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4 シーラの事情

 一応最低限の信頼を得て、シーラに協力者になってもらう事ができたと思う。


 だけどまだ最低限なので、これからさらに信頼を深めていくためにも。そして行動を共にする上でも、シーラの事情を知っておく必要がある。


 それに協力関係なんだから、こっちからも手助けできる事があれば手伝いたいしね。


 宰相を殺したいほど憎んでいるようだが、果たしてその動機は何なのか。かなり強い感情を秘めていそうで怖いけど、恐る恐る話を聞き出しにかかる。


「シーラ、おまえの事情を聞かせてくれるか? なぜ宰相を殺したい?」


 俺の問いにシーラは思い詰めた表情になって少しうつむくが、ややあって硬い声を発する。


「…………母を、助けたいのです」


「おまえの母は宰相の所にいるのか?」


 俺の言葉に、シーラは表情に迷いを浮かべて口篭くちごもる。


 ……あれ? 事情を話してくれるくらいの信頼は確保したと思ったんだけど……あ、そうか。


「子供には聞かせにくい話か?」


「――はい」


「構わん、話せ。宰相を敵に回して戦おうというのだ、相手の事は何でも知っておくべきであろう。子供だからと甘やかされていて勝てるような、そんな生易なまやさしい相手ではあるまい?


 体の未熟さはどうにもならんが、それ以外は余を子供と思う必要はないぞ」


 ……実際、体は子供だけど中身はアラフォーのおっさんだからね。


 俺の言葉にシーラは驚いた表情を浮かべたが、同時に頼もしくも感じてくれたのだろう。信頼を増した表情をして話を続けてくれる。


「ではお話しします……皇帝陛下にも関わる件がありますから、お覚悟ください」


「うむ……」


 俺の返事を確認し。シーラは感情を殺すように淡々と話をはじめる、


「宰相の女の好みは、人の妻と皇帝の母親であるそうです。私の家は帝国に仕える部門の家であり、父は兵一万を預かる将軍を務めていました……ですが、ある日母が宰相に目をつけられたのです」


 ――おっと、いきなりとんでもないパワーワードが飛び出したな。


 これは確かに子供に聞かせるような話ではない。俺は寝取りとか熟女趣味とかの存在を知っているけど、11歳の子供ではそもそも理解できないだろう。


 そして、早くも重い話になりそうな予感がする。


 シーラの母親だからそれはもう美人なんだろうけど、それがあだになった訳だ……。


 俺がそんな事を考えている間に。シーラは暗い感情を内に押し込めるようにしながら、淡々と話を続ける。


「母を差し出せという要求を、父は当然ねつけました。するとありもしない反逆の罪を着せられ、父は母を守って戦おうとしましたが、宰相は皇帝陛下の勅令状を持ち出してきたのです……。


 それは、帝国に仕える者にとって決して逆らう事ができないもの。忠節を重んじる武人であった父は勅令状に剣を向ける事ができず、捕らえられて、取り調べもなく処刑されました……」


「……その勅令は、余が出したものか?」


「いいえ、先代陛下の御代みよの事です」


 それはよかった……いや別によくはないし宰相が無理やり出させたものだろうけど、自分がシーラの家庭を崩壊させたとなると、これから先顔を合わせにくい。


 皇帝の記憶にも、言われるがままよく分からずに書類にサインした記憶が沢山ある。


 内容を理解していなかったし、拒否したら命がなかっただろうとはいえ。一つ一つが誰かの人生を破滅させたのかもしれないと思うと、恐ろしいね……。


 ちょっと手が震えるのを感じている間に、シーラは静かに話を続ける。


「母も部門の家に産まれた娘で、武人の父にとつぎました。礼儀と名誉をなにより重んじる人で、卑劣な手段で夫を死に追いやった男の愛人になるなど、到底耐えられない事だったでしょう。


 ……だからあの男は狡猾こうかつに、先に手を回したのです。私と妹の身柄を押さえ、母をおどしました。


 私とて武人の娘ですから、屈辱くつじょくを受けるくらいなら死ぬ覚悟はできていました。それは母も分かってくれていたはずです……だからあの男は、さらに卑劣な手段を用いたのです。


 逆らえば娘を殺すぞではなく、拷問するぞと。そして裸にして街を引き回し、ならず者達の慰み物にするぞと言って脅したのです。それも私だけならともかく、まだ幼かった妹もです……」


 シーラの手が硬く握られ、噛みしめられた奥歯が『ギリッ』と音を立てる。


「私はその時、世の中には死にもまさる屈辱があるのだと知りました……結果として、母は私と妹を守るために、宰相の愛人として屋敷に囲われる事になったのです。今は一年に一度、手紙の遣り取りが許されているだけです。


 開封されて中を確認された、当たり障りのない内容の手紙。私がまだ生きていて、母のかせになっているのだと思い知らされる手紙です……」


 ……シーラの目からは涙があふれ、硬く握り締められたこぶしは小刻みに震えている。


 俺はなんと声をかけていいのか分からず、少しでも前向きな話題をと必死に探す。


「……妹はどうしておるのだ?」


「まだ幼いので親類の家で養われている……と聞かされていますが、連絡が取れないので詳しくは分かりません。私が死んだ時の代わりとして、生かされてはいるはずですが……」


「そうか……妹は幾つだ? おまえの歳も教えてくれ」


「妹は今年9歳、私は14歳です」


 ……元の世界で言えば、妹は小学校3・4年生。シーラは中学2・3年生か……。妹はもちろん、シーラだってまだ子供と言っていい歳だ。


 本当なら母親に甘えたい年頃だろうに、この姉妹に背負わされた運命はあまりに過酷である。


 シーラが大人びたお姉さんに見えたのは、11歳の皇帝の記憶に引っ張られていた以外に、この境遇がそうさせているのかもしれない。


 純粋な子供でいる事などできなかったのだろう……。


「……それで、宰相を殺して母親を取り戻す方法に当てはあるのか?」


 そう問いを発すると、シーラは複雑そうに俺を見る。


「この先は皇帝陛下にとっても辛い話となります。お覚悟を疑う訳ではありませんが、本当によろしいですか?」


 シーラの問いに黙ってうなずくと、シーラも小さく頷いた。


 お、ちょっと心が通じている感が出たな。


 最初に言っていた、『皇帝陛下にも関わる件』の話だと思うけど、勅令状の事かと思ったら、どうやらこれからが本番らしい。


 そして、これも最初に言っていた『宰相の女の好みは、人の妻と皇帝の母親』という情報を重ねると、もう嫌な予感しかしない。


 ……だけど、14歳のシーラが胸にいだいている覚悟なのだ。


 11歳の皇帝はともかく、アラフォーの俺がビビッていては話にならない。



 覚悟を決めて、俺はじっとシーラの話を聞くのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……1.2%


資産

・特になし


配下

シーラ(協力者) ※信頼度ちょっとアップ

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