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38 拠点候補を内見しよう

 新しい拠点を作るに当たり、海狸かいり族の族長推薦の候補地を、戦士タリンさんに案内してもらう。


 海狸族の集落から川を下り、河口から海に出て東に向かうと、砂浜だった海岸に石が多くなり、いそっぽくなってくる。


 水上の俺達はいいけど、陸上を行くシーラと馬のシルハ君は歩きにくそうだ。


「大池に近くて湧き水がある場所だと、ここが最初の候補地になります」


 海に飛び込んでハシケを押してくれていたタリンさんが止まったのは、磯釣りに良さそうな切り立った大岩の前だった。


 波はとても穏やかだけど、岩壁が水面から3メートルくらいあって、ちょっと登れそうにない。


 ここは無理かなと思っていると、タリンさんが『この下から水が湧いています』と言葉を発した。


「……この下ですか?」


「はい、私の身長くらい潜った所ですね。浅いので利用しやすいと思います」


 ……なるほど。『海の近く』と言ったけど、ちょっと近すぎるな。タリンさんは小柄だから、水深1メートル半くらいだろうか?


 ビーバーみたいな獣人のタリンさんは簡単に潜れるのかも知れないけど、人間の俺には難易度が高いよね。


 冬とか潜ったら死んでしまう気がするし、そもそも海中の湧き水では真水が汲めない。


「ええと……できれば陸上に水がある場所がいいんですけど」


「――ああなるほど、これは失礼しました。勇者様達はあまり泳がないのでしたね」


 その勇者様っての定着しちゃうんだ……まあそれはともかく、あまりと言うかほとんど泳がない。まして冬とかはなおさらだ。


「では陸上に水が湧いている場所をご案内しましょう……ですが次の場所は、陸上から近付くのは難しいかもしれません」


「あー、できたら陸上からも到達しやすいとありがたいです」


「そうなると候補は一つですね。そこへ向かいましょう」


 タリンさんはそう言って、少し沖に進路を取る。


 どうやら岩礁がんしょう地帯で、ハシケが座礁する危険があるらしい。


 人間が住むには向かない場所な気がするね……。


 ……途中で大きな崖の前を通ったが、海に迫る切り立った崖の真ん中あたりから滝が流れ落ちていて、なんか壮大な光景だった。


 しばらく見惚みとれていたら、タリンさんの『あそこが二つ目の候補地だった所です』という言葉に、思わず真顔になってしまった。水に対する親和性が高すぎる。


 あの下に拠点とか、常時滝行状態じゃないか。


 常時ダムに浸かっているタリンさん達は問題ないんだろうけど、一般の人間には辛いよね。


 観光で来て見上げる分には最高の景色だけど、住むとなると話が変わってくる。


 三か所目もちょっと心配になってくるが、着いた場所は磯の反対側。砂浜との境界付近だった。


 小さな小川が海に注いでいて、上陸して流れを辿ると、すぐに大きな鍾乳洞しょうにゅうどうがあった。


 大人が三人並んで入れるくらいの大きさで、真ん中を小川が流れている。奥行きはタリンさんも知らないそうだが、声を出してみたらわりと奥まで反響した気がする。


 ……差し当たり雨風をしのげる洞窟があって、しかも水がすぐ近くを流れている。


 おまけに洞窟の入り口は東向きなので、海が荒れても波風が吹き込んでくる事はなさそうだ。


 ……ここ、もしかして最高の条件が整っているのではないだろうか?


 最初からここに案内して欲しかった気がしてならないが、タリンさん達にとってはさほど条件がいい場所ではないのかも知れない。


 細い小川しか流れていないので、水量が不足なのだろうか? 俺達にしてみれば、常時流れているだけで十分過ぎるけどね。メーアも気に入った様子だ。


 あとはシーラの意見も聞かないといけないけど、多分ここで問題ないと思う。


「ありがとうございますタリンさん、とりあえずここを第一候補にする事にします」


「お気に召して頂けたのなら良かったです。他に何かお手伝いできる事はありませんか?」


「ええと……将来的に木材や食料の交易をお願いするかもしれませんけど、今はこのくらいだと思います」


「わかりました、木材ならいずれと言わず、今からでも運び込みましょうか?」


「いいんですか?」


「構いませんよ。我々は元々、前歯が伸びすぎるので定期的に木をかじらないといけないのです。倒した木を無意味に齧るよりも、齧り倒す方が楽しいですからね。


 今なら下流に他のダムもないので、川に流して河口で回収すればいいだけですし。大池をここまで引っ張ってくるくらいは大した手間でもありません。数人でこの辺りに来て、ここで木を齧り倒してもいいですしね」


「なるほど、それならお願いしてもいいですか? お礼は……今は出せるものがありませんが、そのうち何かお返ししますから」


「いえお礼なんて、瘴気しょうき退しりぞけて頂いただけで十分過ぎます」


 そう言って全力で遠慮するタリンさん……どちらかと言うと俺の方が、油田火災の消火に協力してもらった認識なんだけどね。


 ……名目を贈り物かなにかにして、そのうちなにか返す事にしよう。


 そんな事を考えながら、一旦集落に戻ると言うタリンさんを見送り。シーラに見つけてもらいやすいように、陸に引き上げたハシケに木の枝を立てる。


 万一合流できなかったら、明日以降河口で待ち合わせの約束だけど、シーラは目がいいから見つけてくれないだろうか?


 そう期待しながら、メーアとたきぎを集めたり寝床を作ったりして拠点の仮整備をしていると、果たせるかな、しばらくしてシーラが無事姿を現した。さすがの捜索能力だ。


「シーラ、ここが新しい拠点の候補なんだけど、どうかな? まだ奥までは入ってないけど、わりと深さがあるみたいだよ」


「……そうですね、敵襲を受けた場合に逃げ場がないのが問題だとは思いますが、それ以外はよい場所だと思います」


 こんな北の果てまで来て敵襲の心配とか、シーラは根っから軍人気質だね……いや待てよ。そうか、なにも襲ってくるのは人間ばかりとは限らない。魔獣の群れとかの可能性もあるのだ。


 それも考えたら、なるほどシーラの心配は妥当なのだろう。


 ここは北が海・西は崖・南は森で、東は砂浜。東と南から攻められたら、確かに逃げ場がない。


 一応貰ったハシケがあるけど、波が荒い日だったら不可能だ。


 ……船の建造とか検討するべきだろうか?



 新しい課題ができた気もするが、ともかくシーラの同意も得られて、新しい拠点の場所が確定した。


 あとは設備の充実と、塩作りが可能かどうか。そして白い石油の利用法の研究だ。


 今まであまり活躍の場がなかった俺の出番な気がするので、俺は張り切って計画を巡らせるのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1049万8680ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者 アルパの街に残留)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

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