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33 遭遇

 瘴気しょうきという名の油田火災への対応を考えるべく、俺は周囲を調べて回る。


 幸いこの煙は魔獣でさえも嫌うようで、周囲に生き物の気配はなく。俺一人でも安全に行動できる。


 シーラとメーアは少し離れた場所。煙の被害が及んでいない場所に拠点を作ってくれているけど、もっといい場所が見つかれば引っ越す予定なので、それも探す。



 ……ひとしきり辺りを歩き回ってみた所、どうやらこの場所は北西方向から風が吹くようで、煙の被害は東から南にかけてが広く、大山脈に達する所まで広がっている。


 俺達もそうだったけど、南から山を越えてきたらこの辺り一帯が瘴気に覆われているように見えるだろう。


 だけど実際は、風上に当たる北西方向では被害が小さく。数キロも離れれば草や木が残っている。


 多少嫌な臭いはするけど、すぐに健康を害したりはしないと思う。


 元アラフォーとしては、子供の頃に光化学スモッグ注意報が発令されて、体育の授業が外での持久走から体育館での卓球に変わる神対応があったのを思い出す。


 ……そんな懐かしさはともかく、周辺の地形を観察してみた所、石油が湧き出している所は窪地くぼちになっているっぽい。


 湧き水が池を作るようなもので、ここでは水の代わりに石油なのだろう。


 元の世界なら石油王になれる所だし、この世界でもワンチャンあるかもしれないが、問題は火を消す方法だ。とりあえず、テンプラ油火災みたいにふたをして酸素を遮断というのはできそうにない。


 やろうとしたら直径10メートルくらいの燃えない蓋が必要になるし、ピッタリ被せるのも難しそうだ。熱くて近寄れないからね。


 ……となると可能性がありそうなのは、やはり近くを流れている川だろう。


 油火災に水をかけてはいけないと教わった記憶があるけど、圧倒的な水量で押し流せばなんとかなったりしないだろうか?


 そんな事を考えながら川の上流を調べに行くと、山脈のふもとだけにわりと勾配こうばいがある。


 ダムを作って水を溜めて、一気に流せばワンチャンありそうな気がする……けど、3人しかいないからダムを作るとなったら相当時間がかかりそうだね……。


 ――などと思いながら歩いていると、急に目の前にダムが現れた……。え、なにこれ、都合よすぎない? もしかして俺望む物を具現化する能力とか会得えとくした??


 思わず両手を前に出して、(カレーライス カレーライス カレーライス……)と念じてみる……が、なにも出現しない。


 どうやら能力は会得していないようだ。シーラやメーアが作ってくれる食事が不満って訳じゃないけど、たまに食べたくなるよね、カレーライス。


 ……逃避していた意識を現実に戻し、改めて見てみるが、確かにダムだ。


 元の世界にあったコンクリート製のごつい奴ではなく、木と石と泥で作られた高さ1メートル半ほどのもの。


 自然にできた風ではなく、明らかに水をき止めるために作られた人工物である。


 そういえばアルパの街は山の民の他に、山脈を越えた向こう側とも少しだけ交易があるという話だった。


 もしかして、これを作った人達が交易相手なのだろうか?


「すみませーん、誰かいますか!」


 ……大きな声を出してみるが、反応はない。


 警戒しているのか、この辺りに住んでいる訳ではないのか。あるいは瘴気しょうきおびえて逃げてしまったのか。


 可能性は色々考えられるけど、とりあえずもっと情報を集めようと、ダムの上に登ってみる。


 ……ダムの上から辺りを見渡すと、そこに広がっていたのは広大な池。堤防はかなりの長さがあって、かなりの手間をかけて作られた事がうかがい知れる。


 そして、池の中には木の枝で作られた小島のようなもの……なんか見た事ある気がするな?


 記憶を辿っていたら、不意に足元から『誰だ』と声が聞こえてきた。


 驚いて下を見ると、そこにいたのは水面から頭だけを出した毛むくじゃらな生き物……カワウソとカピバラを足して2で割ったみたいな生物だ。


 …………あ、思い出した。ダムを作って、できた池に小島を作って巣にする、カワウソとカピバラを足して2で割ったような生物。


 元の世界にいた、ビーバーと同じなのだ。


「えっと……話してるの貴方……ですよね?」


「当たり前だ、他に誰がいる」


 おおう……言葉をしゃべるビーバーだ……いやまぁ、エルフがいる世界だから獣人がいてもおかしくはないけどさ。


 見た目は獣人と言うより、完全にしゃべる動物だけどね。それもわりとカッコイイ系の、若い男の人の声だ。


「失礼しました、俺はアルサルといいます。南から……山脈の向こう側から来ました。


 訳あって移住先を探しているんですけど、この辺りは貴方達の縄張なわばりですか?」


「縄張りという事もないが、昔からここに住んでいる……だが移住はオススメしないな、瘴気を見ていないのか?」


「一応見ました。だからあれをなんとかできたらいいなと思って、その方法を探していた所です」


「なんとかだと? おまえにはあの瘴気をどうにかする当てがあるとでも言うのか?」


「可能性だけですけどね……ところで獣人さんはあの瘴気についてなにかご存知ですか?」


「……海狸かいり族の戦士、タリンだ。あの瘴気は3年前の冬、激しい嵐があった後から発生するようになった」


 おお、戦士なんだ……なるほどよく見たら、水面ギリギリの所にやりもりっぽい穂先が見える。


 ……ちょっと怖いけど、名前を名乗ってくれただけエルフの青年よりは友好的っぽいし、大丈夫だと信じよう。


「瘴気が発生する前のあの辺りがどんな感じだったかご存知ですか?」


「あそこには白い沼があったな」


「……白い? 黒いじゃなくてですか?」


「白い沼だったぞ。樹液のようなドロっとした液体が溜まっていた。動物も近寄らないような、不気味な場所だったな」


 あれ、もしかして石油じゃないのだろうか?


 嵐の後に燃え出したというのは、石油が染み出して溜まっていた場所に雷が落ちたんだと思うけど、石油って黒いよね? 白い石油もあったりするのだろうか?


 ……でもとりあえず、その沼が燃えているのは間違いないと思う。


「瘴気を消すのに協力して欲しいと言ったら手を貸していただけますか?」


「――それはもちろん協力するが、そんな方法があるのか?」


「はい。実はあれ瘴気じゃなくて、油のようなものが燃えているだけだと思うんですよ。だから大量の水を一気に流したら消えないかなと思っています」


 ……お、全然信用していない顔だ。


 でもそうか、石油の存在を知らないと地面から油が湧き出してくるなんて信じられないよね。


「ええと……現場を確認しに行ってみます?」


 そう言葉を発すると、タリンさんの顔色……は毛皮で覆われているから分からないけど、明らかにおびえの雰囲気が宿る。


「あれは瘴気だ。実際あの辺りに住んでいた生物はみんな死んでしまったし、瘴気が濃い場所にいた同族も死んだ。木も枯れてしまったし、うちの一族にも病に倒れた者がいる」


「それはどんな病ですか」


「最初はせきが出て、だんだんそれが激しくなって息をするのが難しくなり、立ち上がる事もできなくなるほど弱って、最後には死んでしまうのだ」


 ……うん、症状を聞く限りは喘息ぜんそくや気管支炎だと思う。


 同族が死んでしまったというのは煙が濃い場所にいたのか、あるいはこの人達の呼吸器が繊細なのか……どちらにしても、あまり時間をかけるのはよくなさそうだ。


「では確認はいいですから、手伝いだけお願いできませんか? それで瘴気の発生が止まれば、お互い利益があるでしょう?」


「それはもちろん、本当に瘴気が消えるなら協力は惜しまないが……」



 半信半疑……どころか8割くらい信じていなさそうなタリンさんに、俺は計画の内容を話すのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1049万8680ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者 アルパの街に残留)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

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