30 エルフとの接触
山の民ことエルフの青年に、人間とエルフの間に産まれた女の子。エリスの母親について訊ねた瞬間、空気がピリッと鋭くなった。
今までは強い警戒だったが、敵意を含んだ声で言葉を返してくる。
「そんな事を知ってどうする?」
「その女の子と個人的に知り合いなので、可能ならお母さんに会わせてあげたい。それが無理なら、せめて近況だけでも教えてあげられたらいいなと思いまして」
「――フン、それは無理だな。あの女は里を追放された。今どこにいるのかも、生きているかどうかさえ分からん……」
おおう、人間との接触ってそんなに嫌われているのか……。
だけどのこの人の言葉には、最後の『生きているかどうかさえ分からん……』の部分に、どこか悲しげな気配を感じた気がする。
……ちょっとつついてみようかな。
「貴方はエリスの母親を知っているのですか?」
「…………」
お、黙り込んでしまった。言いたくないかな?
じゃあ違う方向から攻めてみよう。
「エルフと人間が子を成すのって、よくある事なんですか?」
「少なくともこの200年ではあいつだけだ」
「もっと遡ればあったという事ですか?」
「知らん。人族と子を成した者の話など、話題に上る事さえないからな」
なるほど……という事は『この200年』と言ったのは、この人が実際に見聞きした時間という事だ。
さすがエルフ、若く見えても普通に200歳越えなんだね……。
そして本来話題に上る事さえないほど忌み嫌われる存在について、初対面でしかも人間の俺に話してくれた事を考えると、この人はやっぱりエリスの母親を知っていそうだ。
それも顔見知りとか以上に、親しいレベルで。
「そうですか……ではもしその人が戻ってくる事があったら、娘が会いたがっていたと伝えてください。
俺達はこの山脈を抜けた北側に新しい拠点を作る予定ですから、そこを訪ねてもらえば娘さんに連絡を取れると思います」
「……一度追放された者が里に帰ってきたりするものか」
「では、どこかで会ったらそうお伝えください」
「……覚えておこう」
「はい、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、俺はエルフの青年に背を向ける。
ほぼ間違いなくこの人はエリスの母親の関係者で、しかも里から追放される罪を犯したエリスの母親に同情的だ。
今はこれ以上は無理だろうけど、将来的にエリスの母親について訊けるかもしれないし、友好関係を築けるかもしれない。
わずかな手応えを感じながら、俺達はエルフの青年と別れ。当初計画の第二案に当たる、山脈を越えた北側を目指す事にする。
――歩き始めてすぐ、後ろから声が聞こえてきた。
「山を越えて北に行くと言っていたな、悪い事は言わないからやめておけ」
「どうしてですか?」
振り返って言葉を返すと、エルフの青年は微妙な戸惑いが滲んだ声で言葉を続ける。
「北の地には数年前から瘴気が溢れている。
黒い霧に覆われ、黒い雨や黒い雪が降り、川さえも黒く染まってしまっている。
木々は枯れ、草さえも育たず。地上の動物はもちろん、空を飛ぶ鳥さえ瘴気にやられて地に落ちるほどだ。
住むどころか、行けば体を蝕まれて、命の保証もないぞ」
……これは、どうなのだろう?
俺達を北に行かせないよう、嘘をついて脅している……可能性もゼロではないだろうけど、低いと思う。
エルフが山に住む種族なら俺達が山脈の北側でなにをしようと関係ないはずだし、なによりこの話はする気がなかった感じがする。
俺達が北に向かって瘴気に巻かれて死のうが関係ないと思っていたけど、最後に心変わりして忠告してくれたのではないだろうか?
そしてそれはきっと、俺がエリスの話をしたからで、やはりこの人はエリスの母親を知っている。それも多分、大切に思っているレベルでだ。
恋人……とは違う感じがするから、家族とか友人だろうか?
家族だとしたらエリスとも血縁関係になるので、いつかその辺も特定したいね。
今はまだ無理だろうけど、そのうち信用を得る事ができたら……。
「ご忠告ありがとうございます。ですが引き返して帝国の支配下に戻る訳にもいきませんので、とりあえず様子を見るだけでも行ってみます」
「そうか……」
エルフの青年はそれだけ言い。それ以上引き止める事はしなかった。
人間との交流を最大限避けるエルフにとって、忠告が精一杯の好意だったのだろう。
将来的に仲良くなれる可能性に僅かの期待を感じつつ。忠告を胸に、俺達は山脈の北側を目指して更に山を登るのだった……。
現時点での帝国に対する影響度……0.0%
資産
・1049万8680ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
配下
シーラ(部下・C級冒険者)
メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者 アルパの街に残留)
メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)




