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34 ダム

 元の世界のビーバーっぽい獣人の戦士、タリンさんと出会って。俺は瘴気しょうきの発生を止める方法を。油田火災を消す方法について話をする。


「基本的には、瘴気の発生源に大量の水を流し込めば解決するはずです。そのためにダムを作って、水を溜めて頂けませんか?」


「……溜めた水を流した所で、水が引いたらまた瘴気が発生するだろう。川の流れを変えてしまうという事か?」


「いえ、一回水で覆ってしまえば、それで瘴気は発生しなくなるはずです」


 川の流れを変えてしまっても火は消えるだろうけど、今度は石油流出事故になっちゃうからね。


 環境汚染になってしまうし、石油を利用したい俺としても困る。


 タリンさんは思いっきり胡散臭うさんくさそうな顔をしていたが、それでも俺の話に価値を認めてくれたのか、『長老に話してみよう』と言ってくれた。


「お願いします……できれば俺も話をしたいのですが?」


「それは構わんが、おまえ泳げるか?」


 ……池を見ると、木の枝でできた小島が幾つも浮かんでいる。


 ビーバーと同じならあの中が彼らの住処すみかで、出入り口は水中にあるのだろう。


「泳ぐだけならできない事はないと思いますが、潜ってあの中に入れとかは難易度高い気がします」


 水中で目を開けられる自信はないし、潜っている時に枝に服が引っかかったりしたら、そのまま溺れ死ぬ未来しか見えないからね。


 そして俺は、普通にそういう事になってしまいそうなくらいには運動が苦手だ。


「わかった、では長老を呼んでこよう」


 そう言って、タリンさんはチャポンと水に潜っていく。


 さすが本職、見事な泳ぎだ。



 ……しばらく待っているとタリンさんが戻ってきて、他に三人の獣人も姿を現した。


 ビーバーの顔は見分けがつきにくいけど、真ん中にいる眉毛まゆげが長い人が長老……かな?


「瘴気を消す方法があると言うのはお主か?」


 お、食い気味に話しかけてきた。やはり瘴気の問題はかなり深刻なのだろう。


「はい、そのためにご協力を願えればと思います。具体的には、瘴気の発生源に向かって大量の水を流せるよう、ダムを作って頂けませんか?」


「その話はタリンから聞いたが、本当にそれで瘴気を封じる事ができるのか?」


「絶対にとは言えませんが、かなり高い確率で可能なはずです」


「ふむ……」


 長老は考え込む様子を見せたが、わりと短い時間で顔を上げる。


「よかろう。ではこの堤防を切って、ここの水を流そう。それで足りるか?」


「え……それはありがたいですけど、ここの水を流したら皆さんが困るんじゃないですか?」


「我等が池を作るのは、敵に備えるためじゃ。だが瘴気が発生して以来、この辺りからは魔獣でさえも姿を消した。水も汚れてしまったし、今水がなくなってもなにも困らんよ」


 なるほど……そういえばビーバーって草食なんだよね。


 子供の頃、川をせき止めて作った池で魚を獲って暮らしているのだと思っていたのに、巣作りのためだけの池だと聞いて驚いた記憶がある。


 この人達が草食かどうかは分からないけど、池が防衛のためと言うのは本当なのだろう。


「わかりました、ではよろしくお願いします……仲間が下流にいるので、巻き込まないよう実際に水を流すのはしばらく待ってもらえますか」


「わかった」


「では連絡してきますから、戻るまでお待ちください……もし可能であれば、水が瘴気の発生点に向かうように道を作って頂けると助かります」


「承知した」


「では、よろしくお願いします」


 そう遣り取りを交わし、俺は走ってシーラ達の元へと向かう……。


 実際にはしばらくして息が上がったので歩いたけど、心は全力疾走だ。



 ……そんなこんなでシーラ達の元へ戻り、拠点建設を中断して、一緒に来てもらう。


 帰りはシルハ君が背中に乗せてくれたので、かなりのスピードを出す事ができた。



 ……戻ってきたダムでは獣人さん達が大勢で、水を流す道を作ってくれている。


 100人……には少し届かない感じだけど、結構な人数がいたようだ。これで全員とも限らないけどさ。


 そんな事を考えていると、俺の姿を見つけたタリンさんが近付いてきて長老の所に連れて行ってくれた。


 シーラとメーアを紹介したあと、すぐに計画実行の話がはじまる。


「最初に水を流す時に、方向を定めるための工事は大体終わったぞ。その先まで水路を作るのは瘴気に近付く事になるので、誰もやりたがらん」


「ありがとうございます、それだけで十分です」


「うむ。……それでどうする? もうすぐ陽が暮れるが、実行は明日にするか?」


「うーん……水を流しちゃったらもう方向の修正とか効きませんよね? それならなるべく早い方がいいと思いますけど、どうでしょうか?」


「わかった、確かに早い方がいいな」


 長老はそう言ってうなずくと、タリンさんに指示を出し。タリンさんはそれを受けて現場へと泳いでいく……走るより泳ぐ方が速い辺り、さすがビーバーの獣人だ。


 俺達は堤防の上を歩いて移動し、現場に近付くと、10人くらいで一斉に堤防を壊している最中だった。


 ……彼等の生活の基盤であり、代々大切に守ってきたのだろう堤防。


 それを一部とはいえ壊してもらう事に心が痛むが、誰一人反対する様子がない辺り、それだけ瘴気の脅威が深刻という事なのだろう。



 ――堤防はあっという間に崩され、大量の水が大地を流れ下っていく。


 池はかなり大きいから相当の水量があるだろうけど、上手く油田火災の現場を覆ってくれるだろうか?


 期待半分不安半分で見ていると、気付いたら長老が隣に来ていて言葉を発する。


「本当にこれで、瘴気が収まりますかの?」


「可能性は低くないはずです。……もし失敗して、更に瘴気が広がるようなら、ここを捨ててどこかに移住するのですか?」


「我々は生まれ育ったこの場所を離れる事はありません。若者が新天地に移住する事はありますが、それ以外はここで生き、ここで死ぬのです」


「瘴気の脅威が迫ってきてもですか?」


「はい。実際にそれで滅んだ部族もいます。東の川には二つの部族がいましたが、どちらも瘴気の直撃を受けて全滅してしまいまいました……」


 おおう……そんな話を聞くと実は本当に瘴気なのかと思えてしまう……だけど、実際に燃えている炎を確認したもんね。


 おそらく人間より呼吸器が繊細だったか、水棲なので酸性雨の影響が大きかったかだろう。



「……瘴気、収まるといいですね」


 そうしんみりと言って、俺は茶色い濁流になって流れ下っていく水を見る。


 長老も他の獣人達も、全員が無言で、流れていく水を見つめるのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1049万8680ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者 アルパの街に残留)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

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