表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/259

37 新しい拠点候補地

 海狸かいり族の皆さんとの瘴気しょうき撃退記念の宴は大いに盛り上がり。その日はダムの近くに泊めてもらった。


 タリンさんが『勇者様は本当に凄かった、瘴気の元になる毒に恐れる事なく立ち向かった』とか、100パーセント嘘ではないけど、98パーセントくらい嘘・大げさ・紛らわしいで構成されている話をしていたが、場が盛り上がっているようなのでそっとしておいた。


 元サラリーマンの俺は空気が読めるのだ。


 それに今は、もっと優先して考えなくてはいけない事がある。


 一つは石油の利用法で、もう一つは塩の作り方だ。


 石油は現状有効な方策を思いつかないので、まずは可能性がありそうな塩の方から。


 そのためには、海の近くに拠点を構えたい。海狸族の皆さんは海も泳ぐらしいから、海の傍なら連絡も取りやすいだろう。


 せっかくできた人脈だから、これっきりはもったいないもんね。


 そう考えて、翌日の朝。俺は海狸族の長老を訪ねる。


「この近くに拠点を構えたいと思うんですけど、海……大池の近くで、水場も近い場所ってありませんかね?


 他の種族の縄張りじゃなくて、できれば瘴気の発生点だった場所にも近いとありがたいのですが」


 挨拶もそこそこにそう切り出すと、長老さんは嬉しそうな声で言葉を発する。


「おお、この地に留まって瘴気の抑えをしてくださるのですか! なんとありがたい……湧き水がある場所が幾つかありますから、案内させましょう。おい、タリン!」


 そう言って呼び寄せたタリンさんに、俺達を候補地へと案内するように命じてくれる。話が早くてありがたい。


 昨日の偵察に使ったハシケは水面下に油がついてしまい、ダムで使うと水を汚しかねないし、海狸族の皆さんもおびえるので俺達が貰い受ける事になり。俺とメーアとタリンさんがそれに乗って川を下り、シーラはシルハ君に乗って陸路をついてくる事になった。


 ダムに新しく水を溜め始めたので川の水深は浅くなっていたけど、ハシケが通れるくらいはあったので、俺達は順調に川を下りはじめる。


 海狸族の人達が総出で見送ってくれ、餞別せんべつに大量の木の実と干魚、果実酒をくれた。


 俺達の中にお酒を飲む人はいないけど、ワインみたいなものだから料理にも使えるだろう。


 本当は塩作り用のなべとかがあったら譲って欲しかったのだが、火を使わない海狸族の人達が持っている訳なかったよね……。


 とはいえ食料だけでもありがたいので、丁寧にお礼を言ってお別れした。これからも仲良くできたらいいなと思う。


 シーラとは河口で合流する約束をし、しばらくの間別行動だ……。



 ……川を下っている感じだと、昨日まであった煙の嫌な臭いもほとんどなくなっていて、風が心地いい。


 この辺りは本来自然豊かで、風光明媚ふうこうめいびな場所なのだろう。


 今通っている場所は両岸枯れ木だらけで死の世界的な様相ようそうだけど、時間が経てば森が再生してくれると思う。


 ……そうなったら魔獣も戻ってくるだろうからその対策が必要になるので、それはそれで頭が痛いけどね。それと今は夏だからいいけど、北の果てらしいから冬の寒さも心配だ。


 できれば寒くなる前に、拠点の基盤を築いておきたい。



 ――そんな事を考えながら川を下っていると、壊れたダムを通過した。


 タリンさん達の所と似たようなダムだが、大きく崩れてしまっていて両端が原形を留めているだけだ。


「……ここは?」


「同族の村があった場所です……我々の所よりも瘴気の発生源に近かったので、ごらんの有様です。わずかに残った子供達が我々の村に移住してきた以外、みんなに死に絶えてしまいました……」


 おおう……思いっきり重たい話を聞いてしまった。


 そういえば長老さんが、『若者が新天地に移住する以外は、産まれた場所で生きて死ぬ』って言っていたな。


 幾つか滅びた集落があるとも言っていたけど、実際痕跡を見るとしんどいね……煙にはいをやられて死ぬのは苦しかっただろう。タリンさん達が異常なほど瘴気におびえていた理由も分かる。


 ……目を瞑って黙祷しながら集落跡を通り過ぎ、更に川を下っていく。


 川幅が広くなってからはスピードも増し、しばらくして大きく開けた水面に出た。


 波が打ち寄せていて、水平線が見える。水を舐めてみると……塩からい気はするけど、なんか物足りない気もする。頑張ればそのまま飲めるくらいだ。


 塩分濃度はお味噌汁くらいだろうか? 川が近いから汽水きすいなのかな?


 とりあえず適当な所で岸に寄せてもらい、シーラの到着を待つ。……その間に、タリンさんに話を訊いてみる。


「俺達はこの場所を海と呼ぶのですが、大池と呼ぶのはなにか理由があるんですか?」


「理由……は知りませんが、大きい池だから大池なんじゃないですかね?」


「……大きさはどのくらいか分かりますか?」


「北へ向かって泳ぐと、三日ほどで行き止まり。冬は氷が張ってもっと手前から進めなくなります。東へは二日、西にも二日ほどですが、その先には大きな大地の裂け目があって、危険なので近付いてはいけないと言い伝えられています」


 なるほど……タリンさんが泳ぐ距離が一日に何キロか分からないけど、元の世界で言うカスピ海みたいな、若干の塩分を含んだ大きな湖なのだろうか?


 もしくはバルト海みたいな、外海と繋がる場所が狭い内湾で、流入河川が多いのに高緯度で蒸発量が少ないので、塩分が薄くなっている海なのか。


 どちらにしても、塩作りにはあまり適さない環境な気がするな……量で押せばなんとかなるだろうか?



 そんな事を考えているうちにシーラも合流し。長老オススメの拠点候補を見て回るべく、俺達は海岸を東へと移動するのであった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1049万8680ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者 アルパの街に残留)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ