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28 帝国軍

 侵攻してくる帝国軍からのがれるべく、俺とシーラ、メーアは山へと向かう。


 馬のシルハ君も一緒だ。メルツに預けて置いてこようとしたのだが、シーラから離れようとせず。山道に耐えられるか不安はあったが、連れて行く事になった。


 主人に忠実なのか、やっぱりただのエロ馬なのか。疑惑は深まるばかりだ……。


 ――それはともかく、そのまま山奥へ向かっても良かったのだが、夜が迫っていたのと、一度帝国軍を見ておきたかったので、少し登った所で一旦止まり。野営をする事になった。


 周囲には俺達と同じく街から逃げてきた人達がいるが、あまり数は多くない。


 知り合いがいる人はそれを頼って他の街や村に向かっただろうし、周辺に潜んで様子を見ている人達も、あえて山を選ぶ人は多くないようだ。


 山には強い魔獣が出るからね……一年前に森でメルツとメーアを襲ったのも、本来は山に住むグレートベアだった。


 なので周囲にいる人達も、避難民と言うよりは派遣された偵察要員といった感じがする。


 危険である反面、街の様子はよく見えるからね。


 ……夕日に照らされたアルパの街からは、帝国軍が来る東を避け、西に向かう人の列が続いているのが見える。


 あの中にはアルパの街の住民の他に、今日他の街から逃げてきたばかりの人もいるのだろう。


 そうやって避難民の数はどんどん膨らんで西へ向かい……最終的にどうなるのだろうか?


 隣国まで逃げるのか、どこかで追いつかれるのか。


 あんまり想像したくないね……。


 視線を帝国軍が来る東の方に移してみるが、今の所変わった様子はない。


 遅れて逃げてきたのだろう人が、ポツポツ歩いているくらいだ。


 おそらく今晩は隣街で過ごし、明日攻めてくるのだろう。


 俺達も明日に備え、交代で見張りを立てながら、早めに休む事にする。


 明日は色々しんどい日になりそうだからね……。




 翌朝。早くに目覚めた俺は街を見下ろす場所に……というのは嘘で、わりとぐっすり寝て起きたのは昼前だった。


 シーラが魔獣を狩ってきてくれたらしく、メーアが料理を作ってくれている。


 素材を近くにいた人と交換して調味料を手に入れたそうで、具沢山のスープにはちゃんと味が付いているし、野草も入っていてかなり美味しい。


 出だしから俺の役立たずっぷりを晒してしまった訳だが、ワンチャン『この状況でも熟睡できる大人物』的な解釈をしてくれたりしないだろうか?


 そんな妄想をしながらスープを食べていると、偵察に行っていたらしいシーラが戻ってきて『帝国軍が見えました』と知らせてくれる。


 慌ててスープを掻き込んで見晴らしのいい場所へ行く……が、なにも見えなかった。


 メーアもキョトンとしているので見えていないと思う。シーラが嘘をついているとも思えないので、これはシーラだけ特別視力がいいのだろう。


 森の中でも遠くの獲物を見つけて、正確に矢を打ち込んでいたもんね。



 ……しばらく待っていると、ようやく俺の目にも帝国軍の姿が見え始めた。


 油断しているのか、先行偵察部隊なしのいきなり本隊……だと思う。


 立派な鎧を着た騎乗の騎士と、帝国の旗を持った兵士を先頭に、大勢の兵士が延々と続く……かなりの数だ。


 これはやっぱり戦うの無理だなと思っていたら、先頭が街に近付く頃になって、後方に沢山の馬車や荷車が見えてきた。


 輸送部隊かなと思ったが、積んでいる物がどうも軍需品ぽくない。


 一部には食料や武器も見えるが、カゴいっぱいの衣類とか、工芸品。実用ではなく美術品に見えるツボや、絵まである。


 これは……どう見ても略奪品だよね?


 さらに後ろには、荷物を背負った男の人や、若い女の人の姿。首に縄がかけられているのを見ると、奴隷だろう。


 ……多分あの人達も『戦利品』なんだろうね。気分が悪くなる光景だ。


 シーラの表情も思いっきり険しい。父親の事があるから規律が乱れた帝国軍が腹立たしいのだろうし、そんな帝国軍相手に逃げる事しかできない自分も腹立たしいのだろう。


 正規軍なのか盗賊集団なのか分からないくらいの有様だが、それでも数は、見えている範囲だけでも万を超えるくらいいる。


 俺達だけで撃退するのは不可能だし、主力は王都に向かっているはずなので、これは別働隊だ。


 仮にこの部隊を撃退できたとしても、王都を落とした主力がこちらに向かってきたらどうにもならない。


 今の俺達は無力で、できる事はなにもないのだ。この悔しさを覚えておいて、いつか反撃に出る日のためのかてにするくらいだ……。



 くちびるを噛んで見守る中、帝国軍は抵抗を受ける事なく街に入っていく。


 ……火の手が上がったりする事はなかったが、今頃街では略奪が行われているのだろう。


 メーアを逃がしたメルツの判断は全く正しかったし、エリスと居場所である宿屋の無事を祈らずにはいられない……。


 帝国軍は街で略奪を行い。今夜は街で過ごして、明日には次の街に向かうのだろう。野党の群れというか、イナゴの群れという言葉がピッタリだ。



「……シーラ、メーア。見るべきものは見たし、俺達も行動を起こそうか」


 しばらくしてそう言うと、シーラは低い声で『はい』と答えたが、メーアは涙を浮かべて街を見たままだ……メルツの事が心配でたまらないのだろう。


 気持ちは痛いほど分かるけど、今は命を大事にすると約束してくれたメルツの言葉を信じるしかない。


 メーアの肩にそっと手を置くと、メーアも頭ではこのままここにいても意味はないと分かっているのだろう。俺を見て小さくうなずき、立ち上がった。


 帝国軍の大半は明日には別の街へ向かうだろうけど、いくらかの駐留軍は残るはずだ。


 アルパの街の人達にとっては、これから占領下での生活が始まる事になる。


 どうなるかは分からないけど、帝国軍の様子を見ている限りあまりいい事にはならないだろう。



 ……メルツとエリスの無事を祈りつつ、俺達は山の奥へと足を進める。


 行動としては逃げているけど、いつか帝国を倒すという最終目的。それに向かって前進する一歩だと信じて……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1049万8680ダルナ

・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者 アルパの街に残留)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

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