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35 瘴気の発生点へ

 海狸かいり族の長老さんの決断で堤防を壊し、瘴気しょうきの発生点こと油田火災の現場に向けて大量の水を流した翌日。


 近くに天幕を張って眠っていた俺が目覚めてみると、池の水位はかなり下がっていた。


 完全に干上がってはいないが、海狸族の人達が泳ぎにくそうで。ヒザくらいまで水に浸かって歩いている人もいる。


 例によって目覚めたのは俺が最後だったらしく、メーアが作ってくれていたスープを急いで掻き込む。


 具にはタリンさんが届けてくれたという魚が入っていて、かなり美味おいしかった……けど、少し油の臭いがしたのも確かだ。


 煙が雨に混じって、川の水を汚染しているのだろう。長老が『水も汚れてしまった』と言っていたのを思い出す。


 とりあえず体に害がありそうなレベルではなかったので、全部美味しく頂き、堤防の切れ目へと向かう。


 ……開口部からはまだ結構な量の水が流れ出していて、洪水が起きている下流域は一面茶色い泥水で覆われていた。


 周囲には大勢の獣人さん達が集まって、不安そうな目で瘴気しょうきの発生源である北を見つめている……その中にはシーラの姿もあった。


 この水が火災現場まで届いていてくれればいいんだけど……と思いながら俺も目を凝らすが、距離があるのと薄くけむっていてよく見えない。


 ――ただ、けむりは今も立ち上り続けているように見えた。


 まだ水が届いていないのか、それとも失敗したのか。


 確認する方法がないので気を揉んでいると、じっと北を見ていたシーラが『発生点が遠ざかっているようです』と報告してくれた。


 俺の視力では確認できないが、人間望遠鏡のシーラには見えるのだろう。


 発生源が遠ざかっているという事は、水はもう火災現場に届いていて。油は水に浮くので、浮いた油が流されながら燃えているのだと思う。


「シーラ、元の場所でも燃えているかどうか分かる?」


「……元の場所では燃えていないようです。少しずつ北に移動しています」


 よし、それはいい答えだ。


「すみません、水を止めてください」


 タリンさんに言うと、獣人さん達が一斉に動きだし。みるみるうちに堤防が修復されていく。


 水流攻撃が有効な事が判明したので、今回で消火に失敗しても、水が貯まったら二回目ができるからね。


 できれば今回で成功していて欲しいけど……様子を確認しに行く方法がない。


 目の前は一面の湿地帯になっていて、獣人さんの様子を見るとこしの高さまで水がある。下が泥になっていたらもっと沈むだろう。


 湿地帯の移動手段と言うと……。


「タリンさん、舟ってあったりしますか?」


「ふね……とはなんでしょうか?」


 おおう、やっぱりそうだよね。走るより泳ぐ方が速い水棲の獣人が、舟を持っている訳ないよね……。


 ――と思っていたら、近くを別の獣人さんが舟を引いて歩いていく。


「あ! あれですあれ!」


「ん――ああ、ハシケの事ですか」


「あれって人が乗って水上を移動できますよね?」


「我々は干魚ほしうおなどの濡らしてはいけないものを保管したり、大量に運ぶ時に使いますが、乗れない事はないと思います……ですが乗ったままで移動はできませんよ。誰かが降りて、泳いで押すか引くかしないと」


「移動はなんとかなる気がするので、一つ貸してもらえませんか? あと、あれば長い棒も」


「はぁ、別に構いませんが……」


 タリンさんは不思議そうな表情をしながら、ハシケを一つ引っ張ってきてくれる。


 要はいかだみたいなものなので、竿で水底を押せば前に進むと思う。


 恐る恐る乗ってみて、シーラとメーアも乗り移ったが、問題なく浮いている。


 シルハ君はさすがに無理なので、今回は留守番だ。


 棒は長槍ながやりみたいな物があったので、それを竿代わりに使わせてもらう。


 早速ハシケを堤防の外に出し。なぜか自然な流れでシーラが竿を持ってくれて、俺達は瘴気の発生点目指して漕ぎ出していく……。


「――お待ちを! まさか瘴気の発生源に行くつもりですか!?」


 漕ぎ出した瞬間、タリンさんが慌てた様子で声を上げた。


「はい。危なくなったら戻ってきますので、ご心配なく」


「危なくなったらって、今すでに危ないでしょう!」


「多分大丈夫だと思います。このハシケはちゃんとお返ししますので」


「そんな事を心配しているのではなく……お待ちください、私もついていきます!」


 そう言うとタリンさんは水に飛び込み、あっという間にハシケまで泳いでくる。


「いいんですか? 瘴気の発生源に行くんですよ?」


「……私はこれでも戦士の端くれです。瘴気に立ち向かうべく死地におもむこうとする者を、ただ見送る事はできません」


 ――おお、なんかカッコイイな。そう言うものなのだろうか?


 ……シーラが感じ入った風にウンウンうなずいているので、そう言うものなのだろうね。


「分かりました、じゃあタリンさんも上がってください」


 そう言って手を伸ばすが、タリンさんは首を振った。


「私は水中の方が機敏に動けますから、ここでいいです。ハシケを動かすお手伝いをいたしましょう」


 そう言ってタリンさんが泳いでハシケを押しはじめると、グッとスピードが上がる。


 おお、これはすごい。


 とてもありがたい……けど、これは危ない予感がする。


 石油流出事故の映像で、油がべっとりとついて飛べなくなった水鳥の映像を観た記憶があるけど、羽毛が空気を含まなくなってフカフカさが失われ、水に浮けなくなるし、断熱もできなくなって凍死するという話だった。


 タリンさんも全身毛皮だから、毛皮には多分水に浮いたり体温を保つ働きがあると思う。


 油に塗れてペッタリしてしまったら、最悪命に関わるかもしれない。


「――タリンさん、ええと……瘴気の元みたいなの物が水に混じっている可能性があるので、水中は危険です。ハシケに上がってください」


 とっさにそれっぽい理由をでっち上げたけど、嘘という訳でもないと思う。


 タリンさんは言葉を失ってハシケに上がってくれ。水に手を浸けて遊んでいたメーアが、顔色を変えて手を引っ込める。


 人間の指先につくくらいなら問題ないと思うけど、説明が面倒なのでそのままにしておこう。



 そうして四人を乗せたハシケは、シーラの巧みな竿捌きによって瘴気の発生点へと近付いていくのであった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1049万8680ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者 アルパの街に残留)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

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