り合った。


 小さいスプーンで細かい微調整をし、完全に釣り合った所で取引成立となる。


 残りの塩はアルパの街で売る事にしよう。あそこも海から遠いから、塩は高価だったのでいい値段で売れるだろう。


 ――そんなこんなで無事商談を終え、取引成立を祝してエルフさんと握手をしようとしたら普通に断られ。友好関係への道は遠いなと思いつつ、倉庫を出てふもとへ。アルパの街へと進路を取る。


 案内のエルフさんが出会った地点付近まで送ってくれたけど、多分見送りじゃなくて監視だったんだろうね。


 この辺り一帯はエルフの領域で、そこに足を踏み入れている人間は全部監視対象という事なのだろう。


 仲良くなれる日は遠そうだなと思いながら、それでも笑顔で別れを告げてエルフの領域を後にする。


 いつか仲良くなれる日が来るかもしれないし、これからも交易に来ると思うから、印象を良くしておくに越した事はない。


 ……社会人になりたての頃、『好き嫌いで相手を判断してはいけない』って教わったけど、それから20年近くサラリーマンをやって得られた知見としては、『困っている相手を助けるか、困っている時に助けて貰えるかは好き嫌いによる』だ。


 仕方ないよね、人間だもの。


 儲けになる取引相手とかなら嫌いな相手でも愛想あいそよくするけど、それは利益がある間だけの関係だ。


 一方で本当に笑って話ができる相手とは、相手の事情次第で儲けにならない取引をする事もあった。


 それが後日利益となって返ってきた事も、返ってこなかった事もあるけど、とりあえず良い印象を持たれておいて損はないというのが、俺の人生経験である。


 そんな事を思い出しながら、アルパの街を目指して山を下っていく。


 久しぶりにメルツに会えるメーアは嬉しそうで、交易で荷物が増えたのに足取りが軽い。


 ……俺としては少し気がかりがないではないけど、今言うような事ではないので黙っておく。


 エルフさんに訊いてみたけど最近人族の商人は来ていないそうで、状況は全く不明だしね。


 気がいているだろうメーアには申し訳ないが、余裕を持って山中で一泊し、翌日街を目指す事にする。



 ……夜はいつも交代で見張りをするのだが、俺・シーラ・メーアの順番である。


 俺は夜更かし型だし、メーアは朝食の準備をするから効率的な順番ではあるのだが、一番熟睡しにくい真ん中に一番体力と気力を消費しているシーラという、シーラにとってはキツイ配置でもある。


 それでもこれが一番全員の体力を保って移動距離を稼げる順番でもあるのだから、いかにシーラの身体能力がずば抜けているかが分かろうというものだ。


 ……そんな訳で俺が最初の見張りを担当し、ぼんやりと焚き火を眺めていると、不意にシーラが起き出してきた。


「アルサル様、街に入る前に確認しておきたい事があります」


「うん……」


 シーラは焚き火を挟んで俺の正面に座ると、じっと俺を見て言葉を発する。


「もし明日、メルツと合流できなかったらどうしようとお考えですか?」


 それな……。


 シーラが口にした事は、俺の気がかりでもあった。


 メルツとは一応、『絶対に死なない・危ない事はしない』と約束しているけど、約束したからって必ず守れる訳ではない。


 極端な話、本人が危ない事をしなくても、帝国兵の気まぐれで殺されてしまう事だってありえてしまう。


 占領された街の住民と言うのは、それだけ弱い立場なのだ。


 ましてメルツは、ジェルファ王国の元貴族としての責任から残ると言った。


 正直ちょっと危なっかしいし、もしメルツになにかあったら、メーアがどんな行動を取るか分からない。


「……行方不明までならなんとか大丈夫だと思うけど、もし殺されていたら。悪いけどシーラ、メーアを押さえつけてくれる?」


「承知しました……ですが、それで解決するとは思えません」


「そうだね……とりあえず一旦落ち着かせて、それから決めてもらおう。


 いざとなったら敵討かたきうちを煽ってでも生きてもらうよう説得するけど、それでもダメでどうしてもメルツの後を追うと言ったら……その時は止められないかなって思う」


「……なるほど、わかりました」


「うん……シーラ、俺の事薄情だと思う?」


「いえ、生きる希望をなくして死を願う人間を無理やり生かし続けるのは、場合によっては死よりも残酷な事です。


 少なくとも、縛って猿轡さるぐつわを噛ませて、それで死ぬのを阻止した所でなんの解決にもならないでしょう。私もアルサル様の判断に賛成です、聞けて良かった」


 シーラはそう言うと、一礼して寝床へと戻っていく。


 ……難しい問題だけど、多分これが一番いい対応なのだと思う。


 そこまで愛されているメルツの事が少し羨ましくなるけど、メルツはきっと、メーアが自分の後を追って死んだ所で喜ばないだろうね。


 ……今はただ、メルツの無事を祈るのみだ。



 俺は星が明るい夜空を見上げながら、明日一日が無事に過ぎるようにと祈るのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1049万8680ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者 アルパの街に残留)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

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